夏休み勇者特論(ヒーロー特別論考)
据え置かれたカメラに向かって,こげ茶色の髪の少年はにやっと笑って見せた.
「初めまして! 主人公の貝塚健(かいづかたける),17歳です!」
少し考え込むように,腕組みをして,
「普段は普通の日本の高校生,夏休みには異世界で勇者をやっています!」
端的すぎて,意味不明な自己紹介である.
「目標は魔王をやっつけること,そんでもってお姫様とハッピーエンド,ファンタジーの王道を貫きます!」
「よし,小説の紹介,終わり!」
健は満足げに頷いた.
しかし,ふと思いついて,
「お姫様の紹介もした方がいいのかなぁ?」
健はステージ脇に向かって,大きな声を出した.
「リルカぁ,ちょっとだけこっちに来てよ!」
すると,薄桃色の髪の女性が遠慮がちにステージに上がってきた.
「何? タケル.」
主人公とは違い,あまり表舞台が得意ではないヒロインだ.
健がちょいちょいと手招きすると,すぐそばまで小走りにやってくる.
「小説の紹介は終わったのでしょう?」
「これがお姫様!」
健は強引にリルカの肩を抱いて,カメラに向かって言う.
「ちなみに俺のものだから,手を出さないように!」
「何,勝手なことを言っているのよ!?」
リルカは真っ赤になって反論した.
「まぁまぁ,リルカも自己紹介してみて.」
簡単に言いくるめられて,リルカはカメラの前に押し出される.
「リルカ・カストーニアです,よろしくお願いします.」
リルカは素直に深深とお辞儀をした.
「今後の抱負は?」
意味なく耳元で囁かれて,リルカは耳たぶまで赤くする.
「魔族を撃退して,平和を,……タケル,近づきすぎ!」
「……ちっ,ばれたか.」
楽しげに舞台中央でいちゃつくバカップルに,舞台脇では他の登場人物たちがあきれていた.
「なぁ,実際,タケルと姫様ってどうなっているの?」
小柄な少年ユーティが聞くと,「さぁ?」と黒髪の青年ファンが答える.
「友達以上,恋人未満ってやつじゃねぇのか?」
もどかしくてじれったくて,ある意味,見ていておもしろい.
「今年の夏こそくっつくのかなぁ…….」
すると亜麻色の髪の女性が,二人をにらみつける.
「くっつかないわよ!」
リルカの乳姉妹であるアリアである.
「タケルの奴,第2話で速攻で姫様に手を出したのよ!? あんなすけべヒーローに姫様を任せられるわけないじゃない!」
主人公健の原動力は,大好きなお姫様の笑顔.
まぁ,それはいいのだが,
「タケルの場合,下心が見え透いているからなぁ……,」
友人の弁護もせずに,ファンはぽりぽりと頭を掻いた…….
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