番外編(新年の祝い)


「ねぇ,セイ.この国では新年のお祝いはどうするの?」
窓辺に立ち,彼女が聞いた.
「こんな状況で何を祝うのだ?」
そっけなく,セイは返した.

王都は他国に占領され,今この街には王都奪還のため兵士たちがぞくぞくと集まってきている.
この緊迫した雰囲気の中で,よくもまぁそんなことが思い浮かぶものだ…….

「え? でも,クランが適当にお祝いするって…….」
セイはため息をついた,クランの副官ブレーメンの苦労が少しだけ分かったような気がした.
「今日が,今年最後の日なんでしょ.」
サラは甘く微笑んだ.

「紅白も除夜の鐘も無いけど……,」
そうしてサラはベッドに腰掛けるセイの隣に座った.
……でも,セイが隣に居てくれる.

去年の大晦日は,父の田舎で過ごした.
祖父と除夜の鐘をつきに,近所のお寺に行った.
鐘の音にあわせて,ぱんぱんと拍手を打ち,
「来年こそは,素敵な恋人ができますように…….」
と願いをかけると,かなり本気で祖父に拳骨を見舞われた.
「煩悩を払う鐘の音に何をやっているのじゃ!」

恋人…….
恋人よね……? セイは,私の…….
隣を見上げると,男と視線が合う.
「なんだ?」
顔を赤くして,サラは手を振った.
「な,なんでもない!」

すると唐突に彼女は頭をこつんと彼の胸に預けた.
「あ,あのね,セイ.今夜0時になったら,キスして.」
するとセイは不思議そうに聞き返した.
「なんだ,そのレイジというのは?」

「え!? えっとぉ……,」
困った,どう説明すればいいのだろうか?
サラは必死に頭を働かせた.
「日にちが変わる瞬間かなぁ……?」
「なんだそれは? 日が落ちたときか,日が昇ったときか?」
真面目に聞き返してくるセイに,サラはたじたじになる.
「え〜と,その間のどっか…….」

するとセイはぷっと吹き出した.
「なんだ,それは?」
そうして優しく彼女を抱きしめる.
「よく分からんが,今夜はずっと抱いていてやるよ.」

別にそうゆう意味で言ったのではないのだけど…….
サラは耳たぶまで赤くして,セイの広い胸に頭を沈めた.
手馴れた様子で,セイはサラの背中の,服のボタンをはずし始める.

と,いきなり部屋のドアが開いて,クランがやってきた.
「サラ,祭に行きたいだろ?」
そして抱き合っている二人に気付いて,慌ててドアを閉めた.
「すまん!」

「……ったく,あいつは.」
閉まったドアに向かって,セイはぼやいた.
サラは驚いてしまって,言葉も出せない…….

すると腕の中で彼女は彼の顔を見上げて聞いた.
「セイは毎年この日には何をやっていたの?」
ボタンから手を離し,セイはサラを見つめ返した.

毎年,日が明けきるまで,セシルとただ二人きりで居た.
互いにまったく違いのない姿を見つめて…….
そうして同じ顔で笑いあう.
しかし,今年は…….

「サラ,愛してるよ.」
軽くつぶやくと,彼女は途端に頬を染める.
「俺にはお前だけだ…….」
彼は彼女の体をしっかりと抱き寄せた…….

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