昔々,あるところに…….
「なぜ,俺がこんなことをしなくてはいけないんだ?」
くすんだ赤い髪を掻き毟りながら,男は苛立たしげに言った.
「まぁまぁ,セイ.さぁ,お城にサラを助けに行こう.」
すると明るい青の瞳の男が楽しげに言う.
「クラン,なぜお前はこんなところにいるんだ?」
セイの質問にクランはにっこりと微笑んで答えた.
「それは王子様役のセイのお目付け役,……いやいや,王子様の従者役だからだよ.」
セイは心底うんざりして,いっそ軽薄なほど明るい茶色の髪の男の顔を見た.
「それじゃ,サラが退屈しているだろうからさっさとお城へ向かおう!」
クランは渋るセイの背をぐいぐいと押した.
勇敢な王子様とその従者の青年は,美しいお姫様が捕らわれているという呪われたお城へと足を踏み入れました.
カキーン.
バキ,ドカ!
どっかーん.
↑セイが城に巣食う魔物を倒す音.
ちなみにクランは面倒だからさぼっている.
行く手を阻む魔物たちを倒し,王子様とその従者の青年はついにお姫様の寝室に辿り着きました.
お姫様は,……お芝居の中だというのに爆睡していました.
「おい,サラ.帰るぞ!」
豪華な天蓋付きのベッドで眠るサラの肩を,セイは乱暴に揺さぶった.
「セイ,台本通りにやれよ.」
クランはセイの乱暴な起こし方に呆れはてた.
「そんな生易しいやり方で,こいつが起きるわけがないだろう!」
するとサラはセイの手をうるさげに叩き,布団をひっかぶってベッドの中にもぐりこんでしまった.
彼女はいつもこうだ,平たく言えば寝起きが悪い.
いや,どう言い繕っても寝起きが悪い…….
セイはこの芝居にも愛する少女にもうんざりして,一つ舌打ちした.
「クラン,あっちを向いていろ.」
ひとつ思いついて,セイは布団の中からサラの顔を引っ張り出す.
「んー…….」
寝ぼけた声を出す彼女の身体を抱き,彼は彼女の鼻をつまんでその唇に唇を重ねた.
半分以上眠ったままで彼女はその口付けに応えたが,すぐに息苦しくなって彼の腕の中で暴れだす.
しかしセイは嫌がるサラの後頭部をしっかりと掴んで,キスの続行を強要した.
「相変わらず,ところ構わず人目構わず…….」
呆れたように肩を竦めて,クランはぼやいた.
目のやり場に困るというか何と言うか…….
やっと彼が彼女の唇を解放したとき,サラはぜいぜいとあえぎながらセイの顔をねめつけた.
「ひどい! なんて起こし方をするのよ!」
すると彼は平然と答えた.
「台本通りだろう?」
確かに台本のとおりだ…….
彼女はうぅっと言葉に詰まった.
王子様の口付けで,お姫様の呪いは解けました.
めでたし,めでたし.
by ナレーション ブレーメン
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