王女さま,婿をとる 第3話


お婿さま,決闘をする


昔々あるところに,それはそれは美しい王女さまが居ました.
髪は光輝くような艶を持ち,瞳は以下略でございます.

そんな王女さまが婚約発表記者会見をしたのだから,王国中右へ左への大騒ぎでございます.
芸能レポーターが「プロポーズの言葉は?」と問えば,王女さまはぽっと頬を染めて答えました.
「……二人だけの秘密です.」
この台詞には,王女さまの元求婚者の方々の血管がぶち切れました.
「あんなぱっとしない子供に王女を取られるとは!?」
「そもそもあいつ,誰やねん!?」
「シルデンテ地方領主ファイス伯の3男坊やないか?」
「そうやそうや,そんなガキがおったような気がするで!」
と混乱のあまりなぜか大阪弁で,会話なさりました.

そんな騒動はつゆ知らず,次期国王陛下はベランダで日向ぼっこをしたり,王都を散歩したりして毎日を過ごしておられました.
次期国王陛下ということで,街の住民たちは少年におやつを与えたり,鹿せんべいを与えたりしました.
次期国王陛下に勝手に餌を与えてはいけませんという,立て看板も効果がございません.
また王都では次期国王陛下の右足に触ると恋が成就するというおまじないがはやり,少年のズボンは恋する乙女たちのためにてかてかになってしまいました.

ある日,少年が公園の噴水に腰掛けて,ぼんやりと日光浴をしていると,
「決闘だ!」
少年はいきなり,手袋を投げつけられました.
「我が名はザイール・クロネツィオ・カイガンダ,カイガンダ家の嫡男にして第3騎士団副隊長を務めるものであ〜る!」
軍服を着込んだ,少年よりもずっと体格のいい青年でございます.
芸能人で言えば関根勤に似て,少しくどい顔でございます.
「リン王女の愛をかけて,決闘を申し込む!」
そして少年よりもずっとずっと,しゃべるのが速いようでございます.
「明後日の午後,軍鍛錬場に来られたし!」
ばっさ〜と真っ赤なマントを翻し,少年よりも存在感のある青年は立ち去りました.

少年はいつものようにぼけーとしていましたが,少年の周りにいた王都の人々は一気に盛り上がりました.
「決闘だ! 次期国王陛下が決闘なさるぞ!」
「応援だ! みんなで応援をしよう!」
サポーターの人々は寄り集まり,大きな日の丸の旗に応援メッセージを書き込みました.
キャッチフレーズはSAMURAI BLUEでございます.
少年はやはりぼーっとしていましたが,ぼーっとしたままでとりあえず城へと帰りました.

王女さまの執務室にお邪魔して,少年が事の次第を報告しますと,
「ぬわんですってぇぇぇ!?」
ぴっしゃ〜ん,と特大級の雷が落ちます.
「ルーイ,まさかその決闘を受けたんじゃないでしょうね!?」
王女さまは美少女にあるまじき形相で,未来の夫を責めます.
「断る前に〜,帰っちゃったよ〜.」
のんきーな笑みを浮かべて,少年は正直に告白しました.
正直さは,少年の美徳でございます.
「だから,がんばって決闘するね〜.」
「勝てると思っているのぉぉぉ!?」
王女さまの雄たけびが,城中に響き渡ります.
それから二日間,少年は王都の剣道場の初心者コースに入門し,一生懸命練習をしました.

幼稚園児に混ざって真剣に鍛錬する少年を,王都の住民たちは皆暖かい目で見守ります.
この時期,携帯ストラップ等の次期国王陛下関連グッズの売れ行きは例年の2から3倍に膨れ上がりました.
日経平均株価も,ゆるやかに上昇しております.
王女さまは,未来の夫がもたらす経済効果に開いた口がふさがりません.
もしもこれで少年が勝利すれば,ど本命のディープインパクトを打ち破る,穴馬中の穴馬でございます.

「に〜し〜,第3騎士団副隊長ザイール〜,」
そしてあっという間に,決闘の日です.
「ひが〜し〜,次期国王ルーイ〜,」
決闘場は満員御礼,王女さまも応援に駆けつけておられます.
中央で少年と青年が互いに剣を構えると,観客たちからおぉぉぉぉと歓声が上がりました.
もはや王都はお祭り騒ぎでございます.
この試合の様子を大画面で観たいと,プラズマテレビが馬鹿売れしたのは言うまでもございません.

「ルーイ! 必ず勝つのよ!」
さらなる経済効果を期待して,王女さまが少年にはっぱをかけます.
「がんばるね〜.」
手をひらひらと振って,少年は愛する恋人のエールを受けました.
大好きな王女さまのために,ここはぜひとも勝たなくてはなりません.
「はっけよ〜〜〜い,」
行司が両力士に,声をかけます.
「のこった!」
電光石火!
一瞬で少年の剣は弾き飛ばされてしまいました!
「勝ったぁ!」
あっけない勝利に,青年は小躍りして喜びます.
しかし,しら〜〜〜〜としらけてしまった雰囲気に,青年はすぐに意気消沈してしまいました.

「ちゃんと,空気を読めよ.」
民衆からブーイングが起こります.
「ここは,最初は押されていた次期国王陛下が最後の最後に逆転する話の流れだろ?」
それが物語の定番でございます.
「せめて試合を長引かせろよ.」
せっかく勝ったのに,誰も喜んでくれません.
青年はとってもショックです,いたたまれません.
それでも勝ったのだからと,王女さまの方へ近づくと,
「ザイール・クロネツィオ・カイガンダ,わたしくリン・コーダ・グーグルネが決闘を申し込みますわ.」
すっと刃が青年の首筋に向けられます.
王女さまは,あろうことか青年に剣を向けられておられました.
「果し合い日時は今すぐ,場所はここ.逃げることは許しません.」
そもそも王女さまは,逃げる余地を与えていらっしゃいません.
どよどよどよと,観衆がどよめき始めます.
「ご冗談を,王女殿下.」
口元をひくひくとさせて,青年は一歩二歩と後退します.
「問答無用!」
剣光一閃!
日の光を浴びて,今度は青年の剣が弾き飛ばされてしまいます.
剣は外野席を遥か高く越え,場外ホームランでございます.
打者一掃の逆転ツーランホームラン!
王女さまはガッツポーズで,塁を回ります.
王女さま第6号ホームランに,球場は大いに盛り上がりました.

「すごいね〜.」
王女さま>(越えられない壁)>騎士の青年>(越えられない壁)>次期国王陛下,でございます.
食物連鎖の最下層に位置する少年は,のほほんと王女さまに拍手を送ります.
「そんな,馬鹿な……,」
騎士の青年はがっくりとうなだれます.
Web上では,orzもしくはOTZと示されることでしょう.

試合は王女さまのさよならホームランで,タイガースの劇的逆転勝利でございます.
熱狂覚めやらぬ甲子園球場から,わたしくNHKアナウンサーの宣芳まゆりがお送りいたしました.

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