王女さま,婿をとる 第2話


お婿さま,あいさつをする


昔々あるところに,それはそれは美しい王女さまが居ました.
髪はTVコマーシャルのモデルのようにきらきらさらさら,瞳には昔の少女漫画のように幾万もの星が輝いています.
王女さまが紅茶に薔薇の花弁を浮かべてスコーンをつまめば,それだけで御伽噺がハッピーエンドになるような破壊力を持っていました.
それ以上は説明するのが面倒くさいので省きますが,まぁ,とにかくものすごく美しい王女さまでした.

しかもそんな王女さまには,結婚すれば国王になれるという大きな大きな特典がついています.
もちろん,求婚者は後を絶ちません.
ただしグリコ食品の,おやつが目当てかおもちゃが目当てかもしくはその両方か,そのような奇妙な問題をはらんでおりました.
「お父様,わたくし結婚しますわ.」
夕食の席で,王女さまが恥らうように発言した瞬間,国王陛下はびっくりして椅子から転がり落ちてしまいました.
「ま,まじで?」
「えぇ,さっそく紹介してよろしいかしら?」
にっこりと,王女さまは見る人すべてを至上の幸福へと誘うような微笑を見せます.
「えええ〜〜〜〜,待って待って.僕,まだ心の準備が出来ていないもん.」
駄々っ子のように国王陛下はごねますが,隣の席のお后さまがいいわよと笑います.
「リンが選んだ男性ならば,特に問題は無いでしょう.」
お后さまは,おほほと優雅に笑い声を立てます.

「実は……,」
すると王女さまは,困ったように言いよどみました.
この猪突猛進型の王女さまには珍しいことでございます.
「……さっきから,隣に居るこの人なんですが……,」
「え?」
国王陛下とお后さまがよくよく目を凝らして王女さまの隣の席を見ると,そこには一人の少年が座っておりました.
ただあまりにも少年に存在感が無かったために,誰も気づかなかったのです.
「お久しぶりです〜,王様〜.」
ぼ〜んやりとした少年は,ぼ〜んやりとした調子で挨拶をします.
まるで水で1000倍薄めた墨のように,ぼ〜んやりとした少年でございます.
「えぇっと〜,誰だっけ〜?」
少年のぼんやりにつられて,王さまの台詞の語尾も伸びます.
「ルーイです〜,シルデンテ地方領主の3男坊ですよ〜.」
「あ〜,思い出した〜.ファイス親父のとこのルー坊かぁ〜.」
ぼけらーとした自己紹介に,ぼけらーとした握手を交わします.
「大きくなったなぁ〜.」
「うざい,親父.黙れ.」
ほげげげげげ〜としていると,王女さまがしかめっ面で吐き捨てました.

しかし,気を取り直しまして,
「というわけで,お父様.この結婚を認めてくださらないかしら?」
王女さまは,愛らしい仕草で首を傾げます.
「ん〜〜〜〜〜,」
国王陛下も,愛娘に負けじとしかめっ面をおつくりになられます.
もちろん結婚を認めるつもりなのですが,簡単に認めては父親としての威厳が保たれません.
ここはデモンストレーションとして,ちゃぶ台の一つか二つくらいひっくり返さなくてはならないでしょう.
もしくは俺を倒して行けか,俺の屍を越えてゆけでしょうか.
多少裏表があるご性格とはいえ,王女さまは国王陛下の大事な大事な一人娘でございますから.

国王陛下がクイズミリオネラのみのもんた級に間をとっていると,
「認めませんわ!」
といきなりお后さまが叫びました.
「なっ,なんでですの!?」
これにはさすがの王女さまもびっくりでございます.
「リン,あなたはこの母を愚弄するつもりですか!?」
「そんな……,愚弄するつもりはありませんわ!」
お后さまは,ぶるぶると拳を震わせて言いました.
「どうして,どうしてあなたはジャニーズ系を連れてこないのです!?」
お后さまの夢,それは美少年な義理の息子ができることでした.
「ジャニーズ系が駄目なら,せめてメガネ男子を……!」
「お母様,横暴ですわ!」
あまりにも理不尽な母親の要求に,王女さまを憤りを感じられました.
「ルーイは確かにぶさいくだし,ださいし,ぱっとしないし,裸眼だし,脱いだらすごいっていうわけでもないし,」
愛する人を守るため,王女さまは剣の代わりに弁をふるいます.
「頭も悪いし,剣技も乗馬も下手くそだし,おしゃれな会話もできないし,楽器もからきり駄目だし,」
次期国王陛下は,ひどい言われようでございます.

「何一ついいとこが無いけれど……!」
無いけれど……,その先の言葉が重要でございます.
「無い,けれど……,」
ファイトです,王女さま!
王女さまの愛が今,試されているのです.
「けれど……,」
けれど王女さまの声はどんどんと小さくなってゆきます.
「……とにかく,何が何でも結婚は認めていただきます!」
ばんっとテーブルを叩いて,王女さまはごまかすように大声を上げました.
「認めません!」
ばばんっと,今度はお后さまがテーブルを叩きます.
対抗して,さらにばんばんと王女さまがテーブルを叩きます.
がっしゃんがっしゃんと食器が鳴り,どんがらがっしゃんとどこか遠くでちゃぶ台が飛んでいます.

国王陛下の食卓は,どんどんと荒れてゆかれます.
お味噌なら永谷園でございます.
「大変ですね〜.」
そもそもの元凶の少年が,のどかーにお茶をすすります.
国王陛下は「誰も僕の相手をしてくれない.」と,のの字を書いていじけます.
次期国王陛下のお披露目まで,あと3日.
そのとき,歴史が動くのでございました…….

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