花々のたくらみミツバチのたくらみ
おまけ 魚心あれば水心
「本当にごめんなさい!」
夜、俺の部屋で、綾子は謝り倒していた。
「まだ怒っている?」
ちらりと、上目づかいに俺を見る。
怒ってないよと答えそうになって、俺はそっぽ向いた。簡単に許すことはできない。なんせ彼女はずっと、リヴァイラと通じていたのだ。
完璧な女性と思っていたリヴァイラは、猫をかぶっていた。うそはつけないと考えていた綾子は、隠しごとが上手だった。
ここで簡単に許せば、次は何をしてくるか想像がつかない。いきなり浴場に入ってきたりメイドになったり、彼女をこれ以上自由にさせてはいけない。
さらに、父も母もメイドたちも味方につけているわ、ゲイルとも仲よくなっているわ。どれだけ裏で画策していたのだ、と頭が痛い。
俺はふと名案を思いついた。
「綾子、許してやる」
しかめっ面を作って言う。
「ただし条件がある」
「条件?」
間近から、黒の瞳がのぞきこんできた。俺は彼女の柔らかい体を抱きしめて、でれっと顔を崩した。
「また浴場で、俺の背中を流してくれ」
あのほとんど肌の隠れない衣装を着て、お湯を流してほしい。そして服を脱いで、一緒に湯に浸かって、――俺の頭の中は、楽しい想像でいっぱいになった。
綾子は、しばし黙った後で、
「いいよ」
と返事した。彼女は少し体を離してから、にこっと笑う。俺はうれしさを抑えて、まだ怒っている表情を作った。
「なら許してやる」
「うん、ありがとう」
彼女は俺の腕から抜けて、部屋を出ていく。
「おやすみなさい、また明日ね」
手を振ってきたので、俺は手を上げて返した。あぁ、明日が楽しみだ。
しかし、このときの俺は知らない。メイドが綾子の衣装の帯をものすごく複雑にきつく結び、それをほどいている最中に、彼女が浴場から逃げることを。
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