君がとっても好きだから!


作品タイトル……きみがとっても好きだから!
作者……宣芳まゆり

登場人物
少年……男子高校生。平凡な容姿。
少女……女子高校生。カールのかかった長い髪の美少女。お嬢様。猫が好き。
母親……少女の母親。おっとりとしてのん気。
父親……少女の父親。親ばか。
猫……凶暴でおちゃめ。五匹居る。

○男子高の校門前・下校時間

校舎からはチャイムの音が響いている。
少年(僕には、幸福の鐘の音に聞こえる)
少年の前で、少女が何事かをつぶやき、顔を赤らめてうつむく。
少年「僕なんかでよかったら……」
少年と少女の周囲の、下校途中の男子高校生たちが冷やかしと羨望の眼差しを投げる。少女はとても美しく、お嬢様学校として有名な女子高の制服を着ている。初対面だったが、少年は喜んで、少女の告白を承諾した。

○男子高の教室・休み時間

うらやましいとはやし立てるクラスメイトに、少年は曖昧な笑みを浮かべる。
少年(付き合ってから、一ヶ月が経ったけど。僕には彼女のことが分からない)
少年は窓の外を眺める。五月の空が気持ちよい。

○休日の街中・ファーストフード店内

少年「何を食べる?」
少女「……」
少女は困ったように口を閉ざし、俯いてしまう。少女はうっすらと化粧をしている。

○休日の街中・路上

街を歩いていた少年と少女は足を止めて、露天商のアクセサリーを見る。少年は「何か買おうか?」と言いかけたが、少女の服装、身に着けているアクセサリーの立派さに、何も言えなくなってしまう。少女の鞄には、猫のキーホルダーが付いている。

○少年の自宅・夜

自室のベッドに寝転がり、少年は携帯電話をもてあそぶ。画面には少女のアドレスが映っている。
少年(僕と彼女は、釣り合わない)

○下校時・電車の中

少年(たまには違うルートで帰るか)
少年が乗った車内には、偶然にも少女の姿がある。制服姿の少女は友人たちとともに居て、大変楽しそうに大口を開けて笑っている。少年には気づかない。

○少年の自宅・夜

自室のベッドに少年は寝転んでいる。携帯電話で少年は、少女に「別れよう」とメールを打つ。するとすぐに電話が返ってくる。少年はおそるおそる電話に出る。
少年「もしもし……?」
返事は無く、しばらくの沈黙の後で、にゃあという猫の鳴き声が聞こえ、通話が途絶えた。
少年「馬鹿にしているのか!?」
怒った少年は、電車を乗り継ぎ、少女の自宅へと向かう。

○少女の自宅・玄関

少女の家は立派な外観の一軒家であり、少年は少し躊躇したが、チャイムを押した。すぐにドアが開いて、少女が出てくる。少女の姿に少年は唖然とする。少女はみつあみのお下げをしており、眼鏡をかけている。ジャージ姿で猫を一匹抱いており、目は泣き腫らして真っ赤になっている。
少女「あんたなんか、大っ嫌い!」
少女は猫を少年に押し付ける。猫は驚いて、少年を引っ掻く。少女は泣きながら、家の奥へと逃げる。代わりに少女の母親が玄関にやって来た。母親の足元には、猫が一匹居る。
母親「あらあら、ごめんなさいね〜」

○少女の自室

母親に案内されて、少年は少女の自室の前まで行く。部屋からは子供のような泣き声が聞こえてくる。少年は一応、ノックをしてから入った。ベッドに突っ伏して、少女が泣いている。部屋は散らかっており、ファッション雑誌が床に落ちている。二匹の猫が少女のそばに居る。
少年「……ごめん」
少年は頭を掻いて、ばつが悪そうに謝る。少女は少年をにらみつける。
少女「私の何がいけなかったの!? ちゃんとおしゃれして、お化粧だってがんばっていたのに!」
少女の頬は、涙で濡れている。
少女「ハンバーガーなんか食べたら、口紅が落ちるもん! それに私、周りが引くほど、大食いなんだからぁ!」
少女の悪態に、少年はたまらずに笑ってしまう。
少年「こっちが素?」
少女「悪い!?」
少年「悪くない」
少年は少女のそばにしゃがみこむ。ジャージ姿の少女を、少年は眺める。
少年(お化粧をしているときよりも、ずっと……)
少年は、少女の目じりにたまった涙を、おやゆびの腹で拭う。少女はびっくりして、黙っておとなしくしている。
少年(こんなにもかわいい人だとは思わなかった)
少女と見つめあって、少年が口を開こうとした瞬間、ごほんとわざとらしいせきが聞こえる。
父親「やぁ、初めまして。君が、私のかわいい愛娘を泣かしてくれた犯人かな?」
父親の笑みは引きつっており、手には凶器の猫が一匹居る。少年は冷や汗を流す。猫の爪が、しゃきーんと光る。

○閑静な夜の住宅街

少年の悲鳴と、猫の鳴き声が響き渡る。

○少女の自宅・居間

五匹の猫に囲まれて、少年は引っ掻き傷、噛み傷だらけである。少女がやってきて、不安そうに少年の顔を覗き込む。少年は安心させるように、にこっと微笑んで見せた。途端に一匹の猫がじゃれて、少年の肩にかぶり付く。
少年(彼女のかぶっていた猫はとれたみたいだけど、……次はまたたびでも持ってこよう)
少年は人知れず、涙を隠した。


『原作×漫画』第二回原作応募作品


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