手のひらから魔法07


手のひらから魔法,指先には奇跡.
恋人の背中を追いかける.

「先生,イッチー先生!」
廊下を走って追いかけると,なぜかイッチーの足はますます速くなる.
「待ってってば! こんなにも必死に追いかけているのに,何で止まってくれないの!?」
両想いなのに,なんで逃げるの?
「イッカ!」
するといきなり後ろから,首根っこを掴まれた.

「あ,唯ちゃん! おはよー!」
あれ? 唯ちゃん,顔が怒っている.
「イッカ,馬鹿!」
が〜〜〜ん,馬鹿に馬鹿って言うなんて,ひどいよぉ.
「昨日,イッチー先生と高野先生にあれだけ怒られたのに,何をやっているのよ!」

怒られた……?
あ,そうだった!
学校では生徒と先生の振りをするんだった!

昨日のリプレイ.
イッチー先生「内緒だと,秘密だと,何度も言っただろ!?」
高野先生「まぁまぁ,一村先生,落ち着いて.素直でいい子じゃないですか.」
唯ちゃん「あんた,馬鹿.一応,禁断の恋なんだよ.」

「えぇっとぉ〜〜〜〜〜,」
たりたりたりと汗が流れる.
「ほらっ,教室へ行くよ!」
ずるずるずると引きずられてゆく,遠くなるイッチーの背中.
え〜〜〜ん,おはようの挨拶がしたいよぉ…….

手のひらから魔法,もちろんタネはこの手の中にある.
遠ざかる恋人を,ちらりと眺めやる.

……ったく,何をやっているのだ,壱架は.
昨日の夜の電話でも,あれだけ秘密の恋だと念を押したのに.

幸いにして高野先生は,誰にも言わないでおくとおっしゃってくださったが……,いや,もしかしたら,皆,見て見ぬ振りをしてくれているのかもしれない.

いいのか,これで……?
俺は脱力しそうになる背中に叱咤を入れて,一時間目の教室へ向かった.

秘密の恋,なんて艶っぽいものじゃない.
明日の休日は,内緒のデートとやらを敢行する予定である.

ただ,ひとつ不安があるんだ,壱架.
まさか外でも「イッチー先生!」なんて大声で呼ぶつもりじゃないだろうな…….

秘密の恋,けれど不幸にはさせない.
それが,俺たちの恋愛ってものだろう?

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