「で,私がシンデレラなわけ?」
みすぼらしい格好をした漆黒の髪の少女は,天に向かって聞いた.
すると天から声が降ってくる.
「うん,だって一応水鳥がヒロインだし.」
本邦初公開,作者の声である.
「となると,王子様役はガロード?」
不機嫌な顔をまったく隠さずに,少女はさらに訊ねた.
「まぁまぁ,それはお城に行ってからのお楽しみ.」
すると少女は不機嫌どころか,天に対して喧嘩を売ってくる.
「そんなことより,作者も舞台に降りてきなさいよ!」
「え!? ……それはやだ.」
産みの親のくせに,妙に及び腰である.
「だって水鳥,私のこと嫌ってるやん.」
どうでもいいことだが,作者は大阪弁であった.
「当たり前でしょ!」
少女はむっとして叫んだ.
「よくも第10章でガロードに大怪我を負わせてくれたわね!」
するといきなり,どろんと効果音付きで魔女が現れた.
少女は驚いてそちらの方を見やる.
「……ミドリ様.」
「ラオ将,ぶっ!」
思わず少女は吹き出してしまった,筋肉隆々たる青年が魔女の衣装に扮しているのだ.
ラオには悪いが,その姿は無気味以外の何者でもない.
「ラオ将軍が魔女役なの?」
本当はそんなことよりもその衣装は何なのだと聞きたいのだが,少女は柄にもなく遠慮した.
「えぇ,……ミドリ様,笑ってくださって結構ですよ.」
すると青年はぶすっとした顔で言った.
「出かける前に,散々アイリに笑われましたので.」
妻は失礼にも彼の姿を指差して,腹を抱えて大笑いを演じたのである.
「それではミドリ様,表にかぼちゃの馬車を用意しましたので,お城の舞踏会に行ってください.」
ラオが言うと,魔法であっという間にドレスアップされた水鳥は頷いた.
豪華絢爛な衣装に少女の心は少し浮きだつ.
もうこうなったら,このドレス姿をガロードに見せてそれで良しとしよう.
少女がドアを開けると,外ではかぼちゃの馬車が待っていた.
そしてその御者台には,
「ガロード!?」
紺色の髪,紫紺の瞳の少年が座っていた.
「ミドリ.」
少年は嬉しそうに微笑んだ,少年の見立てたドレスがものすごくよく少女に似合っている.
「なぜこんなところに居るの?」
しかし少女は怒りながら,少年に詰め寄った.
「かぼちゃの馬車の御者役だからだよ.」
無邪気な顔で答える少年に対して,少女は長いため息を吐いた.
「ガロード,シンデレラのストーリーは知っているの?」
少女の問いに,少年は首を振った.
すると少女は少年をきっと睨みつける.
「お芝居の中とはいえ,私が違う人を結婚してもいいの?」
それは困る.
しかし少年は真面目な優等生的な答えを返した.
「いや,でも,今回はこうゆう企画だし,」
すると少女は漆黒の瞳でまっすぐに少年を見つめた.
「私はそんなことより,ガロードの気持ちを聞いているの.」
嘘も妥協も許さない眼差しだ.
少年は身軽に御者台の上から飛び降りた.
「ミドリ,サボろう.」
少年が言うと,少女は楽しそうに頷いた.
「うん!」
そうして二人手に手を取って歩き出す,かぼちゃの馬車を放っておいて…….
てゆうか,ストーリーを完璧に無視して…….
その頃,お城では王子様役のカイジンが夕食を用意して二人を待っていた.
「陛下もミドリ様も遅いですね.」
すると意地悪なお姉さん役のテディが答える.
「早く来ないと料理が冷めるのに…….」
こちらも負けず劣らず不気味な女装である.
「案外,二人でサボっているのでは.」
テディは面白そうに微笑んだ.
少女の手を取って歩きながら,少年は聞こえるか否かの声でつぶやいた.
「そのドレス,似合っているよ.」
驚いて少女が横を見ると,少年の顔は真っ赤だった.
柄にもないことを言っちゃって……!
少女はくすくすと笑った.
「料理は冷めても,二人の愛情は冷めないということで.」
テディがいたずらめかして言うと,カイジンは呆れたように聞いた.
「まさかこれがオチですかね?」
しっかりと繋いだ手.
初めてこの手を繋いだときは,もう二度と逢えないと思った.
でも,もう二度とこの手を離さない.
二人でずっと歩いて行こう…….
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