サリナとライムの危険なバレンタイン


このショートショートは「Cafe Fayerie」様の「キャラで雑談BBS」に投稿しました.


男には,やらねばならないときがある.
「サリナ,これはいったい何だ?」
可愛らしい花の小皿に盛られた,正体不明の球状の物質を見て,少年は眉をひそめた.
大きさは小指の先ほどで,光沢のある黒色をしている.
「チョコレートだよ,ライム!」
なぜか長い髪の先を焦がしている少女が,うれしそうに笑った.
しかも少女は,一体何をしていたのか,小麦粉まみれの状態である.

チョコレートという食物は,少年も知っている.
ニホンという国で,恋人同士が食べなくてはならないものらしい.

「食べて!」
無邪気に勧める少女の,服の袖には不可思議な油汚れが付いていた.
少年は腕を組んで考える.
このチョコレートとやらは,どのようにして作製されたのか?
もしも少女が調理していたのならば,腹を下す程度で済むだろう.
しかしもし万が一,これが魔術によるものならば……,
自分の想像にぞっとして,少年は我が身を抱いた.

目の前では恋人がじっと少年を見つめて,その決断を待っている.
このチョコレートと想定される物質,食べるべきか否か!?
少年は……,


***


「よしっ,行くぞ!」
覚悟を決めた少年は,フォークを取る!
口の中ですばやく防御の呪文を唱えながら,チョコレートを突き刺すと,

すぱぱぱぱ〜〜〜〜ん!

チョコレートは破裂し,小麦粉がもうもうと室内を舞った!
ごほっごほっとむせながら,少年はこの程度で済んだことに安堵する.
「そ,そんなぁ…….」
小麦粉を全身に浴びながら,少女が絶望の声を上げる.
「魔方陣も呪文も間違っていなかったのに…….」
災厄が無くなったことで余裕のできた少年は,少女を優しく慰めようと,
「あ!」
するといきなり少女の声が弾む.
「まだちょっとだけ,残っている!」
……少年の笑みは引きつった.

さぁ,この不発爆弾,……ではなくチョコレート,食べるべきか否か?


***


古来より恋の魔法とは千変万化,変幻自在であり,黒から始まり白へと,そして流血の赤へと変化するのかもしれない.
チョコレートと思わしき物体の香りをかぐと,焼け焦げた匂いがする…….
彼女の手作りなら毒入りでも喜んで食べる,などと言う男が居るのならば顔を見てみたいと,少年は心の中で罵った.

少年の特攻部隊隊員,……ではなく恋人としての真価はここで決まる!
「俺はやる!」
チョコレートにフォークを突き刺した瞬間,黄色の閃光がほとばしる!
少年はとっさに,背中に居る少女をかばう.

ピシャピシャ,ドンガラガッシャ〜〜〜ン!

――あまりの被害の大きさに,ここが喫茶店ではなく掲示板で良かったと,作者は思うのであった…….

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