「サリナ，それ，何やねん？」
ベッドに腰掛けて，金の髪の少年は訊ねた．
「熱さましの飲み薬やで，ライム．」
ベッドの脇に置いてある椅子に座って，少女は微笑んだ．
少女はおどろおどろしい緑色の液体の入ったカップを手に，少年の側に寄る．
「ちょぉ苦いかもしれへんけど，効き目はばっちりやから！」
「味よりも，色がえげつないか？」
少年は心底嫌そうに聞き返した．
「うちのばあちゃん直伝の薬や．」
少女は自信満々に，少年にカップを手渡す．
それはこの薬に効果があるという根拠なのだろうか……？
少年は心から，少女が作った怪しげな溶液を疑った．
「こんな怪しいの，飲まれへん．」
薬を返されて，少女はむしろ嬉しそうに笑った．
「自分，子供やなぁ，ライム」
にこにこにこと，満面の笑みを浮かべる．
少年がむっとして言い返そうとすると，少女が唐突に魔法の呪文を唱えた．
「精霊さん，うちのかわいい子に，飴ちゃんくれへんか？」
ぼわっとカップから湯気が吐き出される．
緑色の液体は，さらに少年を不安にさせるような色に変化した．
「今のは，苦い薬をめちゃ甘！ にする魔法やで．」
少女は得意げに微笑む．
「ますます怪しいわ！」
金の髪の少年は，まったく表情を取り繕わずに答えた．
「そんなノリ突っ込みせんでも，大丈夫やって……，」
少女の，のん気な笑顔を少年はにらみつける．
「……熱はひいたから，もうええやろ．」
薬から逃れるために，あからさまな嘘をつく．
「どこがやの？」
少年のでこに手をあてて，少女が拗ねたように言い返す．
「飲みたくないねん．」
少年は体を引いて，少女の手を避ける．
「甘いって言ってるやん，」
逃げる少年を追いかけて，少女はベッドの上へ乗り込む．
「味以前の問題や．俺，まだ死にたない．」
少女がカップを少年の口に押し当てると，少年はその匂いに顔をしかめた．
コンコン．
二人が言い争っていると，ドアをノックする音がした．
「サリナ，殿下の具合はどうだい？」
薄水色の髪の青年，スーズである．
――続く
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