Change the world!


「運命を信じますか?」
怪しげな辻占の怪しげなせりふに,私は常識人としてのまっとうな答えを返した.
「なんと嘆かわしい!? だからそんな人生に疲れきった顔をなさっているのですね.」
「失礼な,誰が人生に疲れているのよ.」
ぴちぴちの女子高生を捕まえて,何を言うのだ.

「まぁ,いいでしょう.あなたが夢も希望も持てない灰色一色の人生を送ってきたのだとしても,」
黒フードのおじいさんは,やれやれと首を振る.
「一応,夢も希望もあるわよ.」
別に満ち満ちているっていうわけじゃないけど,
「恋に落ちてしまえば,あなたの目に映る世界は変わる.」
うっとりとおじいさんは両手を組み合わせる.
やばっ,この人,宗教入っているかも……!
じりっと一歩下がる,逃げなくちゃ,
「交わることの無い平行線,けれど逃れられない運命の出会い,」
私は占いブースの中から,ダッシュで逃げ出した!

ファッションビルの中を,全速力で走って逃げる.
「感謝してください,本来あなたと殿下は出会うことすらできなかったのですから.」
なのに,声だけが追いかけてくる.
どんどんと大きくなる.
「私の占いはすばらしい,あなたこそライツ殿下の運命の恋人.」
あちこちで人とぶつかり合う.
みんな怪訝な顔をしている.

バイト料が入ったからといって,好奇心なんかで占いなんて受けるんじゃなかった.
怪しい,怪しすぎる!
ビルの入り口,透明な扉の向こう,真夏の太陽に照らされたアスファルトの町並み.
扉を開いて,くぐった瞬間,
「ようこそ,ロッターテ王国へ!」
「は,はいぃ!?」
緑なす草原に,私はへたり込んだ.

黒フードをはずして,おじいさんは満面の笑みで私の前に居る.
「な,な,なんで!?」
心地よい風の吹く草原,遠くに見えるのは真っ白いお城と赤茶けた町並み.
「理由などありません,それが恋です.」
得意げなおじいさん,いや,意味分からんし.
「こ,ここはどこ!?」
私は誰とまではいかないが,ここはどこ?

「ここはロッターテ王国と申したでしょう.」
差し出されたおじいさんの手をとって,私は立ち上がる.
「いや,その固有名詞はわかったら,ここはどこ?」
高くて青い空,白い雲.
シロツメグサが咲き乱れる草原.
「そう,愛に名前など必要ないのです.」
呆然,唖然,自失,騒然.
常識人である私は,とっさの出来事に弱い.
「さぁ,城へ向かいましょう.」
暗転,撃沈,あぁ,真っ暗.

Change the world, 退屈な世界を抜け出して,
……いや,別に退屈でいいし,
恋と冒険の旅に出よう!
……ちょっと待った! そうゆうのはやりたい人だけがやればいいってば!

「うがぁあ!?」
ベッドから跳ね起きる.
ぜいぜいと息を切らして,あぁ,私,変な夢を見ていた.
「良かった,目が覚めて,」
ベッドは超豪華天蓋つき,脇机の上の花瓶には白ゆりの花が,……活けてあるわけないだろ,私の部屋に!?
「ここはどこだぁ!?」
ベッドから滑り降り,近くにあった窓のカーテンを開ける.
外は真っ暗だった.

「ど,どうしよう!?」
無断外泊だ,お母さん,絶対に心配している!
制服のポケットの中から携帯電話を取り出して,
「すごい! アンテナ3本立っている!」
明らかに日本じゃなさげなのに,さすが学生半額,A○ by K○DI!
短縮3番,さっそく家に連絡を,
「おはようございます!」
「うわぁぁ!?」
背後からの無駄にでかい声に,携帯電話が自由落下.
「うそぉ!? 壊れた!」
やっと買い換えたカメラ付きだったのに!

「さぁ,ライツ殿下に逢いに行きましょう!」
黒フードおじいさんの顔をにらみつける.
「こ,これ,高かったのにぃ!」
「運命の出会いを前にして失神してしまうとは,そのような軟弱な精神ではライバルたちに勝てませんよ.」
「勝たなくていいし,……てゆうか,私の話聞いていないでしょう?」
とりあえず,壊れた携帯をポケットに仕舞う.

「恋は盲目,あばたもえくぼです.」
なぜ,ことわざ? しかも微妙に意味が違うし.
「さぁ,逸る胸のときめきを抑えつつ,殿下の元へ!」
強引に背中を押される,なんだかもう,よく分からんが,
「分かった! 殿下に会う!」
こぶしを挙げて宣言すると,おじいさんは感動,感涙,満塁ホームラン.
「そう,その意気です!」

そしておじいさんに導かれつつ,部屋の扉を開くと,
「運命を信じますか?」
「はい?」
私はなぜか,ファッションビルの中の占いコーナーに居た.
「運命とは自らの意思で作ってゆくものです.」
背広姿の優しげなおじさんがにっこりと人好きのする笑顔を見せる.

……え?
私,白昼夢でも見ていたの?

ポケットの中の携帯電話を取り出す.
時刻は18:37,もちろんカメラは壊れていない.

なんだ,夢だったんだ!
私はおじさんの占いを適当に聞き流して,「ありがとうございました.」と言って,占いブースを出た.
そう,これでいいのだ.
私はまったき現実世界への帰還を果たし,
「そうそう,お嬢さん,」
おじさんに呼びかけられて,振り返る.

おじさんはにやっと人の悪い笑みを浮かべて,
「ライツ殿下に逢いたくなったら,すぐに電話してくださいね.」
「え……?」
瞬間,携帯電話が鳴り出す.
発信元,ロッターテ王国王宮内内線電話.
「うそぉ!?」

Change the world, 退屈な世界を抜け出して,恋と冒険の旅に出よう!

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