香月さんは,キスははじめてなのだと思った.
僕は,……ごめん,実は最後まで経験済み.
逃げようとする香月さんの頭を捕まえて,僕は長い口付けを交わす.
こんなことをして,これから先,いったいどうすればいいのだろうか?
疑問を打ち消すように,僕は何度も香月さんの唇を奪った.
僕のことを弟としか思っていない香月さん,幸せいっぱいの父に優しい義母.
駄目だ,考えるな! 考えてしまうと,
力のゆるくなった腕の中から,香月さんは逃げ出す.
「す,すまなかった……,」
真っ赤な顔で,香月さんはなぜか謝った.
「勝手に読んでしまって,」
何を?
香月さんは慌ててベッドから立ちあがる.
しかしふらっと倒れ込みそうになる,僕は香月さんの身体を支えた.
「つい好奇心に負けて,軽い気持ちで読んでしまったのだ.」
じゃぁ,僕も欲望に負けてもいいですか…….
そっと抱き寄せようとすると,香月さんはさっと逃げだす.
「本当に悪かった.」
香月さんは完璧に僕に対して怯えている.
ドアの方へとどんどん逃げてゆく.
「反省している,」
僕は完璧に振られた,いやそれよりももっと悪い.
怯えられている,……僕は嫌われた.
ガン! 大きな音を立てて,ボールはゴールから弾き飛ばされた.
高校の体育館で,僕は行儀悪く舌打ちする.
部活もとうに終わった体育館に一人,同じく夜練に付き合ってくれていた後輩たちももう帰った.
僕は家に帰りづらくて,ただ一人,こんなことをしている.
軽くその場でドリブルして,目の前にあるゴールをきっとにらみつけて,再びシュートを撃つ.
いらいらしているのが自分でもわかる,さっきからスリーポイントがまったく入らない.
ゴールにぶつかりもしなかったボールは壁にぶつかって,出口の方まで転がっていった.
ボールを追いかけてゆくと僕は,体育館の出口に信じられない人影を見つけた.
「香月さん!?」
しかもうちの高校のセーラー服を着ている.
「なぜ,ここに!?」
そしてその制服は何なのですか?
「私はここの卒業生だ.」
それは前にも聞きましたが,22歳にもなって何をやっているのですか?
しかも開き直っているのか,香月さんはなんだか偉そうな態度だ.
「一樹,なぜ家に帰ってこないのだ?」
長い髪をみつあみのお下げにして,いまどきこんな女子高生は居ないと思う.
「それほどまでに怒っているのか?」
しかも眼鏡だし,……どうして香月さんはこうなのだろうか.
「本当にすまなかった.一樹,私と一緒に家に帰ってくれ.」
香月さんの眼鏡の奥の瞳が潤んでいた.
「香月さん,」
駄目だ,僕はもう限界だ.
「僕はあなたの弟ではなく,恋人になりたいのです.」