曖昧な僕ら04


香月さんは,キスははじめてなのだと思った.
僕は,……ごめん,実は最後まで経験済み.

逃げようとする香月さんの頭を捕まえて,僕は長い口付けを交わす.
こんなことをして,これから先,いったいどうすればいいのだろうか?
疑問を打ち消すように,僕は何度も香月さんの唇を奪った.

僕のことを弟としか思っていない香月さん,幸せいっぱいの父に優しい義母.
駄目だ,考えるな! 考えてしまうと,
力のゆるくなった腕の中から,香月さんは逃げ出す.
「す,すまなかった……,」
真っ赤な顔で,香月さんはなぜか謝った.
「勝手に読んでしまって,」
何を?

香月さんは慌ててベッドから立ちあがる.
しかしふらっと倒れ込みそうになる,僕は香月さんの身体を支えた.
「つい好奇心に負けて,軽い気持ちで読んでしまったのだ.」
じゃぁ,僕も欲望に負けてもいいですか…….
そっと抱き寄せようとすると,香月さんはさっと逃げだす.

「本当に悪かった.」
香月さんは完璧に僕に対して怯えている.
ドアの方へとどんどん逃げてゆく.
「反省している,」
僕は完璧に振られた,いやそれよりももっと悪い.
怯えられている,……僕は嫌われた.

ガン! 大きな音を立てて,ボールはゴールから弾き飛ばされた.
高校の体育館で,僕は行儀悪く舌打ちする.
部活もとうに終わった体育館に一人,同じく夜練に付き合ってくれていた後輩たちももう帰った.
僕は家に帰りづらくて,ただ一人,こんなことをしている.

軽くその場でドリブルして,目の前にあるゴールをきっとにらみつけて,再びシュートを撃つ.
いらいらしているのが自分でもわかる,さっきからスリーポイントがまったく入らない.
ゴールにぶつかりもしなかったボールは壁にぶつかって,出口の方まで転がっていった.

ボールを追いかけてゆくと僕は,体育館の出口に信じられない人影を見つけた.
「香月さん!?」
しかもうちの高校のセーラー服を着ている.
「なぜ,ここに!?」
そしてその制服は何なのですか?

「私はここの卒業生だ.」
それは前にも聞きましたが,22歳にもなって何をやっているのですか?
しかも開き直っているのか,香月さんはなんだか偉そうな態度だ.
「一樹,なぜ家に帰ってこないのだ?」
長い髪をみつあみのお下げにして,いまどきこんな女子高生は居ないと思う.
「それほどまでに怒っているのか?」
しかも眼鏡だし,……どうして香月さんはこうなのだろうか.

「本当にすまなかった.一樹,私と一緒に家に帰ってくれ.」
香月さんの眼鏡の奥の瞳が潤んでいた.
「香月さん,」
駄目だ,僕はもう限界だ.
「僕はあなたの弟ではなく,恋人になりたいのです.」

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