近所にできた、大型マンションのモデルルームの見学に行った。
実際の入居は来年の夏くらいという物件だが、
募集段階で即日完売に近いほど売れているらしい。
義弟夫婦が関心を持ったというマンションなので、
「どれどれ、ちょっと見てみようか」――というわけで、夫婦で出かけてみたら、
そこはこのコラム向けの「ネタの宝庫」であった。
30分くらいで見終える予定だったが、
ひと通りの“手順”を踏むと1時間半もかかる。ちょっとしたツアーだ。
まず、営業マンとお話。
彼が物件の魅力を語ってくれているのに、
私たちといえば「234戸の25階タワー棟には、エレベーターは何基ありますか?
(答えは「2基」)」、「自転車は何台置けますか?(1家族1台まで)」、
「来客用駐車スペースは?(486戸で5台)」などと、
さりげなく(少なくとも私たちはさりげなくしたつもり)質問を繰り返していた。
歓談(?)が終わると、次に案内されたのは「ミニシアター」。
そこで5分ほどのマンション周辺の街並みのビデオを観賞し
、構造などがわかるミニチュアの展示ルームを経て、
やっと目的のモデルルームへ。
以前から、モデルルームは部屋をできる限り広く見せるために小さめの家具を置くとか、
家具を少なくするという話を聞いていた。
ここは、3LDKを2LDK、4LDKは3LDK仕様にして展示する手法をとっていた。
オプション料無料で1部屋少なくすることができるらしいが、
家族がいる人は部屋数が多い方がいいのでは。
つまり、リビングがもっと狭くなることを自分で「想像」しなくてはならないのだ。
ウォークイン・クロゼットと寝室の仕切りは素敵なガラス張りだ。
でも見たところ違和感を覚えたので、
「これは実際もガラスですか?」とたずねると、
「いえ、実際は壁になります」とのこと。
まぁ、ガラスにして見せた方が、広々とした感じは出せるでしょうね。
そのほかにも想像力を働かせてもなかなかイメージがしにくいオプション仕様を多用し、
「広く、豪華」に見せる工夫が……。
実際に住んでみないとわからない「謎」の部分が多すぎるのだ。
4500万〜6000万円という高額物件に、ミステリアスな部分は必要だろうか?
間取りなどが従来のタイプと違って通気性がいい物件なので、
魅力的ではある。でも、よく調べないで住んでから「こんなはずではなかった」
と諦められるほど、安い物件でもない。
家に帰ってから開いた「資金計画の冊子」にも驚かされた。
11ページにもわたって、「家は今買わないとソン」と説得を続けているように見える。
各種シミュレーションで数字を巧妙に使っている。
例えば金利が1%上昇すると、
今より500万円以上借入可能額が減るということをローンの内訳表を使って見せている。
しかし、計算例は頭金が少なく4000万円以上のローンを組むケースなので、
おのずと数字が大きくなるのだ。
借入額自体が3000万円以下なら、500万円以上も借入可能額が減るということにはならない。
また、「分譲 VS.賃貸」というページでは、
分譲の方が年間の住居費が安くなると結論を出している。
分譲のコスト負担は「年間ローン返済額−ローン減税額
(しかも約40万円。こんなに所得税を払っている人は少ない)」。
この金額と近隣で同じくらいの広さの賃貸物件の年間家賃を比較している。
分譲の数字には、管理費や修繕積立金、固定資産税が入っていないし、
ローン減税額も非現実的なくらい多めに見ている。
このトリックにより“分譲が有利”という結果になるのだ。
ページをめくるごとに、あぁこれを見た人は「今買わないと一生のソン」と思って
、あせるだろうな、とため息が出てしまった。
売り手は商売だからあの手、この手で買ってもらう方法を考えるだろう。
だからこそ、買い手には「冷静な判断」が求められる。
物件を見る目を養うことはもちろんのこと、
数千万円ものローンを組むなら、契約前に「わが家の最悪のシナリオ」を立ててみることだ。
「もし、病気やリストラで収入が激減したら……」など、
最悪の状態になったときにも返済できる金額がどうか、
親に頭を下げたらどうにか援助してもらえるのか(それくらいの経済力が親にあるか)など
を考えてみる必要がある。
実際に失業、病気などの理由で収入が減って、
ローンが返せないという深刻な相談は少なくない。
大きな決断をするときは、冷静に「ダメ出し」をすることをお薦めする。
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