そうこうしているうちに夜になった。
 砂漠の夜はとても冷え込み、また魔物の行動は活発になるので、移動には適さない。
 私たちは火を焚き、食事を取ることにした。
 食事と言っても携帯食なので、乾パンぐらいの物でしかないのだが。
 すると―――

 「冒険を携帯食だけで乗り切ろうとは……浅はかな女がいたものだ」

 ―――いつものようにナルセスさんが絡んできた。
 この男は携帯食の他に何を食べろと言うのか。
 分からない。
 しかし、いくら変態とはいえナルセスさんが冒険のベテランであることは事実だ。
 何か特別な知恵があるのかもしれない。
 私は素直にナルセスさんに聞いてみた。

 「愚かな小娘だ。私なら、大砂漠の真ん中であってもカレーライスくらい作れるがな。
  まあ見ていろ」

 「そ、そんなの絶対無理ですよ、ナルセスさん!
  こんな所でカレーライスを作れるわけ……」

 「心配するな。料理書も持ってきてある

 そういう問題じゃないだろ〜〜ッ!
 し、しかも…その本
『こまったさんのカレーライス』!?
 それ、料理書と違う!児童向け絵本!絵本なのよ!!こら〜、気が付け〜〜〜!!
 そんなことを考えている私を余所に、ナルセスのアホはますます加速する。

 「よし、私はこれから食材をゲットしてくる。おい、ウィル、タイラー。手伝ってくれ!」

 そう言い残して、3馬鹿トリオは何処だかよく分からん場所を目指して突撃してしまった。

◆◆◆

 あれから小一時間経つが、ナルセス達はまだ戻ってこない。
 私は暇だったので、薪(たきぎ)の火を明かりに、
 ナルセスさんが置いていった絵本を読んでみることにした。
 といっても、『こまったさんのカレーライス』は子供の頃に一度読んでいるのだが。

 この絵本のあらすじは至って単純―――
 ―――こまったさんが苦労しながらカレーライスを作るという話だ。

こまったさん「さ〜て、タマネギを切るわよ〜」

 そうそう、こんな感じ。思い出してきたわ。

こまったさん「あら嫌だ。タマネギを刻むと、涙が出て困っちょ、困っちょ」

 わ、私が知ってるお話と少し違……つーか、有り得ない!その方言!?

こまったさん「そうだわ、こういう時には―――」

 確か……水中眼鏡をかけるんだっけ?
 タマネギ切るだけにしては大がかりすぎると思うけど、
 それがこの絵本の面白い所なのよね。

こまっちょさん「―――こういう時には、体を鍛えればいいんだわぁ〜♪

 いいいいい一体何故!?
 完全に道を踏み外しちゃってるよ、こまったさ〜ん!
 大がかりとか遠回りとか
そういう次元じゃなくて………むしろ別次元よ!
 それにあなたのアイデンティティー、変なことになってるわ!
(特に名前が)

こまっちょさん「タマネギの攻撃に耐えうる強靱な肉体を作るのよ〜。
         
フン!ハッ!!ソリャア!!!

 こまったさん、目を覚まして!
 あなたの行動は全く無意味―――
きゃあああッ!
 何故かビキニパンツに着替えだしたわッ!?
 もはや無意味と言うよりも意味不明……。
 しかもこまったさん、
になってる〜〜〜!?

こまっちょ「フハハハハ、タマネギめ!もはや貴様の攻撃など小生に効かぬわッ!」

 いやああッ、とうとうリミットブレイク!?
 もう……もう手遅れだわ。…例えるなら、
 将魔を一体も倒してない状態でラスボス直前セーブしちゃったくらい手遅れだわ!!

こまっちょ「ホリャ〜!マッスルチョ〜〜ップ!!
       
ほぐぁッ!?目が……目がァッ!(ムスカ調)

 そしてその上、負けるんか〜い!
 しかもこの絵本、もう全体の4分の3くらい読んだのに、
 まだタマネギすら切れてないよ〜!?

こまっちょ「今回は小生の負けだ……貴様、名は何と申す?」

タマネギ「ハッスル!ハッスル!
      (訳;名乗る名など持ってはおらぬ。拙者は一介のタマネギ剣士でござるよ)」

Mr.マッスル「タマネギ剣士の冒険はまだまだ続く。
         しかし、彼の活躍を語るのはまた別の機会にしよう」

 ……………。
 …………。
 …。
 終わった。終わってしまった…。
 ツッコミ所が満載過ぎる…。あえて一つだけツッコムとしたなら―――
 ―――ナルセス達は
今、何を探してるんだ?

◆◆◆

 日が昇った。
 しかし彼らは帰ってこなかった。

 私は大砂漠の真ん中を一人で歩きながら考えた。
 大砂漠を一人で越える―――無謀とも言える行為だが、
 過去にこの偉業を成し遂げた者がいないわけでもない。
 そう、ワイド侯国のネーベルスタン将軍がその人だ。

 「ハァ、ハァ…。私だって、こんな砂漠ぐらい越えてみせる。
  そしてみんなに…私の実力を認めさせてやるんだから!」

 すると地平線の向こうに何か建物らしき物が見えるではないか。
 私は近づいてみる。
 メガリス…?
 よく分からないけれど、先行文明の遺跡であることは間違いなさそうだ。
 私は冒険者としての心を擽(くすぐ)られて、中に入ってみることにした。

 重々しい扉を開けて、メガリス内部に入る。
 外とはうって変わって、冷たい空気が頬を撫でる。
 よし、そろそろ探索を始めよう。そう思った刹那―――

 「お〜い、コーディー! 中にいるんだろ!? この扉を開けてくれぇ〜〜!!」

 ―――外からウィル達の声が聞こえて来るではないか。

 「早く開けろ、女ッ! 謎の商人軍団に追われているんだ!
  ……
ぬおあッ!? や、『奴ら』が来た〜〜!!」

 私は側に置いてあった岩で、入口の扉を硬く閉ざした。
 今回の探索は上手く行きそう♪

◆◆◆

 しばらく奥に進むと、広い空間に出て……え?鉛の箱?
 なんと、そこには鉛の箱が置かれているではないか。
 巨大なクヴェルとも呼ばれるメガリスの中に、どうしてアニマを阻害する鉛が……?
 とにかく調べてみよう―――そう思ったとき、

 「コーディー、僕らを置いていくなんて、酷いじゃないかぁ〜!」

 後ろからウィルの声。

 「扉が開かんから、
  『開け、
ムキッ!』とか『山!ムキッ!』とか『世界の合い言葉はムキッ!』とか、
  とにかく合い言葉を連呼してしまったではないかッ!」

 ある意味、全体系大ダメージの合い言葉を放つナルセス。

 「物理的に扉が閉められていることに気付いて、3人力を合わせて扉をこじ開けたのだ。
  全く……
尻が擦り剥けてしまったぞ

 沈着冷静なタイラーだが、一体尻でどうやって扉を開けたんだ?

◆◆◆

 「ここが砂漠のメガリスか……。ここに父さんが死んだ謎を解く鍵があるんだ」

 突然、ウィルが真剣な面持ちで話し始めた。

 「父さん…なんで父さんは死んでしまったんだよ…?」

 ワナワナ震えながら、力無く呟くウィル。

 私は何か言葉をかけてあげるべきだと思った。
 しかし、一体何と言ってあげればよいのか。言葉が見つからない。
 私が困っていると、タイラーさんが私の肩に手を置いてくれた。

 「心配するな。俺がどうにかする」

 そう言ってタイラーさんはウィルに近づいていった。
 一体どうするつもりなのだろうか。
 分からないが、タイラーさんがいつもよりずっと頼もしく見える。
 そして、タイラーさんの口が開かれた。

 「ウィル!先生の胸に飛び込んできなさい!!

 う、裏声〜〜ッ!?
 どうにかするって……おいおい、どうにもなってないよ
 むしろ、どうかしちゃってるんじゃ…。

 「せ、せんせぇ〜〜〜!!!

 何故か抱き合う二人。
 これは一体
どういうシチュエーションなんだぁ〜!?

 「とにかく、早くあの鉛の箱を調べてみましょうよ」

 私はイライラしながら、二人だけの世界へトラベルしているウィルとタイラーを引き離す。

 「コーディーの言う通りだね。さあ、早速調べてみよう!」

 爽やかスマイルで答えるウィル。

 「それでこそディガーだ、ウィル」

 頷くタイラー。

 「ナイスファイト!」

 いつものように親指を立てるナルセス。そう言えば、こんな奴もいたっけ。

 「レッツ、鉛の箱〜〜〜!!」

 そう叫ぶと、3人は鉛の箱目掛けて猛然とダッシュ!
 そして信じられない出来事が起こった。

 「アンビリーバボー! 誤って箱の中に落っこちてしまった〜!」

 なんと3人は3人揃って箱にはまってしまったではないか。

 「ちきしょ〜、こんなトラップが仕掛けてあるなんてぇ〜〜」

 「ちッ! ミラクルフィットしてしまって全然動けん!」

 「おい女ッ!オイルだ!早くオイリーなオイルを流し込んでくれッ!」

 私は静かに鉛の箱のフタを閉めた。

 「オゥ! アルティマニアック放置プレ〜イ!」

 アレクセイと組んだ方がまだマシね。
 私はそう確信した。

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