私の名はコーデリア。
 新米ヴィジランツとしてヴェスティアの酒場に訪れている。
 今日は初仕事となる日のはずであったが。
 置いて行かれたのだ。

 「…これでも」

 私は酒場のマスターにつっかかった。

 「実力には自信があるのよ。足りないのは―――」

 「筋肉だッ!」

 そう、私に足りないのは筋肉――って違〜〜う!
 誰よッ!? 私の話に水を差すのは…。
 私は声がした方角…つまり、酒場の入り口に振り返った。
 そこにいたのは―――。

 「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 なんと戸口には黒ビキニパンツ一丁の男が立っているではないか。
 何やらよー分からんポーズを決めているその身体は、
 オイルでテカテカと黒光りさせていた。

 「やあ、僕はムキムキ新米マッチョディガー、ウィル・ナイツ。略してムキッチョさ!」

 夢…?
 そうよ、これは夢よ。
 こんなディガーいるわけないじゃないッ!
 私の苦悩も余所に、ムキッチョはどんどん話を進める。

 「今日はハンの廃墟をディグアウトさ。さあ、誰か俺と共に行こう!」

 「良かろう、小僧。私が一緒に行ってやる」

 カウンターに座っていた男が振り返った。

 「私の名はナルセス。術戦士だ。して、私の取り分だが……」

 「筋肉に比例だ」

 なんでやね〜ん。

 「望むところだ」

 ナルセスさんも、それでいいんかい!

 絶対グルだ。
 この二人はグルになって、私をハメようとしている。
 きっとこの後「ドッキリカメラばんざ〜い」って展開になるに違いないッ!

◆

 すると、店の奥で静かに様子を窺っていた男が、突然口を開いた。

 「さっきから筋肉、筋肉と…くだらないな」

 こ、この人は正常だ〜。よかった、私一人じゃなかった。

 「なんだと〜! 俺の筋肉をバカにする気か〜〜ッ!?
  誰だ、キサマ。名を名乗れぃ!」

 いきり立つムキッチョことウィル。

 「フッ、俺の名はタイラー。真の筋肉とはこれをいうのだッ!」

 バ〜ン。変身するタイラー。
 もう、私の15年間積み上げてきた常識は
解散総選挙していた。

 「赤いフンドシか…ナイスチョイスだ!」

 親指を立てるナルセス。

 「あ、兄貴と呼ばせて下さいッ!!!」

 ひざまずくウィル。

 「俺達の出会いを祝して、レッツ、マッスルダンスだ!」

 タイラーのこの言葉と共に狂喜乱舞し始める3人。
 私は呆然とするだけだった。

 すると、ウィルが踊りながら近づいてくるではないか。

 「やあ、君の名前は?」

 「コ、コーデリア…」

 「オー、コーディー。レッツマッスル、オーケー?」

 「ノーサンキューッ!!!」

 私は右手の槍をウィルの脳天めがけて、思いっきり振り下ろした。

 「ワーオ、ハッピ〜〜〜」

 恍惚の笑みを浮かべ、崩れ落ちるウィル。
 うらやましそうにこちらを見つめるナルセスとタイラーの視線が、妙に気になった。

◆◆◆

 私達4人はアナス川上流にあるハンの廃墟に向かう。

 「この娘も一緒なのか? 私一人で十分なのにな」

 どうも、ナルセスさんは私に絡んでくる。

 「おい、女。お前は何が出来るんだ? 筋肉もないくせに」

 この言葉には、さすがにカチンときた。

 「ナルセスさん。確かに、私には筋肉はありません。
  でも、私にはその筋肉を補って余りある「技」があるんです!」

 「技だと?」ナルセスは笑い出した。

 「おい、ウィル。この女に教えてやれ」

 「いいかい、コーディー。
  戦いにおいて1番大切なのは
筋肉。
  2番目は
根性。3番目は気合い。以下、友情・努力・さり気ない愛……。
  そして、君の言う「
技」は、
  千五百、飛んで 三億、飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで………」

 飛びまくるウィル。

 「回って回って回って回〜る〜」

 回り出すナルセス。

 「……二十三位だ」

 冷静なタイラー。しかし安心はできない。コイツも変人だ。

 「分かったか、女。「技」など150300000023番目に必要とされる、いわばゴミだ」

 もうツッコむ気にもなれなかった。
 実際戦闘になれば、技のすばらしさが分かるだろう。

◆◆◆

 すると、私の願いが通じたのか、1匹のモンスターが行く手を塞がる。

 「砂親父ッ!? 気を付けろ! 奴の突進を受けたら、ひとたまりもないぞ!」

 叫ぶタイラー。
 
ふんどし一丁でどーやって戦うつもりなのか。

 「力を合わせて戦おう」

 身構えるウィル。
 しかし、
こちらも黒ビキニ一丁だ。

 「小娘ッ!力を合わせるんだぞ!
  いいか。私達の力すなわち筋肉を密着させるのだッ!」

 おもむろに上着のボタンを外し始めるナルセス。

 「早くしろ、女ッ! さっさと服を……」

 「脱げるかぁぁぁぁーーーーッッッ!!!!!」

 私は槍でナルセスを串刺しにしていた。

 「イエ〜〜〜イ! カ・イ・カ〜〜〜ン」

 至福の表情でその場に倒れ込むナルセス。
 こいつら…真性の
バカだ。

◆

 その間にも、砂親父は目の前まで迫ってきているではないか。
 もう選択の余地はない。

 「私がデュエルします。
  ウィルとタイラーさんは、ナルセスさんを連れて向こうの岩陰で休んでいて下さい」

 「そうか、じゃあ頼むよ、コーディー。実は俺もタイラーさんもHPが残り少なかったんだ」

 「なんでやね〜〜ん。まだ一度も戦ってへんやろ〜〜〜!!!」

 「酒場でのマッスルダンスでHP(ハッスルパワー)を使いすぎたんだ」

 そうなのか?
 HPってそーゆーイミなのか?
 じゃあ、私のHP219つーのは何?
 
つーか私って何?

 「…もーいーです。さっき言ったとーり、私がデュエルしますから……」

 こいつらの為に戦うのも虚しかったが、
 とにかく奴らに「技」のすばらしさだけでも教えてやろう。

◆◆◆

 「なんて硬い奴なのッ!?」

 私は吐き捨てるように小さく叫んだ。
 と、息をつく暇もない。来るッ!
 突進してくる砂親父を間一髪、地面転がって避ける。
 背後が取れた。おそらくこれが、私の最後のチャンス。
 私はギュッと槍を握り直した。

 「集中、集中、突く――エイミングーーーッ!!!」

 私の槍は、砂親父の装甲の隙間を貫いた。

 「や、やった……」

 私は大きく息を吐いた。しばらく、深呼吸して息を整える。
 そして、ウィル達がいる岩陰へと向かった。

 「どう、技のすばらしさが分かってもらえたかしら」

 私は岩の裏にいるだろうウィルに声をかけた。
 しかし、返事がない。ウソ…?
 私は焦燥感のようなものに駆られ、急いで岩の裏へと回り込んだ。

 いない…。
 誰もいない。なんで?
 私を置いてっちゃったの…?

 一人…。

 私は廃墟内を走り回った。3人を捜して。
 ウィル、ナルセスさん、タイラーさん…。お願い…出てきて!

 私は孤独の恐ろしさを初めて知った。

 今思えば、彼ら3人は私をリラックスさせる為に、
 ワザと変態チックな振る舞いをしていたのではないか?
 それなのに私は…。
 私はなんてバカだったのだろう。
 3人に再び会えたら、まず真っ先に謝ろう。

 そんなことを考えていると、廃墟の奥から聞き覚えのある声が響いて来るではないか。

 「おおおおおッ!」ウィルの声だ。

 「ウィル! お前は低く構えろッ! 俺から仕掛ける!!」タイラーさんもいる。

 「タイラー、私もまだいけるぞ。忘れないでくれ!」ナルセスさんも一緒だ。

 3人とも何かと戦っているのか?
 早く私も合流しないと。

 「いいか、ウィル。大切なのはタイミングだ!」

 「いきますッ!!」

 「まだだ、まだ早すぎるッ」

 急げ、あと5メートルだ。
 この壁の向こうにウィル達が…。

 「今だ、いけーーーーーッ!!!」

 「私もバトルに参加します!」

 「おお、コーディー。君も交じるのか〜い?」

 敵はいなかった。
 ただ…3人が絡み合っているだけ。

 「女ッ、いいところに来たな。たった今、私達の「知恵」「勇気」「節制」の
  “
トリプル・ミックス・マッスルアートof正義”が完成したところだ」

 おそらくこれにはプラトンも脱帽するだろう。

 「ワンダフルだろ?」

 私は変態トリオの中心に、ブッシュファイアを投げ入れて、その場を去った。

 「お〜、マンマミ〜ヤ〜〜〜」

 3人の見事にハモった断末魔を背中に聞いた。

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