【Music Holiday】   終わってほしくなかった2時間
      =ザ・フー歴史的初単独来日公演追っかけレポ Vol.16=    

2008/12/19

   【水曜日:STAGE5〜武道館追加】 

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苦労した割には席イマイチだったチケット

   客席にはスーツ姿の人も多いし、もしかしたらノリはイマイチではと思っていたのだが、何の何の凄い盛り上がりである。初日とは別の意味のカタルシスが会場を支配していたとでも言おうか。

   バンドのテンションも初日に続き高いようで、『I Can't Explain』の最初からピートは腕ガンガン振り回し、壮年に比べれば小さくなったジャンプも早速披露。これに対する観客のレスポンスも激しく、ロジャーが観客席にマイクを向けた時の大合唱は初日を凌いでいたかもしれない。ただ、自分の席位置のせいか、全体的に音が小さいように感じた。
   2曲目の『The Seeker』はかなりラフな感じのプレイ。歌詞にはスピチュアルなメッセージも込められているのだが、この場ではそういうのは殆ど関係なくなっていて、続く超アグレッシブな『Anyway Anyhow Anywhere』の景気付けみたいなポジションでうまく機能している。その『Anyway Anyhow Anywhere』はイントロもエンディングでもギタープレイが普段にも増して長く、ロジャーがちょっと暇そうだったのが可笑しかった。一方、ピートの凶暴さに比べ、今日のザックはまだパワーを十分発揮できていない様子である。

   ライブの頭3曲を終わったところでは、どうしても初日のあの異常とも言える会場全体のテンションのせいか、若干「ライブ作品」としての完成度は劣る感じ。「これが最終日」というコミアゲ感+席位置が悪いというマイナス点、などから単純な比較は難しく、また贅沢極まりない感想でもあるのだが。


   4曲目の『Fragments』はライブを重ねるに連れ、どんどんギターメインの曲に変化している。ライブで曲を成長させる、これこそが「ライブ=最高の作品」とするフーのあるべき姿なんだ、と勝手に納得しつつ、ゆったりと堪能する。「もう昔みたいないい曲は書けないかも」って最近ピートは言ってたが、まだまだこんなにいい曲が書けるじゃないか、捨てたもんじゃないよオヤジさん。

   その後、ロジャーの「昨日は休み。東京見て回った。喉も休めたよ」みたいなMCに続き、『Who Are You』へとプレイは移る。ここでなぜか涙腺が少し緩む。そういう曲調では全然ないのに、何故だったのだろうか。5曲目まできてどんどん残りが少なくなってきたのに自然反応したのだろうか。
   そんなバカ客の感傷はさておき、『Who Are You』の演奏はこのツアー中一番の出来。いつもピッキング・ソロだけで聞かせるブリッジのところに随分コードストロークが入っていた。さいたまの『Won't Get Fooled Again』と同じで、これが出る時のピートは絶好調のようだ。

   アコースティック・コーナーが少なくなった最近のフーのステージで『Behind Blue Eyes』は貴重な存在。ピートがソロの時にやってた「最後までアコギ一本ヴァージョン」も聞いてみたいけど、やはりフーというバンドになると「静から動へと移るコントラスト」が売りになるから、この「後半爆発ヴァージョン」なんだろうな。


   ここまで来て初めてピートが喋る。「日本はファンタスティック、ビューティフル、ここにいれて最高だ。今日が日本でのラストショウ。長いこと来れなくてゴメンな。さっき60年代からの曲をやった。次は70年代からのヤツをやるぜ」という感じのMCから、いつもの『Relay』の紹介へ。
   横浜以降定着した『Relay』『Sister Disco』の流れは、一緒に歌うより見る方がメインになるのだが、ロジャーが手拍子で客を煽るところも定番になってきて非常にいい感じ。前向きな『Relay』とシニカルな『Sister Disco』は、本来全く違うベクトルを持っているが、今やワンセットでのプレイがデフォルトとさえ感じられるくらい馴染んでいる。
   『Sister Disco』の最後のピートのソロは更に長くなり、「いつ終わるんだ?」みたいにロジャーが戸惑って見てたのが可笑しかった。 あと、ピートが「Music Fits My Soul」って歌うとこで胸叩いてたのと、ロジャーがブンブン振り回すマイクがピートに当たりそうになって、「おいおい勘弁してくれよ」みたいにロジャーを見てたピートの表情が印象深かった。

   そして来て欲しい瞬間であり、来て欲しくない瞬間でもあった『Baba O'riley』のシンセ・イントロが武道館に響きだす。ライブの最初から「これが最後これが最後」という強迫観念が重くのしかかっていたが、この曲でそれが涙腺攻撃に変わる。悲しいから泣いてるのか、感動して泣いてるのか全然わからないが、とにかく涙が出てきた。4年前の横浜から数えて通算7回目の「It's Only Teenage Wasteland !」は自分の声も過去最大だったと思うが、会場全体でも初日に匹敵するデカサ。またも武道館の柱が3本くらいヒビ入ったに違いない。
   十代の荒野、結局ピートという人は、昔から今までずっと、そしてこれからもそこで生きていくんだと思う。その姿は見ようによっては老いさらばえて無様なものかもしれないし、踏みつけられてボロボロになっているのかもしれない。でも私は十代の荒野にじじいが立ち続けていることのカッコよさ・惨めさを愛し続けたい。


   『Eminence Front』のイントロに被せて「これはカラオケだ」とかいうギャグをピートが飛ばし、一人で勝手にウケる。まぁ機嫌がいいようで何よりである。で、カラオケらしく(?)ピートはあまり歌わず、ひたすらギター弾きまくり。82年のダメダメラストアルバム「It's Hard」で唯一評価の高かった曲だが、当時は真っ暗な表情で下向いて歌ってたよなぁ。人間変われば変わるものである。 「Big Wheel Spins」で客席に向けてグルグル手回し、「Hair Thins」で帽子とって禿頭でお辞儀、という細かいネタも披露。エンディングはちょっとパンチ不足だったかも。

   この辺で1時間経過、普通にいけばコンサートも残り半分であると思うと、またもや物悲しい気分が若干心を覆う。私の席の少し後ろから『You Better You Bet !』という掛け声がかかり、会場が一瞬沸いたが、ピートは無視して(笑)『5:15』へ。
    「Inside Outside」の観客の合唱は随分デカかったように思ったが、多分席位置の関係でアンプの向きが反対でPA音が小さく聴こえた反動だったのかもしれない。演奏自体はギターがいつもより幾分艶っぽいトーンを奏でているような印象だが、全体的にはちょっとオーソドックスでキレきらず、という感じ。
   たった2曲の「四重人格」コーナーは、スポットライトを浴びるロジャーがカッコよい『Love Reign O'er Me』へと続く。初日みたいにヴォーカルの入りを間違えんかと余計なお世話でハラハラしたが、問題なくクリア。そういえば、何年か前に完全に歌詞忘れて、最初からやり直したこともあったよな(笑)。まさに武道館をロジャーの魂の叫びが覆いつくす、といっても過言ではないドラマチックな出来であった。


   そして、これまた最後の叫びかと思うと涙腺がバンバン緩みだした『Won't Get Fooled Again』の爆音ギターが鳴る。やっぱり、ピートはすごく機嫌良かったみたいで、何回も客席の方に近づいてネックを向けて客を煽っていた。今日のステージ全般に通じるが、すごくバンド全体がしなやかなグルーブを叩き出していて、この曲でも若干ラフっぽい感触のギターが自然に観客のパワーと一体化していた。 ロジャーはいつもどおりのパワフルな歌声を披露、ピートはいつも「Yeah!」って一発だけ叫ぶところで、サングラスとって何やらちょっと長めに言うてたけど聞き取れなかった。しかし、大半の観客は訳分からんままでも狂喜乱舞。
   シンセ・シーケンス前のところは、最近のクールダウン・モードかと思いきや、さいたまで披露した弾きまくりモードに途中から変化。いやぁ、私は絶対こっちの方がいい。 ザックの一番の見せ場でもあるシーケンス上がりのドラムソロだが、悲しいかなザックが殆ど見えない位置だったので、個人的には迫力が半減であったのが残念……
   一斉シャウトは初日とタイぐらいの大きさ、これももしや人生最後かと思うと涙腺が……(しつこい) その後短めのメンバー紹介。歓声はザック⇒ピノ⇒ラビット⇒サイモンという貢献度どおりの順番。

   本編ラスト(なのか?)の『My Genaration』は前半は完璧だったが、後半のインプロビゼーションの入りの呼吸が微妙に合わず。そのせいかどうか、そこからピートがあまり聞きなれないフレーズをずっと弾き続ける。客も盛り上がるというよりじっと見守ってる様子である。
   その流れのまま、原型とどめてないけど一応『Cry If You Want』のフレーズへ、そして潮の満ち引きが繰り返すようにプレイのテンションを上下させたあと、弾きまくりの波を徐々に抑え『Naked Eye』へと繋げる。2日続けてだとサプライズではないが、ライブでしか聴けない(と言い切ってもいいだろう、スタジオ盤が正直言ってショボ過ぎるので……)この曲の登場はやはり感動モノである。
   圧巻は後半の延々と続く昇天しそうなギターソロ。ゆったりとしたリズムに強烈な音圧、内に秘めた狂気を具現化したような激しいトーン、会場全体がバンドの紡ぎ出す世界に溶けこんでていくような幻想が漂い、やがて終了。

   演奏を終えたピート&ロジャーはすこぶる御機嫌。特にピートはスティック(?)とピックを客席に放り込むという昨日まではないサービスを連発していた。アンコールの歓声は初日の方が大きかったけど、かなり間をおいてメンバーが出てきた時の反応は今日の方が凄かった。


   ピートが無造作にコードを何回か鳴らしたあと『Pinball Wizard』のイントロが。「キターー!」という気持ちと「ああ、もうこれでサプライズはないなぁ」という残念な気持ちが交錯する。さらに『Amazing Journey』〜『Sparks』まで演奏が進むと、興奮してる自分とどんどんモノ悲しい気分になっていく自分がせめぎ合いを始める……
   しかし、『Sparks』のフレーズに行く前のインプロビゼーションは何度聴いても圧倒されるくらいのド迫力。ここの音圧とテンションの凄さに2000年以降の完全復活ザ・フーの魅力が凝縮されてるように思う。最近ピートがフレーズに入れだした「Brave Man ! Stupid War !」もかなり定着してきて観客も好反応。 『Sparks』でのお約束、ピートのバードマン・ポーズもバッチリ両手が伸びきっていてヨロシ。これで見納めかと思うと、記憶に刻み付けておかなきゃという強迫観念が……

   そして遂に『See Me, Feel Me』が始まってしまった。強迫観念も加味されて、声が涸れるくらい歌いまくえる。周りも凄かったけど、初日と同じくヴァース2回で終わってしまったのが残念。もう、このスタイルに変わってしまったのだろうか……
   エンディングのギターが長いので、ピートお得意の「終わると見せかけて復活パターン」かと思ったが、その期待は果たされず、長い余韻を引きずりながらプレイは終了。みんなが期待してた(のか?)ギタークラッシュもなかった。というかアコギでしんみりの『Tea And Theatre』をラストに持ってきたら、クラッシュは出来ないな。


   地響きのような歓声が続き、中々オーラスの『Tea And Theatre』に入れず。そして曲が始まったら静寂が支配。自分も含んでるのでナンだが、ホントに日本のフーファンって素晴らしいと思う。ストーンズなんかに比べたら断然少数勢力だけど「トコトンファン」ばっかりなんだよな。逆に言えば敷居が高いのかもしれないが。
   スポットライトに照らされて、ピートのアコギ一本バックにロジャーが歌い上げる『Tea And Theatre』でのエンディングというのも、今になってはもうこれしかないっていう感じでハマってる。本当に最後の最後かと思うと、涙は出なかったけど、息苦しくなってきた……

   全て終了。ロジャーもピートもピョンピョン跳ねて「Be Very Very Lucky !」「Faburous !」「Glad To Be Here !」とか連発してた。投げキッスまでしてた。ピック投げた後で「俺はいまYenを投げた」というピートの謎のギャグもあり。こっちはまたも涙腺が…… 奇跡の再アンコールは……なし、残念無念。


   客電がついた後、そろそろとステージ前へと移動する。今日こそスティックを貰おうと意気込むが全然ダメ。さらにその後、スタッフがピートのピックをバラバラッと投げてくれたのだが、これにみんなが殺到し、殆ど殴りあい寸前まで行ってるヤツらまで出る大騒動に。私は見てただけだったが。
   そんな騒ぎの後、なおも会場を去り難くウロウロしてたら、PAの横でセットリストもらった人がいてたので見せてもらうと、そこに『Won't Get Fooled Again 〜 Naked Eye?』と書いてあるのを確認。やはり、ピートのその時の気分次第で『Naked Eye』に行くかどうかということにしてたようだ。そのセットリストをもらった人は座ってた場所が良かったらしく、ピートのピックに加え、何とロジャーのハーモニカまで貰ったとのこと。羨ましすぎる……

   完全完璧にライブが終わった空虚感にどっぷりと支配されたまま、フヌケのようにようやく会場の外に出る。初日の大阪、関東最初の横浜の時はちょうどいい加減だった気温もグッと下がって、冬の気配が漂っていた。


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フヌケのままバス乗り場に向かうWB01629_.gif (249 バイト)