【Music Holiday】 史上最高の「作品」 | |
=ザ・フー歴史的初単独来日公演追っかけレポ Vol.13= | 2008/12/19 |
【月曜日:STAGE4〜武道館初日】
聖地へのチケット売り場 月曜という悪条件にも関わらず発売後10分で完売した「ブドーカン」、会場全体が沸騰している、とでも言えばいいのだろうか、さいたまとも横浜とも全く違う熱気が会場を包み込んでいた。いつものように淡々と登場したメンバーだったが、あまりに騒然とした雰囲気にしばし驚いているようで、中々演奏が始まらなかった。
そして『I Can't Explain』のいつものコードが鳴り響く。観客の歌声がデカすぎて、時々ロジャーの声が聴こえなくなるくらい会場中がトチ狂ってる。間奏でピートが腕ブン回すとこれまた狂乱の渦。ああ、まさにライブに来てるんだなぁ、と実感する。
ピートは昨日と同じ謎のブリティッシュ・ハット(?)を被って英国紳士風だが、この英国紳士が最初からジャンプジャンプ! 最初からそんなテンションなのは、このツアー中初めてである。プレイも気分もハイなようで一安心。なんだか怖いおじいちゃんの機嫌伺ってるみたいだが。
間髪入れずに2曲目の『The Seeker』へ突入。武道館ということでセットリストにも変化があるのではという期待もあったが、素っ気なくいつもどおりのようだ。音自体はハウリングが時々あったり、若干コモり気味だったので、正直昨日のさいたまの方に軍配が上がるが、会場・観客・演奏を含めたライブ全体をひとつの「作品」として捉えた場合、明らかに今日の武道館はさいたまを凌駕している。
スタジオ盤ではカッティングの塊りみたいな『The Seeker』だが、今日のプレイはテンパッってるようで随分シングル・ノートが入っている。ツアー前にあれだけ心配したロジャーの喉も好調を持続しているようだ。
続く『Anyway Anyhow Anywhere』の間奏では、いくら誉めても誉めたりないくらい素晴らしいザックの力強いドラミングが爆発。キースがいなくなって一度は完全完璧に終わってしまったフーが奇跡の復活を遂げられたのはザックの功績であることに間違いないが、キースのパワフルさに加えてタイトさも兼ね備えてるという点で、ある意味70年代よりも凄いライブになっているのかもしれない。キース時代のライブは生体験していないから比較不能ではあるのだが……
ここまで3曲、バンドも観客もハイテンションで突っ走ったあと、ピートが「Glad To be Here, Hello!」と雄叫び。ブドーカンとかトーキョーとか言うのかと思ったけど、そのままあっさり『Fragments』へ。 一昨年に出た24年振りの新譜「Endeless Wire」から今のセットリストに残ってるのは、この曲と『Tea And Theatre』だけ。ミニオペラも聴きたかったのだけど、どうしてもかつての名曲の方が盛り上がるのだから仕方あるまい。 その新譜から生き残った『Fragments』は、私がフーの最大の特徴であると定義している「音圧」がライブを重ねる毎にどんどん増して進化を遂げている。ポジションとしては名曲予備軍的なところか。
集団狂躁状態の観客とバンドが互いに昇華しあいつつ、『Who Are You』『Behind Blue Eyes』と中期の名曲がプレイされる。海外のステージではよく大合唱になる『Behind Blue Eye』は、ミディアムテンポの曲調のせいか、日本では中々そうはならないのだが、今日は観客の歌声がロジャーを綺麗にサポート。後半のギターソロもかなりキレモードの弾きまくりで、ピートの腕ブンブン回数はサービスか気分がいいせいか分からないが、やたらと多かった。
ピートが「ファビュラス」とか短く叫んだ後、『Relay』『Sister Disco』へと曲が続く。横浜から3回目ともなると、この流れも非常に安定してきて、ギターバンドたる現在のフーの魅力がこれでもかと堪能できるプレイが披露される。
『Relay』の後半ピートが無茶苦茶に弾きまくるパートは、弾いてるオヤジは気持ちいいのだろうが、一瞬一瞬の先を読んでピートに合わせていかねばならないバックは大変そうである。特に唐突に終わるタイミングをパチッと合わせるのは至難の技のように思えるが、ベテラン揃いのサポートメンバーにとってはそうでもないんだろうか。 とにかく、大阪は置いとくとして(笑)、横浜以降このパートのプレイはどんどん過激になり、複数公演を見ている観客も多くなっているからか、プレイに対するレスポンスもどんどん良くなってきているようだ。
また、徐々に良くはなってきていたものの微妙な違和感が完全には拭い去れていなかった『Sister Disco』も、今日は琴線にバッチリ触れる。大阪ではダルいようにも思ったエンディングのピートのピッキングなんか、もう鳥肌モノの凄さであった。その後ついに来た『Baba O'Riley』、武道館で「It's Only Teenage Wasteland !」を叫ぶこと、その瞬間を何十年も待っていた観客のパワーがここで爆発。 最初のギターレスパートでは、ピートが異様な盛り上がりの観客を眺めながらギターをアンプに突き刺すフリして小さな笑いをとる。ロジャーのボーカル・パートに続き、ギターがインしてくるところで会場全体の照明が灯り、主役はバンドから観客へと移る。そして「It's Only Teenage Wasteland !」の大合唱が武道館を揺るがす。これだけ凄いのは海外でもそうそうないって程の迫力だった。これこそピートが「Lifehouse」で描こうとしてた世界なんだろうな。
私自身もロクオデで2回、昨日のさいたままで3回体験している生ババであるが、今日こそホントに背筋に電流が走るくらい感動した。
沸騰した会場の雰囲気をクールダウンさせるはずの『Eminence Front』もザックの超絶ドラミングのおかげですっかりハードロックナンバーになってて、あまり役割を果たせず。カッコ良すぎるのは個人的に大歓迎だが、「ピートもっとちゃんと歌え」という意見もあるようで、まぁ中々受け止め方は人それぞれだなぁと思う。
ここまでセットリストは昨日と全く同じ、ということで、予定通り『5:15』『Love Reign O'er Me』と続く「四重人格」ミニコーナーへと移る。 『5:15』はプレイ中に時々大きいハウリングが入って、若干ピートが神経質になってたようにも見えたが、今日は観客に怒鳴ることもなく、いつもよりリードが多めのプレイを披露する。しかし今日の腕ブン回し回数の多さは異常である、ファンサービスなのだろうか。ロジャーのラップ(のようなもの)もいつもより多かった。やはり総じてバンド全体のハリがいいようだ。
そしてドラマチックに『Love Reign O'er Me』が始まったが…… ロジャーのボーカルとバンドの呼吸が合わず、歌が半テンポ先走ってしまう。会場が「ええっ?」という空気に一瞬なったが、何とか修正に成功。ミスったときにピートがラビットを「おまえ間違えたな!」みたいに睨んでたけど、あれは絶対にロジャーの入りミスだろう。なんかラビットそれからチョコチョコ間違えたように思ったんだが、プレッシャーに負けたか?
ピートのギタープレイは、今日はシングルノート主体のやや昔のスタイルに近い感じ。サイモンのコーラスがかなり大きめに聴こえるが、この曲ではあんまりコーラスはいらないんじゃないかなと思う。頑張ってるサイモンには悪いけど。
ロジャーが「Love Reign O'er You」とボソッと呟いた後、「マイジェネくるぞー!」と身構えてたら、いきなり『Won't Get Fooled Again』のジャカジャーーーン・ギターが。横浜から曲順戻してすごく良くなったのに何でかな?、とこの時点では思っていた。
まぁそれはそれとして、「武道館での生ババ」と同じくらい待望だった「武道館での生無法」でも、会場中興奮の坩堝と化した盛り上がりっぷり。ただ昨日のさいたまでは久しぶりにギター弾きまくりだった例のシンセループに行く前のパートは、最近のクールダウンモードに半分くらい戻っててやや残念。
フーのステージで唯一の演出ポイントであるシンセループの部分、ザックのドラミングに併せて照明が激しく点滅、そして今回ツアーで一番長かったロジャーの叫びに合わせた観客の一斉シャウト、確実に武道館の壁にヒビが入るくらいのデカさであった。
本編オーラスは大阪と同じかぁ、と若干複雑な気持ちを抱きながら、ピノのベースソロが久しぶりにバッチリ決まった『My Generation』に雪崩れ込む。そういえばピートがニヤリと笑ってピノを見ていた。
さて、後半のインプロビゼーションではザックの叩きまくりがピートを煽り、ボーカルも歌だか何だかもはやよく分からないグダグダ(←誉め言葉)で爆裂していたが、なんとその後まさかまさかの『Naked Eye』のフレーズが!! いやぁ、エンディングにそれ持ってくるとは! だから『Won't Get Fooled Again』を前に戻したんだな、ともチラッと思ったんだが、後で『Naked Eye』に入りそうになった瞬間に慌ててサイモンがアコギにチェンジしてたことを思いだす。
その『Naked Eye』はどうせワンフレーズくらいだろという予想を裏切り、ほぼフル演奏という嬉しい誤算。無法とかマイジェネでギンギンに終わるのもいいが、静か、いやゆったり、というべきか、こういう終わり方が出来るのもこのバンドの底力。リズムはゆったりとしたままで、後半どんどんバンド全体の音圧が上がっていくところはホントに筆舌に尽くしがたい素晴らしさである。
音圧が頂点まで上がった後、演奏は消え入るように終了。地響きのような拍手が鳴る中、バンドは一旦退場。割と長めの間隔が観客を余計に煽る。 そしてメンバー再登場。ラビット以外はみんな上機嫌である。何しろ『Naked Eye』というド級サプライズがあったので、アンコールでも……と期待したが、やはりピートが奏で始めたのは『Pinball Wizard』のコード、ちょっと残念。
『Pinaball Wizard』って勿論フーの代表曲だし、単体での存在感も大きいのだが、最近定番のトミーメドレーの中に組み込まれると、『Amazing Journey』『Sparks』のギターショウの前座的ポジションになってしまう感が強い。今日のメドレーも少しハウリングがあったりしたが、横浜・さいたまより若干ラフな感じで爆走し、みんなが『Amazing Joueney』でのインプロビゼーション入りを待ち構えているようだ。
ピートの気分が乗ってるのか、今日のそのインプロビゼーションは随分と長く、『Sparks』の決めフレーズも随分グチャグチャと(←誉め言葉)引っ張っていた。昨日のさいたまは優等生的に素晴らしかったとしたら、今日はある意味近寄りがたい暴力性を秘めた魅力、と名付けたい。ピートの十八番、バードマン決めポーズも今までで一番自信あり気な様子、そういえばロジャーも興奮して頭から水をブッ被っていた。メドレーラストの『See Me Feel Me』ではマジで泣きながら歌ってる人がたくさんいた。ギターソロも良かったが、ヴァースがたった2回で終わったのは何故? もっと盛り上がりたかったのに…… 『Naked Eye』なんかやるから時間がなくなったのだろうか。
その後メンバー紹介、ピートがラビット紹介した後「はよ引っ込め」みたいな可哀想なジェスチャーをしていたのにちょっと笑ってしまう。ピートはハイテンションで「Thank You !」連発、ロジャーが好々爺みたいにニコニコ笑いながらこれを見てるのがまたヨイ。最近はこの辺で二人が肩抱き合って声援に応えるのが多いのだが、今日は水ブッ被って濡れたロジャーのハグ要求をピートが笑いながら拒否していた。
日本でもすっかり定番となった二人っきりの『Tea And Theatre』で幻想的な雰囲気に包まれステージが終了。ロジャーもピートも「ラッキー」とか「ファビュラス」とか連発していたが、最後まで「Budokan」って言わなかったなぁ、残念……
でもなんて素敵なショウだったんだろう。観客とバンドが真剣勝負で作り上げた「作品」って言える2時間だった。