【Music Holiday】 更なる高みへ | |
=ザ・フー歴史的初単独来日公演追っかけレポ Vol.10= | 2008/12/19 |
【日曜日:STAGE3〜さいたまスーパーアリーナ】
終演後片付け中のステージ 今回ツアーの定番となってきた『Jeane Jennie』のSEが終わった後、今日もゾロゾロ、っというか、ノソノソっとメンバー登場。これだけ何の工夫もないオープニングっていうのもまたいいものである。『I Can't Explain』のギターコードがオープニングそのものであり、それ以上には何もいらない、っていうポリシーが非常によろしい。往年のクイーンみたいなド派手な登場もそれはそれで好きではあるが。
で、その『I Can't Explain』だが、横浜を超えるハイクリア・サウンド。毎回変わる会場でスタッフもPA調整大変だと思うが、今日の音は正直度肝を抜かれる素晴らしさ。バンドもノッケからハイテンション、ピートも最初から腕ブンブン振り回し大連発モードである。
今日のピートは黒の帽子を被って、外見だけはいかにも物静かな英国紳士といった感じ。服も大阪横浜の薄っぺらい服、あれはあれで高い物かもしれないが、それとは違ってキッチリとしたジャケットみたいなのを着ており、中々バッチリと決まってた。続く『The Seeker』のプレイ中に感じたのが「今日は堅実だな」ということ。大阪みたいにグダグダでもなく、横浜のようにテンション上がりまくりでもなく、ミスなくきっちりと決める、という印象が強い。ザック&ピノのリズム隊は昨日も今日も安定してるから、やっぱりこの印象の違いはピートの気分によるんだと思う。演奏技術云々ではなく、「気合」みたいなものが大きな比重を占めるバンドだから、出来不出来の差がどうしても激しくなってしまうんだと思う。
ところでこの2曲目のポジション、長い間『Substitute』だったんだが、もうやってくれないのだろうか?
3曲目は横浜から復活した『Anyway Anyhow Anywhere』、4曲目はその実に40年後にリリースされた『Fragments』と、トークなしで一気にたたみ掛けてくる。曲調もまるで違うこの2曲だが、20088年進行型フーのフィルターを通すと全く流れに違和感がない。ロジャーの声は少々しんどそうに聞こえるときもあるが、バンドのアグレッシブさがそれをしっかりとフォローしている。
『Fragments』が終わった後でロジャーがボソボソとあいさつ、機嫌がいいのか悪いのかよく分からない。ピート御大は黙ったままであり、ますます分からない。言葉を聴くよりより音を聴け! っちうバンドだから、まあそれでもいいか。今のフーを支えているザックのドラム&ピートのノコギリ・ギターが絡みつく『Who Are You』も非常に高いレベルの安定したプレイ。しかし、会場全体の状況はよく分からないものの、私の周り(アリーナ前方右ブロック)は曲中の乗り悪過ぎ。折角のピートサイドなのに勿体無いことである。一方、曲間とかアンコールとかの反応はこれまでの3回で一番いいように感じた。全体の「ノリ評」としては「大阪→イマイチ」「横浜→狂喜乱舞」「さいたま→綺麗に盛り上がり」というような感じか。
続く男の挽歌『Behind Blue Eyes』はインプロビゼーションの余地がない曲なので、じっくりとプレイを観察しつつ、静かに歌うこととする。昔は後半の転調するとこるからロジャーがマイク回しまくっていたが、最近はアコギ抱えてじっとしてるのでちょっと寂しい。他の曲じゃマイクガンガン振り回してるので、体力の限界って訳でもないと思うんだが…… まぁたまには休ませてあげることとするか。
ここでようやくピートがニコニコしながら口を開く。「ハローニューヨーク! とかハローオーサカ! ハローシカゴ!とか言いたいけど、日曜だからハローだけにしとくよ」って何のことかさっぱり分からんトーク。ピートのお喋りがどんどん少なくなってるのは、「こいつら英語わかってねぇな」と見透かされたからで、別に機嫌が悪いわけじゃないようだ(と思いたい)。
ネット社会を先取りした(?)『Relay』へとステージは続くが、ここの横ノリがすごく気持ちよくて、私は大好きなんだけど、やっぱり会場全体としてはあんまり盛り上がらない。後半のギター炸裂は日に日に激しくなってきているのだが、元々お地蔵さん比率が高い私の周囲はさらに凍り付いていた模様。これに対してラビットのシンセがパキパキと目立つ『Sister Disco』への反応はかなり良くなってきたようだ。今の面子でこの曲をプレイするのはまだ10公演かそこいらのはずだから、ようやく「モノになってきた」というところだろうか。ザックとピートとラビットという珍しい三者のバトルが心地よくツボにはまる。
ここまでフーにしては珍しい「カッチリとした」演奏を繰り広げてきた印象だったが、それが変わったのはやはりこれしかない『Baba O'riley』であった。全体を通じて今日はピートはあまり喋らなかったけど、オーディエンスの大合唱が火をつけたのか『Baba O'riley』以降明らかにテンションが2つくらい上がった気がした。盛り上がりがイマイチだった私の周囲のブロックもこの曲では叫びまくり。全くこの曲だけはステージの出来不出来とかを一切超越する存在なのである。何なんだ一体!(笑) ちなみにラストが微妙に決まらなかったのは御愛嬌。
飛び道具の『Baba O'riley』で空気の一変した会場に待望の『Drowned』のアコギが響きだす……ということはなく、最近の定番『Eminence Front』のリズムボックスが鳴り出した。これはこれでいいんだが、もうちょっとセットリスト変えてくれても……という贅沢な希望を心の中で呟きつつ、『Relay』よりもさらにスケールの大きい横ノリを存分に楽しむ。この曲ではロジャーが珍しくエレキでバッキングするのんだが、最近はピートが弾き過ぎで残念ながらロジャーのギターがあんまり聞こえない状態。
ピートの「Why Should I Care」で始まり、終わる『5:15』ではラビットのホンキートンク・ピアノが大活躍する。サポートメンバーでは最古参となるラビット、ピート以上にすっかり髪の毛がなくなってしまう今日まで二人を支えてくれて本当に有難うと言いたい。キーボードの出番がない時は寝てるという噂もあるが。
そんな素敵なラビットが土台を支える『5:15』の間奏の時にピート激怒事件(?)発生。左前方の観客を指差して「You! You're on the train!」とか2回ほど怒鳴っていた。元の歌詞に引っ掛けた「列車にのって出て行きやがれ!」という意味だったようだが、その時は何で怒ってたのか分からなかった。
(追記:酔っ払った外人客がビール・コップを放り投げたのをピートが見た、というようなことだったらしい)
しかしこれでピートのテンションはまたしても上がってしまったようで、その後のギターソロ、続く『Love Reign O'er Me』の魂のプレイは鬼気迫るものであった。「四重人格」からはこの2曲しかやらなかったけど、私が棺桶に入れて欲しいと願うあのアルバムの世界は見事に、しかもパワーアップされて再現されていた。最近始めたらしいロジャーの「両手を拡げて天を仰ぐポーズ」もドラマチックに、というか大げさに決まっていた。
「お前ビール投げたな? 列車で出て行け」というしつこいピートの台詞のあと、爆音と共に『My generartion』スタート。毎日どう展開するか全く分からないスリル溢れる曲だが、今日はザックが先導する形でこれまであまり聞いたことのないコード・プレイの嵐がお腹にズンズン響いてくる。その後は『Cry If You Want』のフレーズを挟み、プレイ終了。かと思うと『Old Red Wine』のノコギリ・ギターが大爆発。4年前のロクオデを思い出し少々感涙。
本編オーラスの『Won't Get Fooled Again』も文句なしの素晴らしい演奏。セカンド・ヴァースのところで一瞬演奏止めて再開するところは日本にきて初めて完璧にキマってた。それからのピートのギターの凄まじいことったら…… 間奏のシンセ・シーケンスに行く前のところは、最近は弾きまくりじゃなくてクールダウン的なプレイが主体なのだが、今日は久々にギター弾きまくりで、ザックのドラムとの激しいバトルモード。そしてシンセ・シーケンスでもかなりギターを被せてくる。今までフーのライブは数え切れないほど聴いてきたが、こういうのは殆ど記憶にない。それだけ気分が乗ってたということだろうか。
最後はキースの魂が乗り移ったとしか思えないザックの超絶ドラミングとロジャーの雄叫び、ピートのウィンドミル、もう何も言うことはない(十分言うてる……)本編が終わったあと、ピートはメンバー紹介するつもりだったようだが、ラビットがさっさと引っ込んでしまって、ちょっと困ってたのがおかしかった。
アンコール登場後に改めてメンバー紹介。「ピノはジョンが亡くなってから7年間支えてくれてる」「ラビットとはもう30年だな」などと大阪横浜より丁寧なコメント付きだった。
そして『Pinball Wizard』からいつものトミーメドレーがスタート。『Amazing Journey』から続く『Sparks』の例のフレーズが微妙にズレていたようにも聴こえたが、ほぼ完璧な出来。ある意味『Baba O'riley』の次に期待しているとも言えるここでの大音圧ギターショウ、今のフーのステージとキース時代のライブと比較することは無意味だが、少なくとも今に至っても進化を遂げているこのインスト・パートは「最新のプレイが最良のプレイ」であろう。誤解を恐れずに言えば、ジョンの不在が新たな世界を切り開いた、ということなのだろう。「前と同じじゃないということは前より劣るということではない」というロジャーの言葉が脳裏に甦る。
すっかり禿げ上がってしまい、かつてのスリムな体型からも少し遠くなった63歳のピートがとてつもなくカッコ良かった『Sparks』の後は、ロジャーの叫びが心に突き刺さる『See Me Feel Me』、ロジャーがマイクを客席に向けて、客席がそれに答えて大合唱。ピートのソロはシングル・ノートとコード・ストロークを交互に繰り出し、すてきな旅行に今日も我々を連れて行ってくれた。
サポート・メンバーが去ったステージで、いつものようにピンスポを浴びたロジャーがマグカップを持ちながらラストの『Tea And Theatre』を歌い上げる。そして曲が終わってからピートがアコギを持ち上げてブチ壊すフリをして会場中が大いに盛り上がる。
こうして日本ツアーの真ん中さいたま公演は終了。興奮の余韻に浸りながら、なんとなくステージ前に行ってウロウロしてたら、片付けしてるスタッフがザックのスティックを放り投げてくれたが、あと20センチ手が届かずロスト。争奪戦で10人くらいに押しつぶされそうになって一瞬死にかけた。昨日の横浜が凄かったので、今日は武道館に向けての中休み的なポジションになるんじゃないかと思ってのであるが、じじいどもは見事に裏切ってくれた。いよいよ明日は誰もが一番期待する武道館である。