【Music Holiday】 俺のフーじゃない? | |
=ザ・フー歴史的初単独来日公演追っかけレポ Vol.3= | 2008/12/19 |
【木曜日:STAGE1〜大阪城ホール】
このスクリーンに映るのは
よく分からないイメージ映像のみ……スモークもフラッシュライトもなく、ぞろぞろとメンバーがステージに現われ、いつもの『I Can't Explain』のリフが会場の空気を切り裂く。観客は大熱狂!には違いないんだが、私がまず思ったのは「音わるっ!」 全体に音がコモっていて、ギター音は歪んで割れ、ロジャーの声も良く聞こえない。4年ぶりに見る生フーで私自身も興奮していない訳ではないが、それよりも「何だこの音は?」疑問の方が勝ってしまい、ちょっと冷静になってしまっている。ピートが腕をブンブン振り回し、ロジャーがマイクを振り回す度に巻き起こる大歓声、これが夢にまで見た単独ライブかと思うと感涙しかけるのだが……やはり音の悪さがその感涙を押し止める。
バックのスクリーン(メンバーを映すスクリーンはないが、イメージ映像を流すスクリーンはある)にはキース時代の爆裂ライブの様子が映し出され、最後は曲とシンクロして「THE WHO」ロゴが登場。殆ど間を置かず2曲目の『The Seeker』に入るが、観客の反応が薄い…… やっぱりこれマイナーだもんなぁ、私のハンドルネームのネタ元なんだが。
どうやらピート御大もPAの調子が気に入らないらしく、しきりにアンプを触ったり、ローディにあれこれ指示を出したりしている。そのせいかプレイにももうひとつキレがなく、バンド全体の演奏もやや大人しめなように感じた。『The Seeker』終わったところで、ピートが「Glad To Be Here, Yokohama!」「Glad To Be Here , Tokyo!」と続けて軽いブーイングを沸かせたあと、「Glad To Be Here , Osaka!」で大盛り上がり。これってオヤジギャグの一種なのか?
3曲目は『Relay』だが、これは更に観客の反応寒し。すごくライブ向きの曲だと思うんだが、周りは殆どお地蔵さん状態である。観客のマイナスオーラがピートに逆伝染したようで、後半のギターソロもなんかピンと来るものがなかった。
続いて鳴り響くのは『Fragments』のシンセ・メロ。前2曲であんなにノリが悪かったらこの曲では一体どうなるんだと心配したが、結構普通に盛り上がった。
この頃にはPAの設定不調は明らかな事実となっていた。フーのステージは「パチッとスイッチが入るかどうか?」で全く出来が変わってしまう側面を持っているのだが、どうやら今日は「スイッチが入らない日」ではないかと、どんどん心配になっていき、純粋に演奏を楽しめない状態に陥ってしまう。
それでも「4年ぶりに日本に来たぜ」とピートが言ってから始まった『Who Are You』はかなりの爆裂モード。噂どおりザックのドラムは4年前とは比べ物にならないド迫力で、こりゃオアシスの上品なライブには満足できんわなぁ、と強く感じる。爆裂『Who Are You』の後はクールな『Behind Blue Eyes』、地味な『Real Good Looking Boy』とプレイは続くが、最初から感じている微妙な違和感は中々取れない。歌うべきところはしっかり歌い、盛り上がるべきところはしっかり拳を振り上げるが、「なんだか違うぞ、これは…」という思いが頭の片隅から離れない。『Behind Blue Eyes』の前には「ジャンプするには年を取りすぎたよ」と自虐ネタをカマして泣くフリしてみたりと、ピートの機嫌は悪くはないようだが。
それと、会場全体の様子はよく分からなかったが、私の周りのノリはあまり良くなかった。大騒ぎするだけがライブの楽しみ方だとは勿論思わないが、もうちょっと弾けてほしいよなぁ、それでなくても音悪くて盛り下がるかもしれんのに、などと心の中で意見してみる。
これまたあまり盛り上がらなかった『Real Good Looking Boy』に続いては、このツアーから何十年か振りに復活した『Sister Disco』だったが…… ハッキリ言ってしまうと、この曲はやらない方がいいんじゃないかと思った。ケニー・ジョーンズ時代のキレのある演奏のイメージが固まっているからか、ザックのドラムはこの少々軽めの曲調に合ってないように思えて仕方なかったし、ピートのギターを含めバンド全体もやけにモッタリしたプレイになっていて全然盛り上がれない。YouTubeでのUSツアーの映像も敢えて見ずに、生プレイの衝撃を期待してきてただけに、ガッカリ感が大きかった。
そんなこんなで中々弾けきれない自分に少しイライラしていたが、そんなモヤモヤを一気に吹き飛ばしたのは『Baba O'riley』のシンセ・イントロ。鳴り出した瞬間から失神寸前、会場もやはりこれまでの曲の数倍のパワーでの迎え撃ちである。途中から強烈な音圧で入ってくるギター、「It's Only Teenage Wasteland!」の大合唱、まさに至福の時。そしてロジャーが観客を煽りながら再び「It's Only Teenage Wasteland!」と叫び、ハーモニカ・パートへ雪崩れ込む。全く何千回聴いても何千回歌っても飽きることのない奇跡の歌だ。
一瞬にして会場の空気を変えた『Baba O'riley』だったが、終わった後でロジャーが「PAの再調整するから時間くれ」と言い出し、ピートがそれに対して「ホールごと建て直すか? その様子を映画に取るんだ。あ、おまえら英語分かるのか?」などとよく分からない場つなぎトーク。最後には「今度はオレが歌うからPAがどうとか関係ない」と捨てゼリフ(?)を吐いて『Eminence Front』へ入っていった。うーーん、なんか変な空気である。
個人的超お気に入りの『Eminence Front』で心地よく横ノリを楽しむが、周囲はまたしてもお地蔵さんモード。みんな全然予習してないんだろうか? この曲も相変わらず音は割れたりコモッたりしているが、ザックの激しいドラミングが曲の表情をまるで変えてしまっていることを再発見し、更にお気に入りとなる。エンディングも大げさでヨロシイ。
続いてラビットの美しいピアノが響き『5:15』へ。かつてはジョンのベース・ソロが堪能できる曲だったが、今はピートが好き勝手にギターを弾きまくるジャム・トラックになっている。今日のギターのキレ方は結構凄いが、機嫌がいいからっていうより、PA不調のウサ晴らしに弾きまくってるという風に見えた。ザックのドラムは昔よりさらにギターに絡みつくようになってきていて、今のフーにおいてザックが如何に欠かすことの出来ない存在であることを改めて確認する。
延々9分近くにも及んだ『5:15』の後は、同じ「四重人格」から超大型ドラマティック・バラード『Love Reign O'er Me』へ。4年前の灼熱の横浜で聴いた時と同じ心が掻き毟られるような凄まじさが全開である。音はしつこく悪いが、ギターソロは技術とかそういうものを全く超越したエモーショナルなトーンを奏で、エンディングではスタジオ盤と同じドラの音。感情過多と言ってしまえばそれまでだが、だからこそ「悩んだまま踊らせる」フーであるのだ。
ここ数年、というかここ数十年、フーの本編ラストは必ず『Won't Get Fooled Again』だったのだが、直前のUSツアーから『My Genaration』を後ろに持ってくるようにセットリストが変化していた。さて日本ではどうなるか、と身構えていたら……『Won't Get Fooled Again』の強烈なパワーコードがホールに鳴り響いた。
さすがに私がこの世で『Baba O'riley』の次に偉大と勝手に認定する曲である。非の打ち所のない構成、オープン・コード全開の超パワフルなギター、なおも音の悪さは改善されないが、もうすっかりキレまくりの叫びまくり世界に…… そして「ロックの魂そのもの」と評されたロジャーの叫びに呼応する観客の一斉シャウト、これだけはDVDでは決して体験できない生の魅力だ。さらに間髪入れず『My Genaration』、60過ぎたジジイが「ジジイになる前に死んじまいたいぜ」と歌うことのアイロニーがいろいろと揶揄される曲だが、今となってはそういうメッセージ性よりも、後半のインプロビゼーションがどれだけ凄いかを確かめるべき存在となっている。
ところが……やはりいまひとつピートが弾けていない、と思っていたら、妙にあっさりと終了。ピートはギターを置くなりザックの所へ駆け寄り、何やら物凄い形相で喚いている。そしてミネラル・ウォーターを口に含んで床に吐き散らし、不機嫌そうに一言「サンキュー」とだけ言って、ステージから消えていった。
これで会場が少し困ったような変な雰囲気になってしまい、アンコールの拍手も妙に冴えないものになった。後で情報収集したところ、ピートはもっと演奏を引っ張りたかったのに、ザックとの息が合わず、というか、ザックが勝手に終わらせてしまったことにピートが激怒した、というような事情らしい。それにしても、あそこまでキレてしまうとは、60過ぎても何て素敵なガキなんだ、ピート!
それでもアンコールに出てきた時は機嫌も直っていたみたいで、幾分笑顔も浮かべながら『Pinball Wizard』から始まるいつものトミーメドレーがスタート。この土壇場になってようやくPAが安定してきたようで、バンドの暴走を遅まきながら堪能することができた。
特に前回ロクオデでのハイライトだった『Amazing Journey』〜『Sparks』の流れはますますスゴイことになっていた。これでもかというほどの大音量と凄まじいコード・プレイ、何かが憑依したようなギターソロ…… その横でタンバリン叩いてるロジャーも限りなくカッコイイ。ピートのバードマン・ポーズも一歩引いて見たら笑っちゃうはずなんだけど、そうは見えないのがマジックとしか言いようがない。トミーメドレーの最後はこれまた定番の『See Me Feel Me』でシングアロング大会。この曲も日によって出来不出来が激しいんだが、今日は「平均点」といった感じ。 こういう風に冷静に点数を付けている自分がちょっと不思議なんだが、波はあったもののやっぱり全体としてノリ切れなかったこと、まだ4回も見れるという贅沢な余裕、地元ということもありどこかでウォーミング・アップ的に捉えていたこと、なんかが絡み合った結果なんだろうなぁ。でも一番の理由はPAの悪さだと思うけど。
ピートがおざなりに(?)メンバー紹介した後、ステージにロジャー&ピートだけが残り、アコギ一本で『Tea And Theatre』というオーラスを迎える。このエンディング・パターンの映像はDVDで見たことがあって、えらく地味だなと思っていたんだが、生で見ると感動的。キースもジョンもいないフーがなぜ成り立っているのか、この場でこの曲を聴いて初めて分かった気がした。
再アンコール……はなく、会場の照明が灯る。とにかくこれで初日は終了。後半かなり盛り返したとはいえ、個人的には4年前のロクオデの衝撃は越えられなかった。それが「フーのライブに慣れてきた」からなのか、「たまたま今日のフーが私の求めている姿じゃなかった」なのかは分からないけど。