【Railway Holiday】 やはり駅ソバは食べたかった | |
=1時間あたり52円、ビンボで暇な人のための鉄道大回り旅行= | 2002/2/17 |
『東京・大阪・福岡の近郊区間内だけを通る場合、乗車経路を重複したり、2度同じ駅を通らない限り、乗車券の運賃は実際の乗車経路にかかわらず、最も安くなる経路を使って計算できます』
時刻表後ろのピンクのページにこう書いてあるのが、いわゆる「近郊区間大回り」の根拠である。路線が輻輳する大都市圏では目的地へ到達するまでにいくつものルートが存在する場合があるが、星の数ほどの乗客の実際の乗車経路に基づいて切符を発行することなど現実には不可能なために設けられたもので、国鉄時代から知ってる人は知ってる有名な規定である。
たとえば大阪環状線で天王寺から寺田町へ行く時、普通は内回り電車に乗って3分後には着くのだが、別に外回りで弁天町→大阪→鶴橋、というふうにグルッと回っても構わない。これは何も環状線の電車がグルグルと周回運転してるからOKなんじゃなくて、大回り規定の適用によって可能になっているのだ。んで、これを近郊区間全体に拡大すると「隣の駅までの120円切符を買って何時間も大回り乗車」というのが可能になる訳である。
ただ、一旦改札口を出ると無効になるので、観光地を訪れることは出来ないし、駅舎を外から眺めることも無理である。単なる乗り回し目的でしか使えない手段だが、それでも長時間に渡って車窓の眺めを楽しみ、いろんな列車とのすれ違いを堪能するだけなら、これほど安い方法はないだろう。
そこで、まだディーゼルカーが田んぼの中をコトコト走る加古川線のローカル風味を味わうべく、初体験の大回り乗車をやってみることとした。
ある冬の日の朝、いつもより少し遅い阪和線の電車で出発。ゴールの立花駅を出札するのは2時半頃になるので、前もってパンと若干のお菓子を購入しておく。
堺市駅で関空快速に乗り換え、環状線を4分の3周して京橋へ到着。普段は京橋へ行くのは天王寺から内回りに乗るので、これも一種の大回りである。車内は大阪まで満員、大阪を過ぎると途端にガラガラになり、私の乗った車両などたったの3人だった。平日の昼間とは言え、大丈夫なんでしょうか? もっとも森之宮車庫で折り返すためだけの運転だから、客数はどうでもいいのかもしれないが。
京橋の改札を定期券+Jスルーカードで出場する。長時間の行軍に備え、まずはトイレを攻略した後、立花までの210円区間切符を購入。ちなみに乗車経路に従ってマトモに(?)買うと3,260円である。Jスルで入ってもよいのだが、カードにはタイムスタンプが記録されるらしく、何時間も経ってから自動改札に通すと必ずピンポン鳴るらしい。違法行為ではないから、駅員に事情を説明すれば無罪放免になるらしいが、そんな面倒も嫌なので、切符を購入することとする。それに切符の方が正しい大回りって感じがするし。もっとも検札の時にはJスルだと「乗り越しですわ」の一言で終わりだが、切符だと車掌によってはバトルを展開せねばならぬ。まあどっちもどっちか?
京橋駅から東西線経由宝塚行きの10時10分発快速に乗車。207系通勤電車でロングシート車である。電車はすぐに地下へと向かい、尼崎直前まで潜行を続ける。大都市圏新線の常とは言え、誠にツマラナイ路線だ。そういえば片町駅の跡はどうなってるんだろうか? 片町駅がないのに未だに片町線とは奇妙なネーミングだが、JRは「学研都市線」などというこれまた奇妙なニックネームで押し通しているので、正式名称なんかはどうでもいいのだろう。北新地駅で携帯が圏内になったことに感心してると、乗客の殆どが降りてしまい、またまた車内はガラガラとなる。
10時27分尼崎に到着。ここで大阪始発の丹波路快速に乗り換える。今度は阪和線・関西本線でもお馴染みの211系クロスシートで、ようやく旅気分が醸し出されてくる。窓際の席を確保して景色を楽しみたいが、かなりの混み様で通路側にしか座れない。昼間の下りだから空いてるだろうと思っていたのだが。
さて、いよいよ検札バトルの準備である。切符は勿論のこと、鉄道地図のコピーに今日の乗車経路をマーカーで塗って、即座にリロセイゼンと説明できる体勢を整えている私・・・・・・ だが、伊丹・宝塚と過ぎても、車掌はやってこない。「6両編成でこの混み具合だと検札に回る時間があるのだろうか? それに駅が近づくたびに生で放送してるし」などと思っていると、突然車両先頭で車掌が一礼。「来たっ!!」 私は身構えた。右手に210円切符、左手に鉄道地図、脳細胞に理論武装(#^.^#)
しかし、車掌はただ単に通路を歩いて後方車両へ行ってしまった。なぁーーーんだぁ、脅かすなよぉ、ってな訳で、どうやらこの電車では検札はないらしい。そして私は落ち着きを取り戻し、再び車窓に目を転じて名塩から武田尾付近の美しい渓谷風景を楽しむこととした。やがて三田に着き、半分ほどの乗客が下車し、空席の目立つようになった車内で私は窓際の席を確保した。ここから終着の篠山口までは各駅停車となり、景色も雪混じりののどかな田園風景となった。
11時26分定刻に篠山口駅に到着。大阪方面から来る電車の大部分はここが終着で、更に福知山方面に向かうには、2分後発車の113系2両編成に乗らねばならない。先ほどの快速に比べると何とも格落ちの感は否めない旧車両である。寒冷地のためか、主要駅以外は手動ドア扱いになっているようだ。
そのクリーム色のオンボロ電車は、接続よく11時28分に篠山口を発車。ドア横には「ワンマン」の札がかかっており、やれやれ検札はないわな、と安心して、2両目最後部に腰を落ち着けて、ふと後ろを見ると、何とジャニーズ系の車掌がいるではないか!! えーーーーー!! ワンマンって書いてるのにぃ!! そんなんキタナイでぇ!! と心拍は急上昇する。別に犯罪行為をしてるのではないのだが、やはり・・・・・・
やがて、そのジャニーズ車掌が一礼する。今度こそ来た!! と身構えると、「乗り越しなど御用のお客様は車掌にお申し出下さい」とのお言葉に続き、彼は私の横を通過して、前のほうで手を上げてるおっちゃんのところへ向かった。 また空振りなのでした(笑) ややこしいなぁ、もう。んじゃワンマンとちゃうやんか!(^^;)
農家の屋根にはちらほらと雪が積もり、ゆっくり走る電車を車が猛スピードで追い抜いていく風景が続く長い駅間を楽しむ。殆どが無人駅で、降車客は運転席横の運賃箱に小銭を投入していく。ここでふと疑問が生じる。「待てよ。谷川駅が無人だったら、運転手に210円切符見せなアカンのか? 無人駅やないとしても、加古川線のホームが離れてて、一旦改札通らないと駄目だとか?」 可能性は非常に薄いとは言え、気になりだすとどうしようもなく気になりだす。そんなこんなであまり景色を楽しむ余裕もないまま、11時45分定刻に谷川駅到着。
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谷川はちゃんと駅員もいて、乗り換えに改札を出る必要もない普通の駅であった。福知山線ホームから跨線橋階段の横の狭い通路を擦りぬけると、すぐに緑のディーゼルカーが一両ぽつねんと鎮座しているのが目に入った。さっきの2両編成ボロ電車も淋しかったが、今度はそれ以上の寂寞感である。車両はキハ40で、妙ちくりんなエメラルドグリーン(?)塗装がかえって浮いた感じを漂わせてしまっている。ただ、同じ緑でも跨線橋のくすんだ緑色はローカル駅舎のムードたっぷりで、駅舎に囲まれた車止めの風情も相まって、今企んでいるNゲージの情景のモデルにしたい素晴らしさだった。
当然ワンマンで検札がないことに安心しつつ、気動車特有のガラガラ音を発しながらキハ40は11時50分に谷川を出発。客は孫連れのおじいちゃん、おばちゃん2人、高校生3人プラス私、の合計8人。一見すると廃線危機も間近なような光景だが、何と加古川線は先だって全線電化が決定しているのである。何でも阪神大震災の際に、山陽本線の迂回線として思わぬ底力を発揮したことから、路線の運命が大きく変わったとのこと。人生何があるか分からないもんである。
加古川線は西脇市を境に運転体系が完全に分割されており、全線を走り通す列車は一本もない。谷川−西脇市間は全くの閑散路線扱いで、私の乗るグリーンキハ40も遅いのなんのって、多分30キロくらいしか出てないであろう。谷川を出てしばらくは森の中、唯一の名所である『日本へそ公園駅』前くらいからは、田んぼの中をトロトロと走る。こんなところが『大阪近郊区間』というのだから、JRも妙な考えをするもんである。そのお陰で210円旅行をしている身としては、JRに感謝せねばならないが。
谷川を出てから30分、12時20分に西脇市駅に到着。さすが加古川線の核となる駅だけあって、6線3ホームという大きな規模だ。しかし、その広大なスペースに発着する列車は最大2両編成・・・・・・ どこのローカル線でも見られる風景とはいえ、栄枯盛衰の感が心にジーンと沁みいる。ただ、沁みいってるのは私だけのようで、ホームに滑り込んだディーゼルカーから降りた乗客は、さっさと跨線橋(今度は白、これも良い感じなり)を渡って、街へ出て行くか、加古川行き列車を待つべく駅本屋側のホームへと急いでいる。
私はといえば、当然乗り継ぎ客であるので、改札口向こうのうどん屋を羨ましく 眺めながら、寒風吹きすさぶホームで次なるキハを待つ。待ち時間は22分。こういう時に改札口を出れないというのは結構辛いものがある。仕方がないので、トイレに入って、ホームの端から端まで往復したり、跨線橋の上からあちこち眺めたり・・・・・・という感じで待ち時間をつぶす。一方、改札口周辺にはどんどん高校生が溢れてきて、果たして2両編成で乗れるんかいな? という勢いである。今や、どこでもローカル線を支えているのは、こういう高校生乗客だ。
ピュンピュン吹き付ける北風に音を上げそうになった頃、ようやく加古川行き列車が折り返しで到着。先程と同じキハ40だが、車体側面には何やら派手な模様がペイントしてある。ヘッドマークには「せいりゅう号」と書いてあり、どうやら加古川をイメージしたものらしい。でも、時刻表にはそんな列車は乗ってないし、快速も走ってないし、単発のイベント用列車なのだろうか? 事情がよく分からないが、エメラルドグリーンだけでも田園風景から浮いているのに、更に浮きまくり、って印象だ。
車内に入ると、客の殆どは高校生で8割方の座席が埋まっていたが、なんとか窓際席を確保する。列車が走り出し、朝に買っておいたパンで簡易昼食を取ると、代わり映えのしない車窓風景と満腹感との相乗効果のせいか、急速に睡魔に捕われてしまう。ウツラウツラ・・・・・・
眠ってるような眠ってないような気分の中、2両編成キハ40は次第にスピードを上げていく。高校生を始めとする乗客たちも降りるより乗ってくる方が多く、気動車特有のエンジン音を除けば、大阪の通勤電車と変わらないような風景になってきた。結局、加古川線というのは西脇市以南、特に粟生以南が必要不可欠な路線として機能しており、従って電化の意義も十分あり、北部地域は南部の恩恵を被って一緒に電化される、ということらしい。
西脇市から加古川までは約1時間、そのほぼ中間に位置するのが粟生で、ここから分岐するのが国鉄北条線を引き継いだ第三セクターの北条鉄道である。加古川線ホームの向かいに小さなレールバスがちょこんと停車しており、形式は何ぞや、とカメラの望遠レンズで見てみると「フラワ1985」という表示であった。後で調べたところ、北条町にあるフラワセンターと開業年を合体させた型番で、一昨年投入された最新車両は「フラワ2000」というらしい。分かりやすくてヨロシイ。ついでに、3駅向こうの厄神から出る三木鉄道(旧国鉄三木線)のレールバスの形式は「ミキ」なんだってさ(笑)
粟生を過ぎて加古川が近づくに連れ、郊外住宅地がどんどん広がってくる。厄神から更に乗客がドッと乗り込んできて、車内はすし詰めに近いような状態になる。そしてそのまま1時35分終点加古川駅到着。ホームでは電化工事と思しきヤグラ組みがあちらこちらに目立っていた。ここからは乗り慣れた山陽本線の新快速+各停で立花へまっしぐら、だ。
予想通り、新快速での検札はなく、あれだけ意気込んだ車掌とのバトルは結局実現しなかった。そして芦屋で各停に乗り換え、いよいよ立花駅改札へと向かう。ここで、ふと新たな疑問が湧く。「ん?? そういえば京橋で買った切符に時間が印刷されてたなぁ。もしかしたらJスルだけじゃなく、切符もタイムスタンプ持ってるんやろか?」 そんな気持ちを胸に秘めながら、210円切符を自動改札へ通す・・・・・・ 2時18分あっさり出場完了・・・・・・ ちょっと淋しい(~_~;)
こうして4時間8分に及ぶ大回り乗車を終えた私は、直ちにJスルーカードを取り出し、15秒後には再び改札内の人となった。さぁ、次は桜井線&奈良線制覇だ!