【Music Holiday】 アンディ君、極悪兄弟の後ろで黙ってベース弾いてる場合じゃないよ | |
=さあ充電完了だ!! アニマルハウス『レディ・トゥ・レシーブ』= | 2000/7/3 |
ちょうど10年前、僕は毎日ライドのアルバムを聴き狂っていた。もはや伝説となった先行シングル三部作、通称「赤ライド」「黄ライド」「ペンギンライド」と、デビューアルバム『ノーホエア』。4人の若者の鳴らす少々甘いメロディを伴なった轟音サウンドは、ローゼズによって後ろから頭をぶん殴られた衝撃を受けた僕に、更なるロックの可能性を提示してくれたように思えた。ライドを語る時によく使われた初期衝動という言葉。音楽的思春期特有のグチャグチャにこんがらかった才能やら野望やら表現意欲やらが、一枚のCDに限りなく美しく刻まれた瞬間だった。
でもライドは始まりが終わりだった。セカンド・アルバムの冗長さに失望した僕は、それから殆ど彼らを聴くことはなくなり、解散に至るまでの6年間とそれからの4年間、僕はライドというバンドを1990年のカプセルの中に閉じ込めていた。そして今、バンドを支えた一方の才能アンディ・ベルが、中途半端なロック・ユニット、ハリケーン#1での中途半端な成功を経て、オアシスに電撃加入してその中途半端さを増す一方、沈黙を続けていた初期ライドの枢軸マーク・ガードナーが、ついに帰ってきた!
ライド時代の盟友ローレンス・コルバートをリズムの要に据え、サム・ウィリアムスを始めとする3人の優秀なミュージシャンとの有機的結合体を目指したバンド、アニマルハウス。全員が曲が書けて、歌えて、メロディとハーモニーがちゃんと存在しており、その上でグルーヴを感じられるバンド、というコンセプトは、マーク自身が、10年前に砕け散った初期衝動を、30歳の今に相応しい形で再構築しようとする意志の表れだ。轟音ギターと甘いメロディというライド時代からの彼の特質に加えて、時代の要請ともいうべきリズムへの配慮。しかし、それは決して緻密に計算されたものではなく、5人のメンバーが集まった時に自然発生的に生まれたグルーヴでしか持ち得ない“身に付いたしなやかさ”が発揮されている。もはや年齢的には思春期ではないにしても、古くからあるバンド・マジックという言葉の意味を再確認させるサウンド・プロダクションの新鮮さと活力感は、この新人バンドが新たな初期衝動を刻印することに成功していると間違いなく断言できる。
アルバム冒頭から、シーケンスなリズムと轟音ギター、ハーモニック・ヴォーカルが融合しながら爆走する。アニマルハウスというバンドの記名性を一瞬にしてリスナーの強烈に脳裏に焼き付けた後は、バラエティ豊かな曲達が次々と繰り出され、もうバンドの独壇場。ひたすら轟音の中に身を任せていったライド・サウンドとは距離を置く音作りだが、初期衝動の表出という点においては、ライド以降の数多くのバンドがなし得なかったレベルに到達している。裏返せば、アニマルハウスもこの1枚で終わってしまう可能性もある訳だが、2000年の現時点においては、その勢いだけで満点のアルバム。