【Scrap Holiday】 がんばれ兼末健次郎!! | |
=外から見えない腐ったミカン、三十路を過ぎての金八フリーク= | 2000/3/13 |
(←金八先生公式HPに載ってた絵、本人作か? かなり探しましたが、ジャニーズ事務所の監視が厳しいせいか画像は見つかりませんでした(^^;)
まさかこの歳になって金八にハマるとは全くの予想外であった。最初は朝ドラ『やんちゃくれ』のヒロイン小西美帆目当てで見始めた僕だったが、初回から強烈なパンチを食らったような衝撃…… あっという間に花子先生こと小西美帆はどっかへ飛んでいってしまった。こんなに毎週木曜9時が待ち遠しくなるとは。うーん、ヤラレた。
“十五歳の母”“腐ったミカンの方程式”…… 僕達の世代に共通のキーワードを生み出した『3年B組金八先生』だったが、十数年を経て復活したパート3とパート4は、正直言って時代の中学生の息吹をつかむことが出来ない不完全燃焼モードの作品だった。いや、浅井雪乃が妊娠したパート1だって、加藤優が荒谷ニ中で大暴れしたパート2だって、所詮作り物のドラマであることは間違いなく、醒めた目で馬鹿にするヤツは当時からいた。けれど、現実の中学校には金八先生はいないし、あんなにまとまりのいいクラスなんてないよな、とは思いながらも、僕はたっぷりと感情移入してたのだ、あの頃は。
さて、そんなパート1&2も昔日の栄光と化していた金八先生が、このパート5で突如大復活を遂げたのは何故か? ズバリ、その答えは一人の生徒にある。杉田かおる(浅井雪乃役)も直江喜一(これは加藤クン)も充分熱演であったが、パート1&2ではやはり、実際には性格が非常に悪いと言われている(>オイオイ)武田鉄矢演じる金八自身の魅力に負うところが大きかった。しかし、今回は金八は名実とも脇役に過ぎない。風間俊介、役名:兼末健次郎、パート5の生命力と魅力は全てこの少年から生み出されている。
健次郎はクラスの成績トップを争う優等生。教師の前では完璧なイイ子ちゃんを演じるが、裏にまわると人の弱みにつけ込んで友達を脅かし、自分は首謀者になることなく担任教師への暴力事件を言葉巧みに誘導する。従順な子分を従えて、自らのシナリオ通りに事が運ばないと子分を痛めつける。その権謀術数はまるで悪魔のようで、彼の心の深い闇はさしもの金八さえお手上げの状態だった。そんな健次郎を演じる風間クンは、ジャニーズJr.所属とのことで、なるほど甘いマスクをしているが、そんな外観が吹っ飛ぶほどの快演怪演は僕の度肝を抜いた。ホントにテレビをぶん殴りたくなるような卑劣な行動の数々と計算高いワル知恵。この時点ですっかりカザマニア(ファンの間ではこう言うらしい)となった僕だったが、物語が中盤から後半にさしかかるに連れ、風間クンの演技はさらに変幻自在となっていく。
現実には何の理由もなく、単に悪いヤツというのがやっぱりいて、人間性悪説なんかを時々考えてしまうこともあるのだが、少なくとも金八ワールドでは、悪を引き起こすにはその理由がきちんとある。健次郎の場合は一見裕福で平和に見える家族にその鍵があった。健次郎の兄も幼い頃からの優等生で東大に入ったものの、次第に引きこもるようになり、最近では家庭内暴力を振るう始末。父親は仕事に逃げ、兄を甘やかして育てた母親はオロオロうろたえるばかり、子離れできない母親と親離れできない兄の間に立ち健気に家庭を支えていた姉もスキーの事故で死亡、と、これはもう語るも悲惨な家庭環境なのだった。そんな最悪の状況の中で、家族を愛する健次郎は母を励まし、残された事実上唯一の子供として両親の期待に応える良い子であろうと努力する。しかし、その心の重荷は学校で極端な歪みとして噴出する。やりきれない家から逃げ出せる場所の学校で、健次郎は暴君のように振る舞う。
ホントに別の役者じゃないかと思えるほど、家の中の健次郎と学校での健次郎を演じ分ける風間クンは凄いの一言に尽きる。悪魔の健次郎が素に戻り、そして良い子健次郎に変わっていく。そんな過程をドキドキするほどスリリングに、軽やかに風間クンは演じる。しかし、そんな健次郎の2面性もついに破綻する時がやってくる。ある事件を契機として、クラス全員から一斉に反旗を翻された健次郎は、一転して非難中傷とシカトという孤独の闇へ沈んで行く。家庭での闇に加えて、学校でも襲ってきた闇。もはや彼は完全に逃げ場を失った。
学校へ来ても誰も口をきいてくれず、放課後の誰もいない校庭で大声で叫びながら転がりまわる健次郎。『てめえなんか犬に食われて死んじまえ!』という言葉にポツリと『オレもそう思うよ』と呟く健次郎。見ている方の胸を締め付けるこんなシーンが毎回テンコ盛りなのが、パート5最大の魅力である。淋しげな表情に時折差すほのかな微笑み、30を越えたオッサンがこんなことを言うのも変だが、ホントに愛しいほどの15歳の少年の心の機微が胸を打つ。
「金八なんてダサイ」そう思っている人は多いと思う。かくいう僕にしたって、見る前はそう思っていたんだから、そんな人達に今更金八を見ろ、というつもりはない。それに今から見たってきっと健次郎の大河ドラマ級の心の波が追っかけられないから、そんなに面白くないだろうと思う。だったらこんな文章を書く必要はないのかもしれないけど、風間クンの、と言おうか、健次郎の、と言おうか、彼の何か遠くを見つめる目が僕を捉えて離さないのだ。
最終回まで3回を残す3月9日の放送では、ついに健次郎が母親をナイフで刺してしまい、警察に捕らわれの身となってしまった。パート2の加藤優・松浦悟の逮捕シーンを彷彿とさせる場面であるが、『Amazing Grace』が流れる中、パトカーの後部座席から金八を振りかえる健次郎の表情は、あの伝説のパート2を遥かに越える感動をもたらしていた。TBSによると、「今までの金八先生とは違った終わり方」をするとのこと。果たして、健次郎に救いの手は差し伸べられるのだろうか?