【Music Holiday】 Y2K対応最新型ロック・チューン&オーストラリア産80年代型旧式ロックバンド2態 | |
=不定期連載音楽コラム 『Guitar And Pen』 Vol.3= | 1999/12/5 |
聴け! 怒れ! そして踊れ!? : プライマル・スクリーム『スワスティカ・アイズ』
一聴して完全にヤラれた。発売日に即ゲットして以来、まるで断末魔のジャンキーのように聴きまくっているプライマル・スクリームの超絶ハイパー・ニュー・シングル『スワスティカ・アイズ』は、問答無用のパワーで全てを押し倒す1900年代も最後の最後に世界に突き付けられた怒りの挑戦状。過去のアルバム5枚が全て異なるスタイルを持つという唯一無二のカメレオン・バンドが今回流れ着いた先は「怒り」。 プライマル、というか、ボビー・ギレスビーの嗅覚は、世紀末の米英帝国主義の復活に対するアンチテーゼを鳴らした。
「かぎ十時の瞳」即ちナチスの視線を意味するタイトルは、世界の警察官を我が物顔に自認する新アメリカ帝国主義への反旗を現わしている。殆ど罵詈雑言レベルの言葉を、ケミカル・ブラザース風のダンス・ロック・チューンに載せて、ボビーは怒りまくる。ケミカル・ブラザーズ風、というか、実はケミカルがミックスしてるんだが、4ヴァージョン収められたシングルの中のこのトップ・トラックは、『テクニーク』あたりのニュー・オーダーの雰囲気もあるし、スタイル自体は決して斬新なものではないが、全編に溢れる怒りのパワーがアーティストとリスナーの壁を突き破って、全ての人間を踊らせる。ニュー・オーダーほどのシニカルさ(言い換えれば冷静さ)がないだけ、絨毯爆撃のような衝撃で僕らを襲い、打ちのめし、そして共に立ち上がらせる。こう書くと時代錯誤のパンクのようだが、まさに70年代末期にパンクの洗礼を受けたボビーが20年の時間をかけて編み出したプライマル風パンク・ロックと言えないこともない。怒りのヴォーカルの後ろで鳴り響くのはもはやギターではないけれど、既存スタイルの解体と再構成を目指したパンク〜ニュー・ウェイヴの理念は、ボビーの中で確かに実現されている。
2トラック目は、ベースとギターのアクセントをより強調したデビッド・ホルムズ・ミックス・ヴァージョン。こちらの方は、最強のベース・マン、マニのブリブリ・ベースを骨格にしているため、思わず、足元のゴミ箱を思いっきり蹴り上げてしまいたくなるような(オイオイ)一層暴力的な仕上がりになっている。個人的にはこのヴァージョンの方が好み。
前作シングル『イフ・ゼイ・ムーヴ、キム・エル』(マイブラのケヴィン・シールズ・ミックス)から、得体の知れない力強さで更なる進化を始めたプライマル・スクリームは、来るべき2000年1月に6枚目のオリジナル・アルバムをリリースする。さあ、座して待て!!
□ ソニー・オフィシャルHP(試聴可)
ポップ&キャッチー、極めて80年代的なバンドではありますが…… : リトル・リヴァー・バンド
スカパーでは、よく意表を突いた昔のライブ・ビデオを流していて、思わず感慨に耽ってしまうのだが、最近見た中で特に印象に残ったものが2本あった。
1本目はリトル・リヴァー・バンド。果たしてどれくらいの人が、このバンドの名前を知ってるのかが大変不安になるのだけど、70年代後半から80年代前半にかけては、全米ヒット・チャートでも常連の中々メジャーな人気バンドだったのだ。よく練られたギターサウンドと綺麗な多重コーラス、と書くとウエスト・コーストのバンドのようだが、実は彼らはオーストラリア出身で初めて世界的成功を収めたという輝かしい履歴の持ち主。78年には『追憶の甘い日々』というシングルで(しかし凄い邦題!)全米No.1を獲得。初期から中期のイーグルスやポコのようなウエスト・コースト・サウンドをベースにしながら、サザン・ロックにも通じるもっと骨太いゴリゴリ・ギターや豪快なリズム・セクションも披露する結構懐の深いバンドだった。
そして彼らの活動の頂点となったのが、81年のアルバム『タイム・エクスポージャー』。ジョージ・マーティンをプロデューサーに迎えた本作は、ちょっとトータル・アルバム風の構成を取り入れたポップ・ロックの隠れた名盤。特にアルバムの冒頭を飾るファースト・シングル『ナイト・アウル』は、マイナー調のメロディに鋭いリード・ギターと完璧なコーラス・ワークが重なる珠玉の作品で、僕は今でも「裏ホテル・カリフォルニア」な曲だと思っている。全てが素晴らしい中でも、とりわけ素晴らしいのが、エンディングで延々と奏でられるギター・ソロ。うーん、やっぱ「裏ホテ・カリ」だな。
2曲目以降も捨て曲なしの傑作オンパレード。セカンド・シングル『思い出の中に』の儚い透明感と力強さ。夢の中でミュージカルを見ているような錯覚を起こさせる『バレリーナ』。青臭いまでの希望賛歌と人生応援に溢れた『風まかせの人生』『愛はいつまでも』。たった一分半の中に日常のやるせなさとそこからの脱出をアカペラで歌い上げた『フル・サークル』……
あの頃は高校生で全然お金がなくて、このアルバムもレンタルしてカセットに録音したものを聴きまくっていたのだけど、いや、未だにCDは買ってない。テープもケースもボロボロになったこのカセットで聴くことが、リトル・リヴァー・バンドを聴くってことなんだなぁ、ってずっと思ってるから。でも、もういい加減、音ヘタってきたなぁ…… そろそろCD買いますか?
スカパーでやってたのは、その『タイム・エクスポージャー』発表後のツアーを収録したビデオ作品。彼らのライブ音源に接するのは初めてだったんだけど、18年前に僕を虜にした全ての魅力は、見事にステージ上でも再現されていた。結局、このアルバム以降は人気が尻すぼみで、メンバー脱退のゴタゴタなんかもかなりあったみたいだけど、今でも地道な活動は行っているらしい。また、あのコーラスを聴いてみたいな、と思わせてくれた素敵なライヴ。
ゴリゴリゴリ、ロックはリフじゃぁ! : AC/DC
2本目は、これまたオーストラリアのバンド、AC/DCの96年のスペイン・マドリッドでのライブ。久し振りに見たアンガス・ヤングは、やっぱり半ズボンに上半身ハダカでした。おっと、さすがにランドセルは背負ってなかったけど。
AC/DCの全盛期といえば、やはり80年代で、もともと熱心なファンじゃなかった僕は、ここ10年ばかりは完全に御無沙汰してたのだけど、それにしてもこの変化のなさ、は何なのだろう? アンガス・ヤングのモジャモジャ頭も薄くなって、しゃ枯れ声でスクリームするブライアン・ジョンソンの顔の皺は増えたけど、音はなぁ〜〜んにも変わってない。僕の知らない曲も沢山やってたが、みんなリフは一緒。というか、リフしかないのだ、このバンドは。今月号のロッキン・オンのインタビューで、ベックが『AC/DCのギター・リフに対抗できる人なんている?』と発言してたように、ロックン・ロールの最も根源的な構成要素であるギター・リフの魅力だけで20年以上やってきたバンドなのだ。大して才能があるように思えない紋切り型ヴォーカルのブライアン・ジョンソンがどんなパフォーマンスをしようと、大砲をバンバンブッ放す単純かつ爽快な舞台装置があろうと、ひとたびアンガス・ヤングが首を上下に振りながらあのリフを弾き出せば全てオールライト!! どんなロック理論も評論家的視線も破壊する生理的快感が僕らを支配する。
ニルバーナ、レッチリ、ガンズ、そしてオアシスからベックに至るまで、80年代中期以降に登場した重要なミュージシャン達の中に、AC/DCへのリスペクトを表する者は多い。それはベックが言うように、つい吸いこまれてしまうような抗えないリフの魅力にハマッてしまうからなのだろう。世間一般ではヘビメタ的な扱いをされながら、全くジャンルの違うアーティストからも純真な尊敬を受けるAC/DCは、もはやメイン・ストリームには位置していないけど、現代のロックを根っこで支えるゴッドファーザー・オブ・ロックス、のひとつに違いない。
『バック・イン・ブラック』と『悪魔の招待状』絶頂期に発表されたこの2枚のアルバムだけは、今更ながら再認識のロック・マスト・アイテム。