【Cinema Holiday】  思わず読めもしないハングル・フォントをインストールしてしまいました
      =泣けない大感動作『八月のクリスマス』と韓国映画祭:その4=    

1999/11/21

韓国映画シリーズ最終回は、映画祭5本目の作品と、オマケ作品をひとつ。

wb01480_.gif (190 バイト)映画としてはちょっとツライかも? 泣かせるための反則技連発『手紙』wb01480_.gif (190 バイト)
(1997年韓国作品、監督:イ・ジョングク、出演:チェ・ジンシル、パク・シニャン)

tegami2.JPG (104796 バイト)    怒涛の(?)韓国映画祭の見納めは、オープニングの『ゴースト・マンマ』でも幽霊ママで大活躍してたチェ・ジンシルが薄幸のヒロインを演じる『手紙』。1997年の韓国国内興行収入でトップを独走した古典的なメロドラマで、何の衒いもないストレートなストーリー展開と演出は、ちょっと製作者の確信犯的なところも感じさせる印象だった。

   筋立ては至ってシンプル。チェ・ジンシル演じる大学研究員のジョンインは、ある日、田舎の小さな駅で落とした財布を拾ってくれた大学院生のファニュと恋に落ちる。研究の道と結婚という幸せの選択に悩む彼女を、ファニュは結婚後もずっとサポートすることを約束して口説き落としてしまう。実はファニュもアメリカ留学を捨て、ジョンインとの生活を選んだのだった。そしてやってきた夢のような結婚生活。

   しかし、ファニュは悪性脳腫瘍に侵され病身の身となる。ジョンインの献身的な看病のかいもなく、彼の病状は悪化の一途を辿り、やがて他界してしまう。そして、悲しみに暮れ、自殺しようとまで絶望するジョンインの元にファニュからの“手紙”が届く。

   とにかく出会いから新婚生活までのドリーミングな期間、げっそりと痩せこけたファニュの姿も痛々しい苦闘の闘病生活、取り残されたジョンインの深い悲しみ、と定番のオンパレードで、ちょっと引いてみてしまう部分も多かったのだが、“手紙”が届いてから後の描写は、やはり定番的ではあるものの、「これで泣かねば何で泣く?」とも言える程の感動シーンの連発。“手紙”は間を置いて何回か届けられるのだが、特に最後の“手紙”の場面は、ひときわ悲しみを誘うもので、劇場中からすすり泣く声が聞こえてきた。

   きっと吉永小百合と浜田光夫が出てた昔の日活青春映画には、よくあったパターンじゃないのかな、と全然知らないにも関わらず、そんなことを思ってしまった。ダサイ、と言ってしまえばそれまでだけど、そもそも恋愛なんて他人から見たらダサイもんだし、闘病は苦しいに決まってるし、愛する人が死んだら悲しいに決まってる。その現実をどうスクリーンに焼き付けるか、という点で、この作品と『八月のクリスマス』は正反対である。『手紙』が大ヒットして、恋愛映画ブームに火が付き、その延長線上に『八月のクリスマス』が位置しているらしいのだが、その描き方が乾いた感動へとシフトしているのは、感性のブレを表現しただけなのか、それとも映画技巧の深化と捉えるのか? いずれにしても、『手紙』も悪い作品じゃないけど、僕としては何度も繰り返し観たいのは、やっぱり『八月のクリスマス』だなぁ。

wb01480_.gif (190 バイト)韓国ではサントラも馬鹿売れ、ルー・リードのしゃがれ声が感動を呼ぶ『接続』wb01480_.gif (190 バイト)
(1997年韓国作品、監督:チャン・ユニョン、出演:ハン・ソッキュ、チョン・ドヨン)

setsuzoku.jpg (31269 バイト)    という訳で、韓国映画祭では5本の作品を観たのだが、運良く同時期にNHK教育の不定期枠「アジア映画劇場」で名作の誉れが高い『接続』が放映されたので、オマケに感想を書いてみたいと思います。

   物語の中心を担うのはパソコン通信。顔も知らない二人がメールとチャットを通じて愛を深めて行く……といえば、殆どの人は『ハル』や『ユー・ガット・メール』を思い出すだろう。実際、製作年が後の『ユー・ガット・メール』はともかく、『ハル』との相似は、韓国でも公開時にかなり取り沙汰されたらしい。しかし、似ているのはパソ通というツールが登場する点だけで、物語の深みや鑑賞後の満足感からすれば、遥かに『接続』の方が上質であると言える。

   ハン・ソッキュ演じるラジオ局のディレクター、ドンヒョンは、昔の彼女を忘れることができず、ある種醒めた投げやりな日々を送っている。彼の番組に配属された新人女性脚本家に慕われ、一夜の関係も持つが、恋愛で傷つくことを恐れ、彼女との距離を置こうとする。そんなある日、彼の元にボロボロになったヴェルヴェット・アンダーグラウンドのレコードが届く。昔の彼女からの無言のメッセージだと気付いたドンヒョンは、LPの中の『Pale Blue Eyes』をオンエアする。一方、友達の彼氏に密かに恋している通販会社のオペレーター、スヒョンは、高速道路を帰宅途中に、大きな事故に巻き込まれそうになるが、間一髪難を逃れる。その時、カーラジオから流れていたのは、ドンヒョンのかけた『Pale Blue Eyes』だった。その曲の中に不思議な安堵感を感じたスヒョンは、ドンヒョンのラジオ局へEメールを出す。

   こうしてパソ通を介した二人の関係が始まるのだが、他のパソ通映画と違うのは、お互いが殆ど最後の瞬間まで、相手に恋愛感情を持たない点。お互いにやりきれない恋を抱え、画面の向こうの相手は、夜のほんの一瞬を分け合う関係に過ぎない。大体、延々とメール画面が大写しになっていた『ハル』とは違い、チャットやメールの場面は最小限に抑えられている。ここでは、パソ通を特別なものではなく、もはや電話や手紙と同じような日常ツールという観点でしか捉えていない。だから、ストーリーの転機は、殆どパソ通場面以外のところに表れる。ツールのための映画ではなく、映画のためのツール、という当たり前の手法が実行されていることが、逆にとても新鮮に感じられるのだ。

   中盤以降は、他人と深く関わることを拒否し続けるドンヒョンが、何故かスヒョンの片想いに積極的なアドバイスを与えていく中で、彼の心に新たな希望が生まれてくる過程が丁寧に描かれていて、気になるスヒョンの恋の行方と併せて、観客はドンドン映画に引きこまれて行く。そして、何回も繰り返してバックに流される『Pale Blue Eyes』が、そのせつない感情の高まりを更に増幅させる。男でも惚れてしまうそうになるハン・ソッキュのストイックな色気と、健気さと儚さを同時に体現できる理知的な女性チョン・ドヨン(何とこの作品が実質的なデビュー作!)という主演二人の力量も素晴らしく、限りなく美しいラスト・シーンの余韻は、観客にこの上ない幸福感をもたらす。

   たったひとつの難点は、ストーリー上極めて重要な役割を果たすヴェルヴェット・アンダーグラウンドのレコードが入手困難なものとして設定されていること。うーん、『Pale Blue Eyes』という渋好みの選曲はともかく、ロック史上に燦然と輝くこのバンドのアルバムが手に入らないってことはないと思うのだが…… まあ、揚げ足取りだけど。

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   以上、『八月のクリスマス』に始まり、今まで縁のなかった韓国映画の世界をちょっと覗いてみたのだが、巷では「インドの次は韓国だ!」とばかりに、韓国映画ブームの到来を予言する人も多いようである。その中心となるのは、やはりハン・ソッキュ主演もの。本国では『タイタニック』の興収を抜いて史上最大のヒットとなったスパイ・アクション大作『シュリ』が、韓国映画としては最多の上映館数で年明けから全国公開される。そして、『接続』のチャン・ユニョン監督が、シム・ウナとの『八月のクリスマス』コンビを再共演させた『tell me something』は、猟奇的な連続殺人事件をハード・コアに描くミステリー大作。さぁて、ハン・ソッキュは日本でもブレイクするか?

wb01627_.gif (253 バイト)Seeker's Holiday Camp