【Cinema Holiday】 映画は娯楽か芸術か? この永遠の課題はまだまだ解けそうもないです | |
=泣けない大感動作『八月のクリスマス』と韓国映画祭:その3= | 1999/11/20 |
韓国映画シリーズ第3回は、「アジアフェス'99:韓国映画祭」で観た対照的な2つの作品を……
実はシリアスな演技もすごくうまいんだそうです『ガンマン』
(1995年韓国作品、監督:キム・イソク、出演:パク・チュンフン、イ・ファラン)
自分は本当に“ダメ田ダメ夫”で、世間の何の役にも立ってなくって、自分で自分が情けなくてしょうがない気分になることはないだろうか? ちなみに僕は数え切れないくらいある。そんな星の数ほどいるダメ夫の密かな願望を、韓国のコメディ王パク・チュンフンがカラッとした愉快な笑いと共に叶えてくれるのが、この『ガンマン』だ。観終わった後の爽快感といったら、思わず劇場をスキップしながら退場しそうになっちゃうほどだった。
主人公テソは製薬会社広報部に勤める気の小さいサラリーマン。取引先ではオチョくられ、家では妻に馬鹿にされ、子供にも冷ややかな目で見られ、もっと強い男になりたいと願いながら昨日と同じ毎日を送っている。ところが、トイレで取り違えたカバンに本物の拳銃が入っているのを見つけた日から彼の人生が変わった。妻を誘惑する男を撃退し、友人を脅す借金取りを追い返し、おまけに仕事も急にうまく回転し始めて部長にまで出世してしまう。
前半のテイストは『世にも奇妙な物語』風の小粋な雰囲気だが、後半に入るとストーリーは、劇的に展開し始める。休日に家族で出かけたデパートで出くわしたのは、何と不良米兵の強盗現場。生来の臆病がすっかり消えた(ように思っている)テソは妻子を守るために敢然と立ちあがるが……
ここからは、もう完全なジェット・コースター・ムービー。落ちつくと思えば、また新たな出来事が絡んで、ゴロゴロと転がりだす。そのストーリーだけでも可笑しくいのに、妙に体格のいいパク・チュンフンがオロオロと情けなくテソを演じるもんだから、観ている方の頬はたまらなく緩みっぱなしなのだ。話だけ追ってると「そんな訳ないやろ!!」の連発で、しかもエンディングは無茶苦茶強引な大団円なのだが、映画館にいる2時間だけでも、自分がダメ田ダメ夫であることをすっかり忘れさせてくれる素晴らしい功績によって、五つ星授与の爽快作。
ところで、このパク・チュンフンという人は、大魔神佐々木に似てるように思えてしょうがないのだが、皆さんどう思います?
芸術のための芸術か、観る方の素養不足か?『豚が井戸に落ちた日』
(1996年韓国作品、監督:ホン・サンス、出演:キム・イソン、パク・チンソン、イ・ウンギョン、チョ・ウンスク)
『ガンマン』とは打って変わって、極めて難解かつ感覚的な映像表現で綴られるのがこの『豚が井戸に落ちた日』。いきなり意味不明な題名は、韓国の諺か何かであろうと思っていたのだが、そうでもないらしく、全部見たら意味が分かると思っていたら、結局サッパリ分からなかった。とにかく、この謎のタイトルも含め、極端に説明を省いた監督の直感のみで構成された作品。
売れない中年作家、彼と不倫関係にある主婦、彼を慕う映画館のモギリの女の子、そして主婦の亭主。物語は大都市ソウルに住む4人の男女の数日間を描いていく。モギリの女の子以外は殆ど喋らないもんだから、観ている方は、最初は4人の関係がよく飲みこめず、不倫をしている二人が果たして本当に愛し合ってるのか、亭主は妻の不倫を知ってるいるのか、それをどう思っているのか、なんてことが全く分からない。恐らく、登場人物に語らせないこと自体が映画の狙いの一つなのだろうが、いくら何でもこれは不親切。不倫カップルの姿が描かれた後、次に出てくるのは疲れた中年サラリーマンで、実は男は不倫妻の亭主なのだが、あまりにも前の場面との繋がりがないので、オムニバス作品かと思ってしまった程だ。このパターンは次のモギリの女の子の登場場面でも同じで、バラバラに見える個々のストーリーが最後には集約されていくという構成だと理解した後でも、遅々とした展開と主人公達の理由のない行動の連続にものすごくイライラしてしまった。
そしてようやくやってくるエンディングは全く絶望的なもの。やるせないなんてものではない。観ているこっちまで頭がおかしくなってしまいそうな、どうしようもないエンディングである。では、この作品はつまらなかったのかというと、そう断定することも出来ない。僕の中では、観てから一ヶ月たった今でも、果たしてこの映画が面白かったのかどうかさえ分からないのだ。
題名に首を傾げ、説明不足にイライラし、不快なまでのエンディングに絶望させられたにも関わらず、一方では是非もう一度見たいという欲求も沸きあがってくる。監督ホン・サンスはデビュー作のこの作品で、一気に世界的な評価を得たそうだが、確かに評論家的な視点からすれば一級の芸術品なのだろう。しかし、その評価は一観客である僕には充分理解できなかった。「お前なんかに簡単に分からないからこそ芸術なんだよ」と言われればそれまでなんだが……
この作品の4人の主人公のうち3人は役柄のせいか中々感情移入できないのだが、唯一の例外はモギリの女の子を演じるチョ・ウンスク。この映画でただ一人前向きに生きていこうとする彼女の清楚な笑顔は暗く沈んだスクリーンの中で一際輝いている。