【Cinema Holiday】  魅力的な女性たちと暖かいストーリー
      =泣けない大感動作『八月のクリスマス』と韓国映画祭:その2=    

1999/11/14

   「アジアフェス'99:韓国映画祭」は、10月後半に大阪国際交流センターで開催され、1995年以降に製作された13本の現代韓国映画が集中上映された。俄か韓国シネマファンの僕としては、勿論全てを観たかったのだが、そうもいかないので、ネットで情報収集の上、公開当時の評判が高かったものを中心に5本を鑑賞した。

wb01480_.gif (190 バイト)分かっちゃいるけど泣いてしまう『ゴースト・マンマ』wb01480_.gif (190 バイト)
(1996年韓国作品、監督:ハン・ジスン、出演:チェ・ジンシル、キム・スンウ、パク・サンア)

choi_jin_sil.jpg (25940 バイト)    映画祭のオープニング作品となった韓国のトップ女優チェ・ジンシルの代表作のひとつ。子供が生まれたばかりで幸せ絶頂の夫婦を襲った悲劇は、妻インジュの交通事故死。同乗していた赤ちゃんは奇跡的に助かるが、夫チソクは悲嘆に暮れ、酒浸りの自暴自棄な日々を送る。チソクの大学時代からの同僚や密かにチソクを慕う職場の地味目な女性ウンスクも、子供の世話を買って出るなど彼の力になろうと努力するが、彼の心の空白は例えようもなく大きかった。ついに自ら命を絶とうとするチソク。しかし、そこに現れたのは、彼にしか見えず、彼しか声を聴くことの出来ない妻インジュの生前と寸分違わない姿だった。

   とまあ、ここまでは何年か前にニューヨークのどこかで展開されたようなパターン。しかし、この作品が何故本国で大ヒットとなったかは、ここからのストーリーにある。幽霊とは言え、再びインジュと共に暮らせることの喜びを初めは満喫するチソクだったが、次第にインジュとの心のズレを感じるようになる。子供や母親に触れることの出来ないインジュは苛立ち、息子タビンを甘やかすチソクと衝突する。そして健気にチソクに想いを寄せるウンスクにも疑惑の目と幽霊ならではの妨害行動を実行する。そして、これから生き続ける人間と幽霊とのどうしようもない深い溝を認識した二人はお互いにある決心をする……

   全体に漂う雰囲気はひと昔前の日本映画的なテイスト。それは、普段欧米の作品ばかり見ている僕にとっての、アジアの中でも最も日本と共通点の多い韓国文化への親近感なのかも知れない。しかし、この作品が優れているのは、洋の東西を問わずどこの家庭・どこの恋人同士にもある小さなトラブルと悩み・そこからの脱出を、ひとつひとつ丁寧に描いている点にある。若いカップルのような下らない理由で喧嘩するチソクとインジュ。自分の容姿にコンプレックスを抱きながら、チソクへの愛から、今までの生活を捨て生まれ変わろうとするウンスク。娘を亡くした悲しみを無数の深い皺で静かに訴えるインジュの母親。ストーリーはこれらの小さな断片を積み重ねて、やがて二人の大きな決断へと自然に持って行く。その流れには全く無理がない。展開が予測できる古典的な作りの「泣かせ映画」だと分かっていて、何とか抵抗しようとするものの、ついホロリときてしまうのだ。

   幽霊の妻インジュを演じるチェ・ジンシルは、韓国を代表するトップ女優。清楚な笑顔と時折見せる気の強そうな表情が印象的な女性で、80年代から30歳を超えた今まで、数多くの若手女優の出現にもかかわらず、コケティッシュな才能でますますその存在感を増している。一方、インジュとウンスクの間で悩みぬく好青年チソクを熱演するキム・スンウは、絵に描いたような二枚目俳優。映画の導入部は、この美男美女がアツアツのカップルを演じるもんだから、観ている方はちょっと引いてしまいがちになるのだが、冴えない女性ウンスクの登場で、話はグッと引き締まり、スピーディーに動き出す。もっとも、「美しく生まれ変わったウンスク」より、その前のメガネをかけた髪の毛ボサボサのウンスクの方がええやん! と個人的には思ってしまったのだけど。

wb01480_.gif (190 バイト)痩せたいのは女性の願望か、男性の願望か?『コルセット』wb01480_.gif (190 バイト)
(1996年韓国作品、監督:チョン・ビョンガク、出演:イ・ヘウン、イ・ギョンヨン、キム・スンウ)

lee_hyeeun2.jpg (29089 バイト)    ロバート・デ・ニーロが『アンタッチャブル』のアル・カポネ役のために何十キロも太ったというのは有名なエピソードだが、それは男性だから出来た技だろう。と思っていたら、この作品の主演女優イ・ヘウンは、女性ながら何と15キロも増量して撮影に望んだそうである。まさに見上げたプロ根性としか言いようがない。おまけにラスト近くでは、その太った裸体を一糸纏わず鏡の国で披露するという大サービスもあって、ストーリーもさることながら・イ・ヘウンの存在感が最大の魅力となっている作品。

   下着メーカーのトップ・デザイナー、ソンジュは順調な仕事の反面、太目の体型にコンプレックスを持ち、上司からも太っている女は会社のイメージ低下になるからマスコミに出るなと言われる。ところが、ある日社内一の色男イファンに口説かれ、しばらく夢見心地の日々を過ごす。しかし、自分の容姿への不安感と時折訪れるイファンへの猜疑心はどうしようもなく、ふらりと入った街外れの小さな料理屋の板前サンウに悩みを打ち明ける。

   『ゴースト・マンマ』では、主人公のチェ・ジンシルに負けない熱演だったキム・スンウは、この映画では軽くてキザな魅力ゼロの男を徹底して演じ、代わりに素朴なヒーローとなるのが決して二枚目とは言えない板前サンウ役のイ・ギョンヨン。ソンジュの敵役として美貌抜群、仕事優秀な女性スインが現れて、イファンをモノにしてしまうなど、かなりストーリーは紋切型なのだが、ソンジュとサンウの会話シーンがとても丁寧に作ってあるので、性別に関係なく、ふたりそれぞれの悩みに素直に共感できるようになっている。特に、サンウが子供の頃からの自らのコンプレックスを打ち明けて、ソンジュを励ますシーン、そして、打ちのめされたソンジュを自分自身の生き方を肯定することでソンジュを立ち直らせる場面は秀逸で、夜のソウルに降る雪があんなに暖かく美しく見えるのは、サンウの気持ちがソンジュに伝わったからなんだろう。

   沢山の悩みをソンジュに負わせたにもかかわらず、最後まで殆ど答えは示されない。エンディングは開き直りとも言えるような強引さだが、この作品の主題は、答えることではなく問いかけることなのだ。だから、一見単なる観客サービスのように思える鏡の国のシーンが必要だったに違いない。太っているけど、とってもチャーミングなイ・ヘウンの笑顔も一際印象的なハート・ウォーミングな作品でした。

wb01627_.gif (253 バイト)Seeker's Holiday Camp