【Music Holiday】 3時間後にはどうなってるか分かりません | |
=生鮮食料品的選出『無人島に持っていくこの5枚』= | 1999/2/11 |
今月号の『ロッキン・オン』に、「巷にはいまだに『無人島に持っていくこの1枚』とか言って嬉しそうにあーでもないこーでもないと選んでいる馬鹿がいるんだろうか?」という編集長のお言葉が載っていたので、御期待にお答えして、嬉しそうに選んでみることにしました。
ただし、1枚では面白くないので、1アーティストの複数枚選出はナシとして、5枚にパワーアップしてみました。
(製作年順、1999年2月11日現在、ちなみに毎日変わります(;^_^;)
♪ Quadrophenia / The Who ♪
(四重人格/ザ・フー , released in 1973)
やっぱり出たか、のこの1枚。後の4枚は日変りでも、このアルバムだけは絶対に外れることはない、ザ・フー17年の歴史の中でも間違いなく頂点に位置する2枚組超大作。しかし、今までに一体何度この作品を聴き返したことだろう?
主人公のジミーは、勉強も出来ず、彼女も友達に取られ、仕事を転々とし、親には厄介モノ扱いされるクダラナイ奴。たったひとつの心の拠所だったロック・バンドにも裏切られ、かつて派手な喧嘩をしでかした海岸へ逃げるようにたどり着き、そして海に溺れる。やがて混沌とした意識の彼が得たものは……
とにかく、洋の東西も男女も何も関係なく、全ての人間が経験する普遍的な悩みをさらけ出し、そして何の回答も与えない。このアルバムはそういう未完成を以って究極の完成とした作品である。
そんなストーリーを導くサウンド・プロダクションの完成度もまた桁外れである。いつもにも増して歌いまくるキースの破天荒なドラムと、それに絡みつくジョンのリードベース、コード中心のギコギコなノコギリ・ギターの色彩を残しながらも感情たっぷりのリードを聴かせるピート、そしてジミーの心の叫びを最大限に伝えるロジャーのダイナミックなボーカル。巨大な蒸気機関車が何者をも寄せ付けずに疾走するが如き重量感。
『ロックンロールは悩みを解決はしない。悩んだまま踊らせるのだ』というピートの思想を、音心両面で最も理想的に昇華した奇跡の1枚である。
♪ Rank / The Smiths ♪
(ランク/ザ・スミス , released in 1988)
『ビートルズ以来最も重要なイギリスのバンド』と評されたスミスのオリジナル・アルバムはたったの4枚。一般的な評価が最も高いのは3枚目の『The Queen Is Dead』だが、僕はその直後のツアーの様子を収録したこのライブ盤を選ぶ。
楽器が弾けず詩を書くことしか出来ないヴォーカリスト、モリッシーと、詩が書けず楽器を弾くことしか出来ないギタリスト、ジョニー・マーの関係によってのみ成立していたこのバンドの本質は、暴力なき透明な暴力性だった。モリッシーの書くひたすらに文学的な詩をマーのメロディアスなフレーズでくるむことで、超一級品のロックに仕立て上げた彼らだが、実はどこまでも暴力的な奴らだったんじゃないのだろうか?
このライブ盤に収録されているミディアム・バラード『I Know It's Over』の後半で延々と続くモリッシーのファルセット・ボイスと、それに対峙して過剰なまでに奏でられるマーの情緒過多なギターは、お互いにバラバラの方向を向きながら、僕らの首を絞めつける。この曲の後半3分だけでもロックの歴史に残る、80年代の残滓とも言えるアルバム。
♪ The Stone Roses / The Stone Roses ♪
(石と薔薇/ザ・ストーン・ローゼズ , released in 1989)
スミスが空中分解した後、その余韻から長く抜け出すことの出来なかったイギリス・ロック・シーンをありとあらゆる意味でひっくり返したストーン・ローゼズのデビュー・アルバムにして最高傑作。ちなみにNMEの選ぶ80年代ベスト・アルバムでもある。
ビートルズ、バーズといった先達の要素を巧みに取り入れながら、スミスの残した負の遺産を否定したポジティヴィティを最大の武器にした彼らは、新しい時代の主役はミュージシャンではなくオーディエンスなのだと高らかに宣言した。ステージではなく客席にスポットライトの当たる照明、踊るということは肉体的なものではなく精神的なものであると定義したそのライフスタイル。ネガティヴィティの時代だった80年代の最後の最後に現れたローゼズは、このたった1枚のアルバムと数枚のシングルでロックの基軸を大転換させたのだ。
バラードでもアップテンポの曲でも、アルバム全てに共通するのは、溢れんばかりのポジティヴィティに裏打ちされたキラメキの音。結局、ローゼズは6年後にセカンドアルバムを出したっ切りで、スミスの分解を模倣するようなギタリストの脱退劇で解散してしまうが、このファースト・アルバムのキラメキが色あせることは決してない。
♪ Automatic For The People / R.E.M. ♪
(オートマティック・フォー・ザ・ピープル/R.E.M. , released in 1992)
4枚目にしてようやく出てきた現存バンド。アセンズのカレッジ・バンドから長い時間をかけてジワジワと世界を代表するバンドへとその地位を高めていった「アメリカの良心」R.E.M.の8thアルバムは、全作品中、もっとも暗いトーンを持ちながら、聴き終えた後に高揚感を滲み出させる不思議な雰囲気を僕らに与えてくれる。
結成当時から、政治的なスタンスと極めて内省的な感覚を両立させてきたバンドだが、このアルバムでは例外的に後者の比重が高くなっている。彼らにしては珍しく、比喩もヘッタクレもない権力批判ソング『Ignoreland』に政治面を全て押し込んで、残る全編では夢とも幻ともつかない人生模様を描くことに専念している。
今や自殺防止ソングのスタンダードになった『Everybody Hurts』、フォーク崩れの軟派な奴らと見下してた人々の目を覚まさせた重厚なロック作品『Drive』など前半部も素晴らしいが、何より圧巻なのはラストの3曲。月を歩いて『Man On The Moon』、夜に湖を泳ぎ『Nightswimming』、川を探す旅に出る『Find The River』。この組曲風の流れは、外界から隔離された感覚を思わず疑似体験してしまう浮遊空間。そして終わった後は、明日へと向かう元気が涌き出ている自分を発見するのだ。
R.E.M.からは、一昨年ドラマーが脱退し、彼らは残された3人で現在の活動を続けている。彼ら自身も言うように、「今は長年の友人と分かれた痛手をじっくりと癒すリハビリ期間」なのだろう。もう一度、息を呑むような傑作を生み出してくれる日を待つことにしよう。
♪ Eventually / Paul Westerberg ♪
(イベンチュアリー/ポール・ウエスターバーグ , released in 1996)
音のセンスは全く違うものの、ある意味でニルヴァーナ以降のグランジ/オルタナ革命の思想的原点とも言えるリプレイスメンツの元リーダー、ポール・ウエスターバーグが、バンド解散後に発表したセカンド・ソロ・アルバム。
リプレイスメンツは、古くからのアメリカン・ロックをルーツとしながら、新世代の生々しい息吹を吹きこんだ無骨なロックを生み出すバンドだったが、ソロになってからのポール・ウエスターバーグの作品は、よりセンシティブに、より自分自身をさらけ出す方向へとシフトしている。実質的なファースト・ソロであるサントラ盤『Singles』や、ソロ名義第1作『14 Songs』にも増して、このアルバムでは、感傷的な要素が全編を支配している。
彼は、『Good Day』で「良い日は生きている日全て そう 生きている日全てなのさ」と感情たっぷりに歌い、また『Time Flies Tomorrow』で、「きっと明日は良い日だろう こうして二人出会ったのだから」と恥ずかしげもなく、しゃがれ声で歌い上げる。一歩間違えれば、ベタベタの感情過多でどうしようもなくなるようなこんな言葉達も、40に手が届こうかという髭ヅラのオッサンが必要最小限のバック・バンドで歌うと、この上なく感動してしまうのだ。それは多分、毎日の生活の中からポロッと転げ落ちてくる彼の本当の言葉だからなんだろう。
そんな素晴らしいオッサンの3年ぶりのソロ第3作は、今月末のリリース。さあ、みんな買いに行ってちょ!