【Cinema Holiday】 恋愛に年齢は関係ない、とは言いますが…… | |
=夢の世界に浸れなかった準佳作『マイ・スウィート・シェフィールド』= | 1999/1/30 |
『マイ・スウィート・シェフィールド』は原題を『Among Giants』というのだが、Giantsってどんな意味なのかな? 巨大な、だから、ストーリーから推察するに「巨大な鉄塔の間で」とでもなるのだろうか? 全然邦題と違う…… そんなにスウィートじゃなかったぞ。
現在のイギリス映画ブームの火付け役『フル・モンティ』の脚本家サイモン・ボーフォイが書き下ろしたこの作品の主人公は『ブラス!』で頑固者のバンドマスターを熱演したピート・ポスルスウェイト。ロック・クライマーの彼は(恐らく)50過ぎの頭も薄い初老の男である。妻と離婚し、仕事をコロコロ代えては食いつなぐ毎日を送る。そして今度の仕事は、クライマー仲間とともに、250基もの電力会社の鉄塔にペンキを塗り上げるというもの。危険な仕事だが金はいい。もっとも仕事を斡旋した電力会社の男は口八丁手八丁のいい加減な奴で、何かと理由をつけては給料の支払いを遅らせようとする。そこへやってくるのが、放浪癖のあるオーストラリア人の若い女性クライマー。彼女はどういう訳か男達の鉄塔塗りに参加し、やがて初老の男と恋に落ち…… という導入部。
この映画、写し出す風景は素晴らしい。広い高原に延々と続く鉄塔と電線。俯瞰ショットを多用し、ペンキを塗る彼らの鳥のような視点を観客に与えてくれる。そしてその風景をバックに交わされる無骨な男達の仕事っぷりとユーモアあふれる会話が、テンポよくストーリーの進行を助ける。
しかし、肝心の初老の男と女性クライマーの恋物語の説得力が致命的に弱いのが、この作品を佳作に押し上げるのを阻んでしまった。いくら愛に年齢は関係ないとはいえ、二人の年齢差は少なくとも20歳、下手すりゃ30歳以上である。男は腹が出てるし、まだらの薄い白髪頭、声はしゃがれ声。こんな男に若い女が惚れるなんてことは、そりゃあタマにはあるだろうが、それなりの人間味の深さとか優しさとか、そういったものがないと難しいんじゃないだろうか? ところが、この話ではそんな人物描写を抜きにして、いきなり二人が相思相愛に落ちてしまうので、見ている方はさっぱり訳が分からない。二人の「愛の会話」はとても素敵な言葉に仕上がっているけど、いかんせんスクリーンを見ているだけでは感情移入が難しい。
結局、このストーリーの核がボヤけているので、映画全体の印象も今ひとつ冴えないものになってしまった。鉄冷えの街シェフィールドに住む男達の日常の描き方なんかは、『フル・モンティ』に通じるものがあって面白かったのだが、トータルでは「もう少しでしたで賞」に留まってしまった作品。
そういえば、ガスタンクの屋根の上で愛を語り合うシーンがあるのだけど、『シューティング・フィッシュ』でも全く同じ場面があったなぁ。イギリス人って、ガスタンクとか鉄塔とか、巨大人工構造物が好きなのでしょうか?