【Music Holiday】  7年たっても芸風に進歩がない……
      =これが親方の原風景だ! ひとりよがりのフレディ・マーキュリー追悼文再録=    

1999/1/30

Originally released in Jan. 1992

<<注1>>
この駄文は、偉大なるフレディ・マーキュリー同志が逝去された時に、テキトーに書き殴ったものである。今読み返すとソートー恥ずかしい部分もあるが、とりあえずそのままアップすることにした。思う存分笑って頂きたい。
<<注2>>
読んで頂ければ分かると思うが、この文章はクイーンを全く知らない人を対象とし、テキトーに厳選したカセットテープと、おまけに歌詞対訳まで付けて配布したものである。で、結局は、曲を聴かないと何が何だか分からん構成なんだが、ネット上ではどうしようもないので、今回はテキストのみにした。だったら、wavとかmp3で対処せんかい、と言われても、そんな面倒くさいことはしません。この文章で万が一クイーンに興味を持たれた方は、筆者までカセット希望のメールを送るか、自力でCDを手に入れてください。

heaveve.jpg (23757 バイト)【生徒】
 老師、フレディ・マーキュリーが死んだそうですね。
【老師】
 …………
【生徒】
 あの……
【老師】
 …………
【生徒】
 何か言ってくれないと困るんですけど。
【老師】
 合掌。
【生徒】
 それは分かりましたから、もう少し実のあることを。
【老師】
 フレディ・マーキュリーは永遠に不滅です。
【生徒】
 長嶋じゃないんですから。
【老師】
 じゃあ、一体何を言えって言うんだよ?
【生徒】
 老師、落ち着いてください。この対談の趣旨を忘れていませんか?
【老師】
 そんなもん、あるのか?
【生徒】
 あのねえ、巷で安易に流れるクイーンにむかつくって言ったのは老師でしょ。それで俺が真のクイーン道を説いてやるって言ったでしょうが。
【老師】
 ああ、だんだん思い出してきたぞ。『セイヴ・ミー』がフレディの作品だなんて書きやがった雑誌があったんだ。あれはブライアンなんだよ、馬鹿野郎!
【生徒】
 老師、ちょっと下品になってませんか。
【老師】
 いや、つい我を忘れてしまった。すまんすまん。
【生徒】
 とにかく、僕もクイーンはほとんど知らないんです。最近、よく「ママミヤレッミーゴー」とかいう歌を聞くんですけど、題名も知らないんです。もうひとつ、ついでに言っちゃえばフレディ以外のメンバーの名前も知らないんですけど。
【老師】
 まあ、君も若いから無理もあるまい。クイーンなんて二十代前半以下の世代はロクに知らんだろうな。俺ぐらいが最後だろう。
【生徒】
 老師は何年生まれなんですか?
【老師】
 1965年、ザ・フーのデビューの年だ。
【生徒】
 あの、ざふーって何なんですか?
【老師】
 お前、フーも知らんのか? 3大ブリティッシュ・バンドのひとつで、ロジャー・テイラーのフェイバリット・グループだよ。
【生徒】
 あの、ロジャー・テイラーって誰なんですか?
【老師】
 ええ加減にせえよ。ロジャーはクイーンのドラマーやろが。
【生徒】
 だから、さっき言ったでしょ。クイーンのメンバー名も知らないって。
【老師】
 あ、そうだったな。
【生徒】
 まあ、老師もイラつくでしょうから、とりあえず一曲行きましょうか。
【老師】
 お前はDJか。勝手に仕切るな。
【生徒】
 まあ、情緒不安定なのは分かりますから、どの曲にします?
【老師】
 そうだな、ほんじゃあ、『シーサイド・ランデヴー』でも行くか。

     『シーサイド・ランデヴー』1975

opera.jpg (48565 バイト)【生徒】
 何ですか、これは?
【老師】
 驚いたかね、生徒君。クイーンは単なるそこいらのロック・バンドとは違うのだよ。カテゴライズ不能というのがクイーンの魅力なのだ。そしてその魅力の源泉はフレディの飛び抜けてエキセントリックな美意識と才能にあるのだ。
【生徒】
 何だかよく分からないんですけど、先にメンバーの名前を教えてもらえませんか。
【老師】
 よしよし、ヴォーカルとキーボードがフレディ・マーキュリー、ギターとヴォーカルがブライアン・メイ、ベース・ギターがジョン・ディーコン、ドラムスとヴォーカルがロジャー・テイラーだ。
【生徒】
 で、リーダーはフレディなんですか?
【老師】
 いや、クイーンにはリーダーはいないんだ。作曲数からいうとフレディ3.5、ブライアン3、ロジャー2、ジョン1.5ぐらいなんだが、バンド運営上は四者一致の完全ミーティング制度が貫かれていたんだ。
【生徒】
 そうなんですか。
【老師】
 今日は時間もないので、フレディ中心に話していこうと思ってるんだが、クイーンは4人の有機結合体だということをちゃんと覚えておくように。
【生徒】
 それで、次はどれにします?
【老師】
 さあ、泣け。『ラブ・オブ・マイ・ライフ』だ。

     『ラブ・オブ・マイ・ライフ』1975

【老師】
 …………
【生徒】
 …………
【老師】
 …………
【生徒】
 老師が泣いてどうするんですか。まったくもう。
【老師】
 やかましい。誰がこのメロディーを聞いて泣かずにおれようか。いや、おれない。
【生徒】
 何でここで漢文の反語の練習をしなきゃいけないんですか。
【老師】
 中間部のピアノを聞いたか。何という気品高く、もの悲しい旋律であろうか。そしてラストのハープシコードの余韻。ああ、女王は何故にかくも美しいのか。
【生徒】
 (独白−このオッサン、完全にナチュラル・トリップしてるぞ。これやからおたくは難儀やなあ。)
【老師】
 おい、聞いてんのか?
【生徒】
 聞いてますよ。
【老師】
 では、感想を述べよ。
【生徒】
 確かにとても美しい曲ですね。でも、2曲聞いた限りでは優秀なラブ・ソングライターに過ぎないような気もしますけどね。
【老師】
 フッフッフッ。どうせそんな答えだろうと思っていたよ。では、そんな君にこの曲を捧げよう。

     『伝説のチャンピオン』1977

news.jpg (66774 バイト)【生徒】
 誇大妄想狂ですか、この人は?
【老師】
 まあ、そう言えなくもないがな。彼は根っからのナルシストなんだ。世界中で自分が一番悲しい男だと思ってるんだ。本当に自分を分かってくれる奴がいるなんて頭から信じない。現実世界には適応できないんだ。だから絵の具で塗り固められた耽美世界へのめり込んで行った。『ラブ・オブ・マイ・ライフ』や『シーサイド・ランデヴー』が彼の耽美世界の反映だとすれば、『伝説のチャンピオン』はその裏返しの現実世界への挑戦状なんだ。
【生徒】
 要するに分裂症なんじゃないんですか?
【老師】
 分裂症というのとはちょっと違う。彼にとって愛への探求と世界への挑戦は同じ目的なんだ。恋愛の幸福を求めつつ、それが決して充たされることのないものであることを彼は知っている。だから、世界に唾を吐くことによって、そんな自分を奮い立たせるのだ。
【生徒】
 じゃあ、そのコインの裏表を見なければフレディは理解できないということですね。
【老師】
 そういうことだ。彼は自分の劣等心、といっても回りには中々分からないものなんだが、そういうマイナスのパワーをプラスのパワーに昇華させていたんだ。だから、寂しがりのピアノ弾きという見方も、自信過剰のヴォーカリストという見方のどちらも片寄ってるな。どっちもフレディ自身なんだから。
【生徒】
 ところでこの曲、売れたんですか?
【老師】
 売れたも売れた。全米1位だ。これでついに全世界制覇を成し遂げたのだ。アルバム『世界に捧ぐ』は300万枚だ。文句あるか?
【生徒】
 別に文句はありませんけどね。で、前の2曲は何ていうアルバムに入ってるんですか?
【老師】
 言い忘れてたな。『オペラ座の夜』だ。世間一般ではクイーンの最高傑作と言われている。じゃあ、次だ。

     『永遠の翼』1977

【生徒】
 これはまたガラッと感じが違いますね。とても聞き易いし、すぐ口づさめそうだし。
【老師】
 それもそのはず、これはベースのジョンの作品だ。
【生徒】
 フレディ・マーキュリー追悼じゃなかったんですか?
【老師】
 フレディのばかり聞いてると初心者は肩が凝るんじゃないかと思ってな。それにこういう曲の方が彼の歌のうまさがよく分かるだろう。全くヴォーカリストとしても完璧だな。
【生徒】
 老師、盲信的ですね。
【老師】
 ファンとは古今東西そういうものだ。盲信的でないファンなんておかしいぞ。
【生徒】
 そりゃあそうですけどね。
【老師】
 最後のギター・ソロも泣かせるだろ。ブライアンという奴も偏屈者でな、20年以上も前のハンド・メイド・ギターを未だに使っている。フレディのヴォーカルをサポートするんじゃなく異種格闘技を繰り広げるのだ。ブライアンのギターがあればこそ、フレディのヴォーカルも生きる。
【生徒】
 こういう曲はライヴで盛り上がるでしょうね。
【老師】
 ライヴか。じゃあ、ライヴ盤からひとつ行ってみようか。Let's shake your body & clap your hands!

     『ドント・ストップ・ミー・ナウ』1979

killers.jpg (43717 バイト)【生徒】
 摩訶不思議な曲ですね。
【老師】
 だろう。こういう曲は努力して書けるというもんじゃないんだ。インスピレーションというか、天賦の才能のなせる技だろうな。
【生徒】
 老師、そう言ってしまえば音楽評論の意味がなくなるじゃありませんか。
【老師】
 だけど、渋谷陽一も言ってるぞ。ビートルズの『アビイ・ロード』を聞くたびに、評論するということが馬鹿馬鹿しくなるって。
【生徒】
 評論家がそんなこと言ったら、自分の首を絞めるようなものじゃないですか。
【老師】
 それはそうなんだけど、世の中にはそれほどとんでもない作品があるって事だよ。
【生徒】
 それにしても、異常なテンションですね。間奏のヴォーカル、ギター、ドラムスの絡み合いなんか筆舌に尽くし難いものがあるのを感じました。
【老師】
 うまいこと言うな。そろそろ、フレディ・マーキュリーなる人物がただ者ではないことが分かってきただろう。んじゃ、次これ。

     『アンダー・プレッシャー』1981

hits1.jpg (40880 バイト)【老師】
 これはフレディとデヴィッド・ボウイの共作だ。これほどスリリングな共演も他にあるまい。
【生徒】
 背中がゾクゾクしますね。真ん中のボウイが「love,love...」って歌い出すとこなんか。
【老師】
 82年に俺は西宮球場でクイーンのコンサートを見たんだ。その時の生『アンダー・プレッシャー』の感動と言ったら、もう思わず体中に寒気が走ったのを覚えているよ。静と動がすりかわる瞬間の刹那的高揚だ。ああ、うまく言えない。
【生徒】
 いやほど言ってますよ。全く、すぐ興奮する人だな。
【老師】
 では落ち着くために、悲しいこれを聞いてみよう。

     『ライフ・イズ・リアル』1982

hot.jpg (71995 バイト)【老師】
 80年12月8日にジョン・レノンが射殺されたのは知ってるだろ? これはレノンに捧げた曲だ。この歌詞を見るとフレディの人生観が生々しく分かる。
【生徒】
 「人生は売女」なんて凄い表現ですね。もう音楽しか信頼できなかったのかな。
【老師】
 彼は生涯独身だった。ロンドンの大邸宅にはメイドと運転手の他には、10匹以上の猫がいて、彼は表面上きらびやかなライフ・スタイルを描きながら、その実、リアルな現実から逃避していたんだ。
【生徒】
 『伝説のチャンピオン』現象ですね。
【老師】
 そう、この曲はレノンに捧げるというよりも、フレディの人生に対する叫びなんだ。レノンの死はその触媒に過ぎなかった。
【生徒】
 何という多重人格。行くとこまで行ってますね。
【老師】
 ああ、コインのどちら側を向くにしてもとことんまでだ。フレディの辞書には断じて中庸という言葉はない。
【生徒】
 …………
【老師】
 どうした?
【生徒】
 少し怖くなってきて……
【老師】
 ハハ、フレディは怖い奴さ。そして優しくて、寂しい奴さ。もう充分分かってるじゃないか。
【生徒】
 そうですか?
【老師】
 じゃあ、最終段階へ行こうか。

     『狂気への序曲』1991

inn.jpg (45868 バイト)【生徒】
 気色悪い曲ですね。
【老師】
 どうやら、89年に彼はエイズの宣告を受けたらしい。迫り来る死への恐怖のフレディ流の表現だ。まあ、今となって言えることだがね。発表当時は何のことかよく分からなかったというのが真相だ。
【生徒】
 不治の病を患った気持ちってどんなんだったんでしょうね。テレビ・ドラマではよくあるけど。
【老師】
 その前に何か気付かないか? 選曲の間隔がやたら空いているだろ?
【生徒】
 それは、その間に単に老師の好みの曲がないだけの話でしょ?
【老師】
 まあ、そうとも言えるんだけど、つまりは作品のレベルが低いって事だ。この時期のクイーンは完全にバラバラだった。既に全世界を制覇し、チャレンジャー精神を失った彼らは、惰性で程々の作品を生み出すだけの存在になってしまった。もっともライヴでは相変わらず超絶的なパワーを誇っていたけれども、新しい何かを生み出すパワーは消え失せていた。過去形のバンドになりつつあったのだ。
【生徒】
 それでよく持ちましたね。
【老師】
 89年に発表された『ザ・ミラクル』を聞いた時、クイーンはまたやってくれたと思ったよ。復活したんだ。とにかくメロディがどうの、演奏がどうのと言う前に勢いが感じられた。一体感が戻った。それでこれも今だから分かるんだが、フレディのエイズ宣告がバンドに危機感をもたらし、皮肉にもバンド復活の引き金となったのだ。
【生徒】
 そして、この曲に続く訳ですか。
【老師】
 そうだ。ラスト・アルバム『イニュエンドウ』は、太陽が沈む前の最後の輝きだ。
【生徒】
 何か悲しくなってきました。
【老師】
 俺の方が泣きたいよ。それじゃあ、もうひとつ『イニュエンドウ』から『輝ける日々』を聞こう。

     『輝ける日々』1991

【生徒】
 「アイ・スティル・ラブ・ユー」というのは『ラブ・オブ・マイ・ライフ』と同じですね。フレディの得意フレーズなんですか?
【老師】
 この曲はロジャーが中心になって書いたらしいが、最後のフレーズだけはフレディの俺たちへのメッセージに思えて仕方ないんだ。
【生徒】
 ちょっと冷静には聞けませんね。いろんなことを考えてしまって。
【老師】
 今となってしまえば、どうにでも解釈できるからな。こっちが思い込み過ぎてる場合もあるかもしれん。ファンなんて勝手なもんだ。アーティストと本当に通じ合うことなんて出来やしない。だからこそ、フレディは何度も「アイ・スティル・ラブ・ユー」と歌ったんだ。通じ合えないと分かっているからこそ、より理解しあいたいものなんだ。
【生徒】
 最後まで真摯だったのかな?
【老師】
 真摯というよりも、限りなくオプティミスティックなペシミストだったということだろうな。その答えがこの曲だ。

     『ショウ・マスト・ゴー・オン』1991

【老師】
 これがラスト・アルバムの最終曲だ。
【生徒】
 ショウとはどういう意味なんでしょうか?
【老師】
 まあ、どうにでも訳せるけどな。やっぱり“人生”かな。自由に解釈してくれよ。
【生徒】
 「人生は続いて行く」ですか。
【老師】
 フレディが死んでから、あちこちの宣伝文句にやたらこの言葉が使われている。それだけ分かりやすいメッセージということだな。でも俺は「僕は空を飛べるんだ………友よ」のところがフレディのラスト・メッセージだと思うけどな。ほんとに飛んで行っちゃったんだ。


bohrhap.jpg (21911 バイト)【老師】
 これでとりあえず終わりだ。最後はどうも暗くなってしまったな。
【生徒】
 仕方ないでしょう。なにぶんナニがアレですから。
【老師】
 そうだな。
【生徒】
 ところで最初に言った「ママミヤレッミーゴー」っていう曲が出てきてないんですけど。?
【老師】
 それは『ボヘミアン・ラプソディ』だ。最後にとっておいたんだよ。
【生徒】
 早くかけてくださいよ。
【老師】
 待て、俺はこの曲を聴いた後10分間は誰とも話したくなくなるんだ。だから、最初に説明しておこう。
【生徒】
 随分、大層なんですね。
【老師】
 それだけの意味のある曲なんだ。フレディはこの曲を書くために生まれてきたと言っても過言ではない。
【生徒】
 そういう時は、大概、過言なんですけどね。
【老師】
 黙らっしゃい! 超緻密な構成、魂の乗り移ったオペラティック・ハーモニー、ブライアン一世一代のギター・ソロ、そして何よりも重要なのはフレディの歌う「Mama〜」の余韻だ。この余韻こそ、フレディ自身なのだ。
【生徒】
 分かりました、分かりました。
【老師】
 分かってない! 「いっそのこと 生まれてこなければよかったと」と歌うフレディの気持ちが貴様ごときに分かってたまるか!
【生徒】
 老師、単なる危ないおたくになってますよ。
【老師】
 …………
【生徒】
 それでは『ボヘミアン・ラプソディ』行ってみよう。
【老師】
 …………

     『ボヘミアン・ラプソディ』1975

【老師】
 …………
【生徒】
 …………

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