【Cinema Holiday】 普通じゃなく生きるって難しいけど、やってみたくないですか? | |
=この夏見た映画の感想など:その3(今回は1本だけ)= | 1998/9/27 |
邦題『普通じゃない』、原題『a life less ordinary』、そしてサブタイトルは "a love story from the filmmaker of Trainspotting"。つまりはそういう映画である。監督ダニー・ボイル、製作アンドリュー・マクドナルド、脚本ジョン・ホッジ、そして主演ユアン・マクレガーのチームが、またまた胸のすくような傑作を送り出してきた。ただ、違う点は、この作品はアメリカ映画だということ。ポリグラムと20世紀Foxの資金援助を受けた形で、生粋のイギリスチームがアメリカで作ったアメリカ映画なのだ。
とはいえ、もともとの話自体が『トレインスポッティング』とは最初からまるで違う。キングス・ユーモアが根底にあるとはいえ、悲惨な青春を生々しく描いていたトレスポに比べて、この作品はまるっきりのファンタジー。この土台がアメリカを舞台にしたことから決まったのか、それとも土台が最初にあって舞台がアメリカになったのかは分からないが、どっちにしてもイギリス的な感性をアメリカというフィルターを通して表現させた試みは大成功に終わったと言えるだろう。
オープニングは白一色の世界。そこでは天使たちが忙しく働いている。地上の人間たちに幸運をもたらすのが天使の役目だが、最近は妙に現実的になった人間たちが夢や奇跡を信じなくなっていた。そこで出来損ないの天使ペアに、上司の天使から命令が下った。「地上にファンタジーを復活させるのだ。あの大金持ちのお嬢様とその近所にいる冴えない若者をくっつけるのだ。成功するまで、こちらに戻ってくることは許さん」
かくして、天使ペアの地上での大奮闘が始まる。気ままワガママなお嬢様セリーンを演じるのはこれ以上ないほどのハマリ役キャメロン・ディアズ。冴えない清掃人ロバートにユアン・マクレガー。勝気な女の子と気の弱い男の子の出会いは、何と誘拐だった。
誘拐といっても、行き当たりばったりの思い付きでやったに過ぎず、元々父親に反感を持ってたセリーンに終始リードされっ放しのロバートは、次第に彼女への恋心を感じ始める。一方、セリーンは何につけても煮え切らない態度のロバートにイライラしながらも、やはり少しづつ好意を持つようになり……
基本的にはファンタジー・タッチの作品だが、二人がドタバタしながら逃げていく様はロード・ムービーの趣も醸し出していて、おまけに、何とかいろんな仕掛けをして二人を恋人にしようとする天使ペアがそこに登場すると、ブリッティッシュ・コメディにも変貌する。そんな多面性を発揮しているのも、この作品の優れたところだ。
特に、天使ペアの女性オライリーを演ずる(どうして天使なのに女性なのかな?)ホリー・ハンターが40歳(!)とは思えないキュートさで、デルロイ・リンドー演ずる気は大きくて力持ち的なポジションの男性天使ジャクソンと一緒に画面に登場するだけで、画面の雰囲気が一瞬にして和んでしまう。
でも、そんな天使ペアもやることは結構キツイ。セリーンとロバートがどうしてもくっつかないとみると、墓に生き埋めにして危機感から恋心を呼び起こそうとしたり、挙句の果てには天国に帰れない腹イセに二人を誘拐して地上で暮らす生活資金をせしめようとしたり。
イギリス的なユーモアとペーソス。この映画で語るべきことがそれだけなら、単なる佳作の域を出なかっただろう。そこからワンステップもツーステップも駆け上がって、『トレインスポッティング』以上の作品に仕上げることのできた要因は、映画全体に漂うアメリカ風味の絶妙なブレンド。前半で展開されるロード・ムービー的逃避行の舞台となるユタ州の砂漠の多い風景は、その最たるものだ。ロスやNYなどの大都市が舞台だったら、ロンドンとそう変わらない。あの大きなアメリカを支えているのは広い広い田舎で、そんな田舎をバックグラウンドに選んだからこそ、イギリスに対するアメリカを一瞬にして印象付けることが可能になったのだ。
そして決定的なのが、お嬢様セリーン役のキャメロン・ディアズの存在感。『ベスト・フレンズ・ウェディング』に代表される典型的なグッド・アメリカン・ガールを演じることの多かった彼女だが、この作品ではそのパブリック・イメージを少し崩して、かなり変わり者のキレたお嬢様を演じている。いつもセリーンに高飛車に命令さえてムカついているロバートだけど、次の瞬間にセリーンが見せる飾り気のない素顔に惹かれてしまう。その描写を何の無理もなく引き出すキャメロン・ディアズの小悪魔的・キッチュな天性の魅力は、この映画の最大の見所だ。
更に『トレインスポッティング』同様に映画の柱となっているヒップな音楽達。ルシアス・ジャクソンやベックといったアメリカン・オルタナを中心に、アイルランドの若手バンドアッシュ、ダブ・ロックの新星アラバマ3等の楽曲を配した構成は、トレスポほどじゃないけど、映画を盛り上げる重要な要素になっている。
特に、見た後もずっと脳裏から離れなかったのが、天使ペアがロバートを生き埋めにしようとするシーンで延々と流れるR.E.M.の『Leave』。2年前の既発曲なのだが、全く新しい生命力を得たように、スクリーンの中から生き生きと切なく響いてきた。この辺りになると、選曲も含めたトータル・センスの高さに脱帽せざるを得ない。
エンディングは、予想通り全員がハッピーになるんだけど、その持っていき方がかなり強引。でも、ファンタジーだからいいんです。トレスポみたいな「陽気で悲惨な現実」の後は、「陽気で幸せな現実」が必要なんだから。こんな楽しくてホロリとくる大人の童話を作ってくれたボイル監督とそのチームに感謝!!