【Cinema Holiday】 キーワードはバート・バカラック? 英米揃って巨匠への敬意 | |
=この夏見た映画の感想など:その2= | 1998/9/26 |
この夏の洋画オモテヒットbPが『ディープ・インパクト』ならば、ウラヒットbPは文句なく脅威のマサラムービー『ムトゥ 踊るマハラジャ』になると思うのだが、諸般の事情で(と言うほどの事情はない、ちょっと病気しただけ)結局見ないうちに終わってしまった。あーあ、惜しいことしたなぁ。
今日は、この夏に見た映画の感想その2ということで、2本ほど書いてみたいと思います。
魚を撃つのは容易い=騙すのはチョロイ、という意味だそうです
まずは、ちょいとお洒落で気楽な楽しい佳作だった『シューティング・フィッシュ』。本国イギリスでは昨年の『トレイン・スポッティング』を凌ぐ興収を記録したそうだが、こちら日の出づる国では……でした。
主人公は孤児院育ちの二人の若者。ひとりは文字が認識できないという失読症に悩みながら、口からデマカセのスピード・トークを武器にする二枚目野郎、相棒は自分の容姿にコンプレックスを持ち、内気な性格のテクノオタク兄ちゃん。この二人は大邸宅を手に入れるという子供の頃からの夢の実現のために数々の詐欺を重ねる毎日。そうとは知らずに、詐欺の片棒担ぎのキーパンチャー・バイトに女子医学生が雇われたことから、ストーリーは展開する。
とにかくテンポが良い。詐欺師コンビの2人には無名の役者を登用し、医学生役にはコスチューム女優のケイト・ベッキンセイルをショートカットにして登場させたことにより、青年期特有の無茶苦茶な勢いが溢れんばかりの新鮮な印象が焼きつく。本筋は、大邸宅への夢の実現なんだけど、テクノオタク兄ちゃんのもどかしいばかりの恋の悩みや、病弱な弟を抱える医学生の家庭問題などが効果的に散りばめられ、二枚目野郎のマシンガン・トークが全体のテンポを引き締めていく。王室への皮肉たっぷりなジョークもあり、かと思えば夜空を見上げながら語り合うなんていうベタベタにロマンティックな場面もあって、『トレイン・スポッティング』『フル・モンティ』以来のイギリス映画の基本的なツボは全て押さえている。無名の新人監督(正確には2作目らしい)にしては、心憎いばかりの手練である。
詐欺師コンビが騙してるつもりが、結局医学生に騙されてしまい、最後はみんなハッピーエンドにナダれこむという単純といえば単純なハナシなんだが、何かいいことをしたようなチョットハッピー気分になる映画だった。
あと、『トレイン・スポッティング』以降のイギリス映画の重要な特徴となっているCoolな音楽も、60年代のバート・バカラック作品をブリット・ポップ勢に歌わせるという技アリで五つ星。
で、バカラックといえば……
次は、アメリカの明石家さんまこと(?)マイク・マイヤーズの一人舞台『オースティン・パワーズ』。キャッチ・コピーが「バカも休み休みyeah!!」っていうくらいなので、内容は推して知るべし、のオバカ映画である。
ストーリーは単純明快、60年代イギリスの国家スパイ、オースティン・パワーズは世界征服を目論む恐るべき悪の帝王イーブルと激烈な攻防を繰り広げるが、形成不利になったイーブルは、冬眠装置を使って眠りに逃げる。パワーズも対抗して同じく冬眠に入り、そして1997年、蘇った悪の帝王に対抗させるために、イギリス諜報部はパワーズを眠りから呼び戻すのだが……
そんなこんなでハナシはドタバタと進んでいくのだが、ハッキリ言ってストーリーはどうでもいい映画。アメリカのひょうきん族+ベストテンとでも言うべき人気TVプログラム『サタデー・ナイト・ライブ』と、そこから生まれた超オバカ音楽コメディ映画『ウェインズ・ワールド』を作ってきたマイク・マイヤーズ、思わずニヤリとしてしまう小ネタの洪水。僕なんぞより昔のスパイ映画に詳しい人にとっては、そのオマージュが更に抱腹絶倒なんだそうだが、僕はそこまで元ネタを知らないので、ちょっと残念だった気もする。
それでも、ストーリーに何の意味もないギャグ、特に相棒の美人諜報部員とのエッチなシーンで繰り出されるギャグの連発は、何の意味もないだけに強烈に面白い。また、キッチュでヒップなファッションと音楽もナイス。要は、そういう「周辺」を楽しむ映画なんである。
で、その「周辺」のうちで、一番の見所といえば、海の向こうの筒見京平こと(?)バート・バカラックの登場シーン。60年代からポップス界に君臨し続けるこの大作曲家は、話の流れに何の関係もなく突然出てくる。パワーズと美人諜報部員がパレード車(というのかな? よく選挙の時、候補者が立ってるクルマ)の上でワインを傾けながら豪華ディナーを食べてる後ろで、バカラック先生が生ピアノを弾いているという、殆どマイク・マイヤーズの個人的願望をハンマー・プライスで叶えてしまったような場面である。
オアシスのノエル・ギャラガーがその憧憬を告白して以来、バカラックへの再評価は高まるばかりだが、「ああ、やっぱりあなたもそこがお里だったのね」とチョッピリな感動で微笑んでしまうこのホンワカ・シーンのためだけに、マイクの奴、この映画を作ったんじゃないか、と思えるくらい、他のシーンとは力の入り具合が違っている。
ちなみに、ストーリーは控えめにパート2を暗示するようなエンディングになっており、力一杯パート2を宣言した『Godzilla』に比べてこんなところもCool。さて、実際にパート2が作られるのはどっちか?