
パーテーションの向こうから、書き物をする微かな音が聞こえる。先刻、外傷で医務室へやってきた生徒の処置をしてから、柊はずっと机に向かっている。ベッドに横たわる那岐の存在など、忘れてしまったかのように。今、室内には他に誰もいない。気兼ねなく呼べばすむ話だ。けれど、僅かに残ったプライドがそうさせてはくれない。
「具合は、どうです?」
顔を見せる様子もなく、無情な声がする。気遣う気持ちなどないくせに、と那岐は唇を噛む。でなければ枕の下へ押し込まれた腕が縛られているのは何故なのか。それが頭の重みで痺れているのは軽く小一時間というもの放置されているからだ。けれど、息をつめて耐えている理由は痛みなどではなくて。
「返事くらいして下さい。手が離せないなりに、心配しているのですよ。そうして寝ているベッドも、君の罪深さを隠している毛布も学校の備品なんですから。無駄に汚したり、跳ね回って壊したりされては困るんです」
「・・・あ、んたがっ・・・」
「私が、なんです?」
カーテンの隙間から、いつの間にか隻眼が覗いている。立ち上がる音も感じさせない所作だった。
「そ、んな・・・こと、よく・・・・も・・・」
苦しげに呻いた那岐を見て、ようやく柊はそばへ来た。
「辛そうですね。だったら、声をかければ良かったんですよ。私も仕事があるのですし、ずっと君の相手をしているわけにはいかないのも分かるでしょう?」
するする、と毛布が払われる。その下では片側の足が膝で縛られていたが、そこだけ剥き出しにされて昂っている股間ほどには目を引かなかった。
「おやおや、こんなに濡らして・・・これでは根元のリングが錆びてしまいます。せっかくぴったりのサイズを選んであげたのに、食い込んでしまっている・・・自業自得とはいえ、痛々しいことですね」
心にもないそんな言葉さえ、熱の燻ぶる身体には辛くて。早く・・・早く、とそう思うのに柊は指で触れるでもなく視姦するばかりだ。
「・・・・出させて、よ・・・・」
細い声には、耳元の囁きが返る。
「どんな風に?そんな声では、これくらい近付かなくては聞き取ることもできませんよ」
「・・・っ、な・・・めて・・・・」
やっとの思いで口にすると、下肢から制服が引き抜かれ、先端の赤い肉芽だけで舌が跳ねる。滲み出る蜜を幾度も掬い取り、弾くように。ひとりでに動き始めた腰を押さえつけ、快楽から逃がそうともせず、繰り返し・・・繰り返し・・・。
「・・・・あ、や・・・だ、そこ・・・・ば、っか・・・り・・っ・・・」
「そうですね・・・では、ここはどうです?」
下腹を滑って、指が動く。早鐘のような鼓動の上では、堅くなった蕾が柊を待っていた。
「吸って欲しいですか?それとも、舐め回される方が好きですか?」
「い、らな・・・い・・・そのまま・・・触、って・・・」
「なるほど。しつこく捏ね回されて、いやらしく腰を振って悶えていたいのですね・・・困った人です。後ろもずいぶん待ちわびているでしょうに。何なら確かめてあげましょうか」
答えも待たず、縛ったままの膝を折り曲げ抱え上げたそこは、あたかも別の生き物のようだった。こうして睦み合うようになってから、数を重ねるほどにそこは貪欲になる。声なき声で男をねだってやまない、いわば底のない闇のように。
「さて、どうしましょうか。今日はあまり時間もないのでね。今から準備をしないと、このまま帰ってもらわなくては・・・いえ、君だってまさかそんなことはしたくないでしょう?」
くすくす、と柊は笑う。呼吸もままならない、那岐の鼻先にそれを晒して。
「・・・さ、いつものように私を大きくして下さい。飲んでしまいたければ、どうぞお好きに。でも、上に出してしまったら今日は下には挿れてあげられなくなります。この後は出先から戻らないので・・・明朝まで、ここで息も絶え絶えに待っていたいなら私はそれでも構いませんが。ああ、それとも・・・夜半、こちらへ見回りに来られる守衛の方に朝まで可愛がっていただくよう頼んでおいてあげましょうか?」
確かに、柊ならばそうして辱めることも躊躇わない。それを知っている那岐は、苦しい息の下、黙って彼を咥え、舐めしゃぶった。その術なら、もう十二分に教え込まれている。けれど、存分に堅く大きくした柊は、下の口を乱暴にこじ開けただけですぐに止まってしまう。焦れてどんなに腰を揺らしても、それ以上進んでこない。
「・・・ど、う・・・・し、て・・・?」
身体は、壊れそうに疼いているのに。心にもない愛の言葉でさえ、強いられれば口にできそうなほど欲しくてたまらないのに。
「そんな顔をされても、せんなきこと。本当に、ここからは入らないのですよ。欲深い君の舌が、私を大きくしずきたのでしょう・・・ああ、足りないからと言ってそんなに強く締め付けてはいけませんよ。このまま、出て・・・しまいます・・・」
いつもは引き裂くように貫き、痛みのあまり那岐が萎えてもかまわず腹の中を自身の欲で満たして放り投げる男の言葉に真実など、ない。達する前のような、切ない顔など三文芝居もいいところだ。
「ふふ。私だけ、ずるい・・・という顔をしていますね。いいですよ、では・・・これを」
「・・・・あ、ダ・・・メっ・・・・!」
柊は那岐の根元に食い込んでいたリングを強引に先端へとずり上げておきながら、一方の手では代わりに解放を戒め、小指では蜜袋を跳ねるように弾く。やがて滴り続けた蜜でリングが楽に滑り始め、絞り出すようにじわじわと動き始めるまで。肉棒の中でとどめられ、待ちわびていた快楽が那岐の意志から切り離され狂いきるまで。
「・・・っ、う・・・・ダ、メ・・・・・出、ちゃ・・・あぁ・・・止まん、ないっ・・・!」
どく、と脈打つように跳ね上がった自由は、即座に最奥を貫いた柊を食いちぎるように締め上げるばかりで。羞恥など欠片も残さず、四方へほとばしる滴と共に意識をも吹き飛ばしたのだった。
Fin