はじめてのモウ♪ 〜検査編〜
このお医者さんネタは風那ですが、パラレルというわけではなく現代にやってきたばかりの、
風早20才、那岐12才設定として09,2八坂イベント以降、無料ペーパー(ギャグ)として配布していたものです。
なお、関西地区の各家庭・親子間で一般的なセリフ、「モウしなさい(牛さんの格好しなさい)」とは親にシモの始末して
もらうことの多い小学校就学前、検査の時でも低学年くらいの子供に対して使うものです(だから12才の那岐相手に
四つん這いポーズ取らせる風早は、大真面目に間違っているのです・・・)。
豊葦原からこちらの世界へやってきて、良くも悪しくも驚いたことは幾つかある。悪いことの筆頭は喧騒と空気を汚
す車の煙だったたが、逆に良いことの筆頭は紙と医学の発達だった。とりわけこちらで言う西洋医学は、豊葦原での
治癒に近い東洋医学に比べ時に粗雑であるものの、理論的には見るべきものが多かった。
臓腑の位置や働く仕組み、病とのかかわりの解明はその最たるものだ、とは確かに思う。思う、のではあるが。
「ほら、那岐。モウしなさい」
検査キットを片手に意味不明の言葉を発した風早は、子供心にも不気味としか言いようがなかった。
「・・・念のため、聞くけど。あんたこそ、どっか具合悪くない?」
「心配してくれるのかな」
「そりゃあね」
現実問題として、風早は自分達の生活を支える大黒柱なのだ。将来的にはともかく、現実から目を背けるほどの
余裕はない。
「那岐の気持ちは嬉しいけど、今は自分のことだよ。モウしなさい」
「だから、その『モウ』って意味が分かんないんだって」
那岐が言うと、風早はようやく得心したようだった。
「そうだったね、ごめんごめん。俺もバイト先のおばさんに教えてもらったんだった」
「教えてもらったって、何を」
「小さい子にお尻向けてもらう時の、決めゼリフなんだって。牛さんのポーズとってもらうための。まぁこっちの世界で
もこのあたりでしか使わないらしいんだけど」
風早の手の中で5cm四方ほどのフィルムが音を立てるのを見て、那岐は猛烈に嫌な予感を覚えた。
「・・・あのさ。それって、おばさんはかなり小さい子に対して使うと思って教えてくれたんじゃないの?」
「けど、那岐はこういう検査初めてだし。自分じゃ、後ろ見れないし、ちゃんとできないと困るだろ?」
「まさかとは思うけど、千尋にも同じこと言った?」
と、風早は首を振って見せた。
「自分で済ませた後だったんだよ。ちゃんと検査結果出るか心配は心配だけど、予備もないしね」
風早が保健所経由で用意してきたのは、腸内寄生虫の有無を調べる、俗称『ぎょう虫検査』である。固めのフィル
ムシートを肛門に貼り付けた後、提出して結果を待つシンプルなものだが、異世界へ来て食生活も変わったぶん、
二人の健康状態を彼なりに案じているらしい。
「分かったら下着下ろして。モウしてみて」
一応、筋は通っている。と言うより、通っていなければ誰がそんな羞恥を受け入れるだろう。物心つく前ならばとも
かく、那岐は既に12才なのだ。
「ひゃっ・・・」
やむなく従えば、露になった場所へ固いフィルムが押し付けられ、指先がそれを撫でこすってゆく。
「まだ?結構、気持ち悪いんだけど。あとどれくらいかかるの」
「うーん、特に書いてない。けど、外側だけで大丈夫かな」
「・・・っ、大丈夫に決まってんだろ!形状からしても間違いなく外側用だよ!」
それもそうだね、と言ってあっさりと引き下がった風早は、けれど千尋よりも健康状態の良くない那岐を有り難くない
思考回路で案じていたのだった。
Fin