to・・・
あんく
’03/10/31 発売
所謂「萌えゲー」を見直した作品(失礼!
・・・タイトルの通りです。
私は「キャラ萌え〜♪」では無いので大半の「萌えゲー」は回避していましたが、
この作品で全部が同じ(気に入らない)訳ではないと痛感しました。
その堅実な初期設定は各キャラの過去の事情にまで及び、
ストーリーはそれを歪める事なく進行する。
シナリオは真正面から恋愛と真剣に向き合い、
各ルートに納得のEDを与えてゆく・・・。
この作品を先入観だけで「食わず嫌い」しては勿体無いと気付きました。
もしかすると純粋な「萌えゲー」ではないのかもしれませんが、
少なくとも「あんく」と言うブランドに対する私のイメージは、
良い意味で打ち砕かれました。

やっぱり今でも「萌え〜♪」ではないんですけどネ(^^;



さて、スタッフ&キャストを紹介しましょう。
シナリオは「烏童マリヤ/武田勝信」様。
烏童マリヤ様がいつものライターの方ですネ。
武田様はプロデューサーです。
原画は「榊MAKI」様。
考えてみればこの方の絵のイメージが「ただの萌えゲー」のイメージに繋がってました(^^;
丁寧な仕事をされますが、萌え特有の大きな目が特徴的です。

キャストはメインヒロイン「美帆」に榊原ゆい様
悲恋系ヒロイン「真理」に一色ヒカル様
バイト先のパワフル姉ちゃん「陽子」に歌織様
バイト先の頑張り屋さん「今日子」に長崎みなみ様
などの見慣れた皆様が御出演です。
なお、私の無意識回避癖(笑)の為「桜川未央」様の紹介が入ってませんが、
声優の方には一切うらみはございませんので名前だけでも・・・(^^;
いつものロックンバナナの皆様です♪

・・・しかし考えてみれば、「あんく」と言えば「百舌鳥ノ贄」などの
シナリオとエロを兼ね備えた比較的「暗い」作品のブランドでしたが、
えらくまたイメチェンしたものですネ(^^;
「百舌鳥ノ贄」では今は亡き両親と妹の復讐に立ち上がる主人公を
描いていましたが、「罠にはめて」と言うよりは「自分に惚れさせて」Hしちゃうから
あまり陵辱モノと言う印象が無かったのを覚えています。
もしかすると純愛モノの方がこのスタッフには合っているのかも?
・・・・・・・
・・・・・
・・・
それでは、そんな「ピッタリの作品」を順に見ていきます。
まずは初期設定からですが、
舞台は現代日本の海辺の小さな町。
主人公はその町の民宿に住み込みバイトに来るフリーター。
到着した彼は玄関先で従業員が見当たらなくて困っている「美帆」と出会う。
そして何とその民宿を経営しているのは、まだ若く
とてもパワフルな巨乳((^^;)の女性「陽子」だった。
そこから始まるひと夏の経験は、無軌道だった主人公を変えてゆく。
と言うあらすじです。

この作品のキーポイントは各キャラの事情(過去を含む)です。
それぞれにいわゆる「柵(しがらみ)」があって、その辺りがしっかり設定されています。
その内容も多岐に渡り、個人の感情などの比較的軽いものから、
ネタバレが過ぎるのでココではとても書けない重いものまで用意されています。
この軽重のバランスと、各ルートの都合でこの前提を変えたりしない
堅実な作りに好感が持てます。

次にシナリオを見ていきましょう。
「夏の海」と言う事で暑さの情景描写が丁寧です。
プレイヤーに暑さを伝える表現としてあらゆるシーンで登場しますが、
「暑い」と言う事柄をこれ程多彩に表現するとは・・・。
感情移入の重要なポイントでもありますので、
これをとても大切にしている事が伝わってきます。
それと合わせて「忙しさ」の表現も同様です。
主人公は民宿と海の家でバイトをしている訳ですから、
日中の目の回る様な忙しさと、夜仕事が終わってホッと一息ついている場面の
緩急をうまく表現して臨場感を出しています。

どちらも当たり前の事です。
特別な内容では無いからこそ、ライターの技量がそのまま出てしまいます。
それを分かっていてなお、それに挑戦する姿勢が素晴らしい!
(ゲームの内容から”やらざるをえなかった”のかも(^^;)
あなたはテキストと演出のお陰で難なく夏の砂浜に立つ事が出来るでしょう。
当たり前の事を当たり前にする事の重要性を痛感します。

最後にストーリー展開です。
初期設定の所で書いた通り、各キャラが抱える事情に
主人公が触れる事で苦悩して成長してゆく過程がテーマになっています。
内容が内容だけに急ぎ足にならないように丁寧に主人公を絡ませていって、
決してプレイヤーを置き去りにしないように細心の注意が払われています。
そのお陰で、共通ルートが結構長いのにもかかわらず
退屈する事も少なくて済むでしょう。
(スキップも早いですしネ(^^;)

全部で5本のルートが有りますが、その丁寧さはどれも変わりません。
しかし、これも前述しましたがヒロインによって「事情」の内容があまりに
違ってくる(軽いものと重いもののギャップ)ので雰囲気は随分違います。
その為プレイヤーとしては「この内容とこの内容を同レベルで扱われてもナ〜・・・」
と言う違和感を感じるかもしれません。
私としてはこの部分はストーリー全体のバランスをとる、
つまり「全部のヒロインが重い事情を持ってるのはあまりに不自然」
と言う事を考慮しての事だと理解しました。
個人的には全部重くても良かったんですけどネ(^^;
(↑好みが極端な奴)

そして何より重要なのは在り来たりな内容でありながら
安易にヒロインと仲良くなれるストーリーではない事。
つまり「一筋縄ではいかない」所です。
考えてみればそれだけの「事情」を持ったヒロインと簡単にウ〜ハウハに
なれる方が不自然な訳で、その辺りが深みに繋がっています。
あっ、攻略が難しい訳ではないです。誤解の無い様に。
ひたすら「1人狙い」をしていればストーリーは進みますので(^^;
そう言う事ではなく、ちゃんとアクセントが付けてあると言う事です。
クドい訳ではなく自然な流れの中のアクセントは納得出来る内容で、
とても素直にプレイヤーに染み込んできます。

この作品を一言で言うなら「自然体」でしょう。
当たり前だと納得出来る展開。ありふれているからこそ染み込んでくる内容。
きっちりしたプロットに則った(のっとった)アクシデント。
全てが「特別ではない」内容。

「定石通り」

時に「つまらない」の同義語として使われますが、
誰もが認める正解の一つだからこそ「定石」になった事を忘れてはいけません。
本当に良いシナリオはそこを逸脱してはありえないのです。




人の心の中まで踏み込む

大変な事であり、許されぬ事だ

しかし、それなくして「大切」にはなりえない

心はそんなに簡単なものではない

時には自分を失くす覚悟さえいるだろう・・・

だからこそ、そこから生まれた気持ちが「大切」なんだ

きっとそれは「本物」だから