巻頭言
井上文学の聖地
宮 ア 潤 一

 滋賀県にはある感慨がある。平成27年12月の全国大会のあと、滋賀県内をスクーター125tで走り回った記憶だ。御朱印集めである。滋賀県の、「西国三十三所観音霊場」と「近畿三十六不動尊」の御朱印をいただくためである。30番の竹生島にある宝厳寺はすでに訪れていたので略。朝一番で京都で借りたスクーターに乗り、朝日に向かいひたすら近江八幡へ。途中草津から国道一号を離れ県道559を北東方面に湖岸に沿って進む。午前の空気はすがすがしい。左手には大きな琵琶湖がずっとつづく。朝の琵琶湖は美しい。橋を渡って31番長命寺へ。ここからの景色は格別だ。そして琵琶湖を背にして南下。県道526→208。安土を通過して32番観音正寺を目指す。この間「西の湖」もあれば畑も一面に広がる。左手に安土城趾の標識を見ながら南下。32番観音正寺。これも山頂にある。表参道から登ろうとしたが、倒木に阻まれてあえなく断念。地図をみると裏ルートがある。早速スクーター登山。大きな観音様を参拝し御朱印をいただくが、ここも眺望がすばらしい。滋賀には山と湖という、いわゆるバエルところがたくさんある。

 その後レインボーロードを渡って琵琶湖大橋。「葛川息障明王堂」へ向かう。葛川坊村町は深い山の中。地図を頼りにスクーターで迷いながら走った。ここはここでまた格別である。深山幽谷の趣。「無動寺明王堂」はケーブルカーで比叡山に。浮御堂にも参拝。12番岩間寺と13番石山寺はスクーターでは行かなかったので割愛。そして滋賀大津の圧巻は14番三井寺(園城寺)。忘れずにお不動様の「圓満院門跡」も参拝。ここからの景色も素晴らしい。日没近かったので京都へ撤収。次は大津で泊まろうと思いながら西大津バイパスを走った。

 最後に私はなぜ御朱印を集めているかに触れる。ご案内と思うが井上靖が琵琶湖をテーマにした作品を書いている「比良のシャクナゲ」「星と祭」や竹生島(「蒼衣の人」「淀どのの日記」)「夜の声」など。その中で「星と祭」は嬰児を亡くした父親の井上靖の心の痛みが根底にあるとされている。「信仰と殯」。湖北の十一面観音像様たちだ。伊豆・沼津・金沢が井上文学の聖地と言われるが、琵琶湖のある滋賀県も私は井上文学の聖地だと思っている。立派なことを書こうと思ったが小学校低学年の遠足作文になってしまった。ただ、滋賀と聞くと、琵琶湖周辺を寺を求めて、湖上の風に吹かれ、畑の匂いを嗅ぎ、鳥の声を聞いて走った琵琶湖南部のスクーターの旅が強烈に再現されてしまうので、心のままを書いた。五感で感じた滋賀だから、「さざなみ国語教室」の先生方の原風景と共有できているような気がする。私の大学の研究室には須田実先生からいただいた観音様がいつも私の背中を見守っていることを付記する。
(国語科授業方法研究会主宰 井上靖研究会事務局長・理事)