▼「あなたのは」とばかり訊く妻さくらんぼ(小山正美句集『大花野』)を読んだ時、奥様の細やかな気遣いに感動した。詳しく読んでいくと外に出れば道に迷う。家の中でも迷子になるという認知症と思われる奥様であることから「あなたのは」の意味の深さを感じた作品。

▼「あなたのは」に似た言葉を耳にするのが一年生の教室。給食時など、子供の食べ方を見守っていると「先生は食べないの」と心配して声をかけてくれる。授業中、元気がないと知ると「大丈夫ですか」気遣ってくれる。先生への気遣いを至る所にみせてくれる。

▼一年から六年へと「気遣い」の視点を授業に広げてみた。ある教室で、「楽しかった授業・楽しいと思う授業」を書かせたところ、「私たちが司会者になって進めていった時間です。いつもは、聞くだけだったのが、このやり方になって、友達の司会の仕方を見たり、自分の番になると、聞いてほしい、分かってほしいという気持ちが強くなりました。」という文が印象に残ったという話を聞いたことがあります。

▼子どもの心に近づくのはむずかしい。けれど、どんな授業がしてほしいかと聞くこと、授業で多くの時間をかけている板書をどのように考えているか等ということもまた、授業という場の「気遣い」であろうと「あなたのは」の俳句から感じた。  (吉永幸司)