漢字学習における個別最適な学びと協働的な学び
木 富 也

 91点、93点、93点、91点、89点。これは令和3年度に担任した4年生の、漢字50問テストの平均点である。もちろん50問テストをコピーした練習プリントなど無しの、完全初見での実施。年間の平均点は91点、中央値は95点、最頻値は100点であったことから、漢字学習指導における一定の成果と手応えを感じている。他の学級の先生や保護者からも、「なぜそんなに点数が取れるのか?」「どんな指導をしているのか?」と質問されるようになった。その要因を分析したいと考える。

 まず大前提であるが、初任からの4年間は漢字学習指導に苦心した。こちらが丁寧に指導しても、子どもたちは漢字を覚えず使えず、作文などでは平仮名のオンパレード。平均点が80点を切ることもあり、「こんなものか」と半ば諦めることもあった。あろうことか、「学力が低いから」「練習量が足りないから」と、子どもに責任転嫁していた側面もあったように感じる。猛省である。

 転機が訪れたのは、教職5年目、6年生担任時に一緒に組ませていただいた先生。「漢字学習では困っていない」と豪語される先生。「自分でやらせているだけだよ」と助言をいただいたが、意味が分からず、形だけ真似しても自分のクラスの結果はついてこなかった。ここで初めて、「漢字学習指導を学ぶ」という視点を持つことができた。

 迎えた教職6年目。初めての異動。新しい環境の4年生で、漢字学習指導そのものについて研究し実践する日々が始まった。上野芳樹先生の『漢字音読名人・書き名人』、土居正博先生の『漢字指導の新常識』(学陽書房)など様々な先行実践を探った。それらの共通項は、「読み優先」であること。「漢字を一人で黙々と書く学級」から、「漢字をみんなで楽しく音読する学級」に変わっていった。

 そして自分にとって最後の決定的なピースとなったのが、奈須正裕先生の『個別最適な学びと協働的な学び』(東洋館出版社)である。教育観が根底から覆されるような本書の考え方を、漢字学習指導に落とし込んだ。ある程度流れを示しやり方が浸透した頃には、子どもたちに、「自分にぴったりな方法で漢字を練習しなさい」と個別最適な学びをするように伝えた。漢字ドリルを音読する、漢字ドリルに書き込む、漢字練習ノートに熟語を書く、自主勉強で例文を作る、漢字一覧プリントで網羅的に覚える、教科書巻末の既習漢字を確認する、辞書で漢字を調べる、タブレット学習をする。実に様々な方法である。また面白いことに、班で漢字クイズを出したり、一緒に空書きを始めたりする子どもたちが現れていった。個別最適化を進めると、自然発生的に協働的な学びが生まれていったのである。実にカオスな空間であるが、誰一人サボる子はいない。学級全体が漢字に向かって個別最適に・協働的に進んでいった瞬間であった。もちろん点数として結果も出て、子どもたちは大喜び。漢字学習は学級経営にも繋がった。

 迎える令和4年度。昨年度の実践を、新たな目の前の児童の実態に合わせてブラッシュアップし、楽しみながら力のつく国語教室を創っていきたい。
(東近江市立能登川南小)