巻頭言
小学校教育と私
阿 達 航 太

 はじめまして,阿達航太と申します。私は吉永先生が当時校長先生を務めておられた京都女子大学附属小学校を2010年に卒業し,灘中学校・高等学校を経て,現在東京大学医学部の6年生です。

 私はもうすぐ大学を卒業し医師になる予定の身ですが,自分の将来について色々と考える機会が以前よりも増え,その中で「自分はなぜ医師になりたいのか?」ということも改めて考え直すようになりました。

 医師という職業は,生物学というサイエンスの側面があるのはもちろんのことですが,一方で,それだけで医療が成立するわけでもないということを授業や病棟実習を通して痛感しています。まだ医師でもない私が申し上げるのは大変僭越ですが,患者さんの感情に配慮したコミュニケーションなど,人と人との関わり合いという重要な側面が医療にはあると感じます。この両者が必要不可欠で,どちらか一方でも欠けてはいけないというところに私は強い魅力を感じているのだと改めて自分で気が付きました。

 このようなことを考えている中でふと気が付いたのですが,私は「人」が好きなのだろうと思います。小さい頃から,小説を読んで主人公の住む世界を覗いてみたり色々な場所の写真を見て地元の人の生活を想像したりすることが好きでした。大学生になってからも,アルバイトとして,生徒との対話が重要な塾講師を選びました。自分の周りの人や環境に興味を持つ性格が知らず知らずのうちに養われていたのだと思います。

 そして,この性格の形成に大きく関わっていたのが間違いなく小学生時代ではないのかと思うのです。当時まさしく吉永先生が赴任されて「国語力は人間力」の教育が始まり,その中で,新たに様々な言葉を学び様々な文章を読みました。あのときに,新たな言葉を知ることでコミュニケーションの幅が広がること,詩や小説を読むことで自分の知らない世界の住人に触れられること,そして何よりそれらが楽しいことであると知ったのだと思います。

 このような経験を通し,最近になって,国語とは究極的には人と交流することと言えるのではないかとさえ思っております。卒業して10年以上経って,当時は気付くことのできなかった「国語力は人間力」の奥深さに触れ,改めて当時の教育に感謝しております。
(東京大学医学部医学科6年生)