巻頭言
言葉の力は生きる力 「書くこと」を通して育む 『室場プライド』
榊 原 真 由 美

 本校では、学校文集を毎年発行しています。この室場小学校に、文集第一号が誕生したのは、昭和三十五年三月です。最初は、児童日記文集「あゆみ」としてスタートしました。創刊号に、こんな文章が載っていました。

「きょうがっこうからかえって、まえのうちにいきました。おかあさんがまえのうちでみしんでふくろをぬっていました。わたしはふくろをきったり、そろえたりして、おてつだいしました。なしのふくろです。」 (二月十七日(水)一年 女)

 題と作者名の記述はありません。短い文章の中から、当時の室場の子の生活が、生き生きと伝わってきます。この家では梨を栽培していて二月の閑散期は実に被せるための袋を家のミシンで大量に作っているんだなとか、一年生でも家から帰ってすぐお手伝いするのが当たり前なのかなとか、日々の生活が様々に思い浮かびます。「書くこと」は、生活をまるごと見つめることだと実感します。

 日記文集は、児童作文集「あゆみ」となり、昭和四十七年三月から学校文集「むろばの子」として、現在六十三号までを発刊しています。昭和四十七年三月と言えば、本校が本格的に作文教育の研究に取り組み始めた年です。文章を綴ることを通して、生活のすべてを深く見つめる態度を学ばせたい。生活をよりよく切り拓いていくために、文章を綴ることでものの見方や感じ方、考え方を育みたいという願いのもと、作文教育の実践が始まったと聞いています。小さな学校であるこの室場小の子供たちが胸を張って自慢できる力を身につけさせたいという当時の先生方の熱い思いは、今に引き継がれています。

 コロナ禍の中、昨年は、例年通りに作文指導を行うことができませんでした。削られた授業時間の中から、子供と対話し思いを文にしていくという地道な活動の時間をどうやって作り出すか、悩みました。いわば、作文教育始まって以来のピンチでした。でも、本校の職員はあきらめませんでした。コロナ禍の今だからこそ、子供たちに自分自身を深く見つめることを学ばせたいという願いを込め、一人一人に向き合いました。

 本校では、作文日記で担任と子供が対話することを大切にしています。子供たちは、経験や体験を文章に表すことで、自分の思いや考えを形成していきます。そして、言葉をもとに授業で対話し、関わり合うことで「人・もの・こと」を見つめ直し、思いや考えを広げ深めていきます。「室場」という地域への愛着や誇りとともに、五十年間この過程を大切にしてきました。これが、本校の目指す「書くことを通して育む『室場プライド』」です。
(西尾市立室場小学校長)