夏休みと言葉
弓 削 裕 之

 五年生の娘がいる。夏休みの宿題で、同じ作家の二作品を読み比べるワークシートが出された。普段は宿題を見ることができていない父。悩んでいたので、夏休みくらいは…と、少し助言することにした。おすすめの作品や作家を紹介したが、乗り気でない反応。以前一緒に本屋に行った時に、珍しく「続きが読みたい」と言った本があったのを思い出した。大久保開さんの『ラストサバイバル』(集英社みらい文庫)という本だった。「好き」は原動力だろうと思い、大久保さんの別の作品を一緒に探した。『絶滅世界』(同右)という作品が見つかったので、その二作品を比べることに決めた。

 ワークシートの目的は、友だちに紹介すること。内容は、キャッチコピーと紹介文だ。キャッチコピーを考えるためには、両作品の共通点を見つけ、その作家の「らしさ」を見出す必要がある。表現はハードルが高いので、物語の筋からヒントをもらおうと思った。「どんな話だった?」と尋ねると、簡単なあらすじを話してくれた。あらすじを自分の言葉にすることで、共通点が見えたようだった。キーワードを書き出していろいろと組み合わせ、最終的に「家族を助けるために小学生ががんばる」というキャッチコピーとなった。興味を持ってくれる友だちが一人でもいてくれたら幸いだ。

 キャッチコピーと言えば、家族で訪れた琵琶湖博物館では優れたキャッチコピーに出会えた。例えば、【ものがたりがねむるところ】。何の展示だろうと読み進めると、「琵琶湖のまわりには、古琵琶湖層群という地層があります。」と書かれていた。そこで発見される化石などから昔の環境=【ものがたり】がわかるのだという。次に、【長生きする湖】。一般的な湖は流れ込む土砂により数千年ほどでなくなるそうだ。琵琶湖はその何十倍もの時間埋まらないで生きている。それを【長生き】という言葉で表したのだ。【今の琵琶湖は その生い立ちの中でもっとも広い】というコピーも、知的好奇心をくすぐられる。実際、形だけでなく場所も移り変わっている琵琶湖の姿を見て、驚く我が子の様子が見られた。入念に練られた巧みな言葉の組み合わせが娘を立ち止まらせ、見事に学びへと誘ってくれた。ただ伝えるのと、言葉を選んで伝えるのとでは大違いだ。「深い学び」の手がかりとして、二学期に活かしたい。

 さて、もうすぐ五歳になる息子はというと、最近文字に興味を持ち始めたようだ。きっかけは、姉の家庭科の宿題。3分、5分、10分、15分に分けてゆで卵を作っていた。息子は、紙と鉛筆を握り締めて「どうかくの」と忙しい姉に尋ねていた。にこにこしながらこちらにやってきて「たまご、どれにしますか」と見せてくれた紙には、拙い字で「ちゆうもん」と書かれていた。
(京都女子大学附属小)