ICT活用のスタート地点に立って
岡 嶋 大 輔

 全国的に学校のICT環境整備が進む中、本校においてもこの五月に各教室の高速無線LAN、一人一台のタブレット等々とその環境が整った。ICTを授業の中でどのように使えばより効果的に学習が進むのか、その手探りもまだ始まったばかりである。

 まずは、児童が各自でログインするところから。アルファベットやその小文字を習っていない低学年では、児童がキーボードでそれぞれに違うIDやパスワードを入力するために、担任の先生もひと工夫。パスワードを大文字に変えて書いた付箋を渡したり、早く入力できた子が近くの子に教えるようにしたりしながら、短時間で全員が始めのデスクトップ画面に到達できた。大人なら一瞬で済む作業でも、どの子も目を輝かせ喜びの声を上げた。タブレットを何度も閉じては再度ログインする子どもも多い。未知に触れるわくわく感の上に、先生のさり気ない支援のもと、友だちと助け合いながら、困難に立ち向かって全員が目的に到達する、その喜びの声だと感じた。

 三年生では、ホウセンカの観察に一人一台のタブレットが活躍した。担任の先生は「ホウセンカをタブレットで撮影し、しばらく観察したら教室に戻って、続きをタブレット画像で観察する」ことを告げて外で観察するよう指示した。タブレットで撮影した情報は後でじっくり見られるので、児童は、その情報以外に意識を向けて観察を始めた。葉っぱや花などの手触りを確かめたり、匂いを嗅いでみたり、草丈を測ったり、と様々な角度から観察をする児童の姿があった。
 そして教室に戻り、タブレットの画像を操作しながら観察していった。葉や茎の表面、花の中を拡大する子、花の色の違いを比べる子など、様々な角度から観察し、部分にも着目して言葉に表す子がたくさんいた。スケッチについても、花の形を正確に捉えているもの、茎に生えている毛を細かく描いているもの、赤や赤紫などの色の違いをうまく表しているもの等、たくさんのことに気付きながら描いていることが分かる。静止画をスケッチすることで、より輪郭線やその色彩がはっきりと捉えられ、スケッチが苦手な子も鉛筆が進む。実物の観察と合わせて、静止画を操作しながらじっくり観察することの大きな効果が伺えた。

 放課後、そうして完成した児童らの観察カードを一緒に見ながら、担任の先生がY児のことを話してくれた。Y児は普段、文を書く場面では全く何も書けず、先生が横に付いて対話しながらようやく書けるとのことである。そのY児が今回、一人で次のように書いていた。
  (花) 5p まるっぽい 色は色々
  (花のあと)5〜4p 長丸 みどり(つぼみ)4p 長丸 きみどり
  なぞのみのしょうたいは、たねぶくろだときずきました。
Y児が一人でここまで書いたことはなかったそうで、スケッチも細かい部分まで描けていた。「なぞのみ」は、実物を観察したときに不思議に思い、教室に戻って観察し、友だちと話していうちに「たねぶくろ」だと気付いたとのことだった。
 この様子を聞いて、私は、虫眼鏡を持つだけで博士になりきっていろいろなものを覗いていた幼い日を思い出した。現在は、それを静止画にし、大きな画面で見、拡大したり並べたりして見ることができる。興味付けだけでなく、そういった機能をY児が活用できるようにした担任の先生の児童へのかかわりがすばらしい。そして、そのことが友だちとのやりとりをも生み出し、Y児の学びにつながった。そのささやかに見える大きな成長を見逃さず、それを嬉しそうに語る先生がまた、素敵である。

 ICT活用が叫ばれる今日、その活用ばかりに目を向けがちになるが、いつの時代も大切なのは、「意識的に」個々の子どもの学びにとってどうなのかと考えながら授業づくりをすることである。子どもが対象と対話し、仲間と対話し、自己と対話するための方法が進化しただけで、その対話の質を見極め、子どもの思考の流れを大切にして授業づくりをしていく本質は変わってはいない。
(野洲市立北野小)