巻頭言
「思考力・判断力・表現力」を育む工夫を
堀 江 祐 爾

 三木惠子先生(元兵庫県たつの市小学校教諭)の二年生学級での「授業びらき」の際に展開された「思考力・判断力・表現力」を育む工夫について紹介したい。

■四月七日(始業日)の板書には「手がみをよんで/うごきましょう。」と書いてあり、次のような手紙が貼られてあった。
 二年生 進級おめでとうございます。/今日から、おにいさん、おねえさんです。//じぶんでいいこと・わるいことをはんだんして/こうどうにうつせる二年生になってほしいとおもっています。//つくえの上のかくにんをしましょう。/※たくさん、お手がみがあります。/※ノートが五さつあります。//たいせつなものです。どうしたらいいですか?/かんがえてこうどうしましょう。
 多くの教師は始業式から戻った後、「お手紙を連絡袋に入れましょう。」「ノートに名前を書きましょう」と指示するであろう。そうした指示が、実は子どもたちの「思考力・判断力・表現力」を奪うものであることに気づかずに。三木先生は、「どう考えて、どうしましたか?」と子どもたちに問いかける。何人かの子どもが、自分で考え、決めて、行動(表現)したことを確認。できなかった子どもは仲間の行動から「なるほどそういうふうに考え、決めて、行動すればよいのか」ということを学んでいく。

■四月八日(二日目)の板書。
 お早うございます。/今日はたくさんてい出するプリントがありますよ。/自分ではんだんしてうごいてみましょう。
 黒板の前にはプリントを入れる箱が並んでいる。ただし、何を入れるかを示すラベルなどは貼られていない。教室に入ってきた子どもがあれこれ考え、相談して、プリントを入れていく。朝の会の際に、三木先生はプリントが分類されて出されていることを確認。そして、一番最初にプリントを入れた子どもたちに手を挙げさせ、「この人たちに大きな拍手を!」とほめる。もちろん、プリントを出せなかった子どもたちが追加提出する時間も設定。ここからも子どもたちは、「そういうふうに考え、決めて、行動すればよいのか」ということを学んでいく。

■四月九日(三日目)の板書。
 お早うごさいます。/あさのかけ足に行く時に/くつばこにばんごうシールを/はっておいてね。
 普通なら教師が靴箱に番号シールをきれいに貼ることであろう。三木先生は子どもたちに貼らせた。子どもたちが貼るとシールの位置がバラバラになってしまう。実はそこに価値がある。子どもたちは、どこに貼れば分かりやすいかを「考え、決めて、貼る(表現)」ことをおこなった。

 このように「授業びらき」の時から「思考力・判断力・表現力」を育む機会を何度も与えられた子どもたちは、「自分で考え、決めて、行動する」ことができるようになっていく。こうした工夫ができる教師になりたいものである。
(神戸女子大学教授・兵庫教育大学名誉誉教授)