マイベストの学級集団づくり
飯 沼 俊 雄

 一人一人の児童生徒が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められている(文部科学省,2021)。そのような背景から,現行の学習指導要領では,目の前の事象から解決すべき課題を見出し,主体的に考え,多様な立場の者が協働的に議論し,納得解を生み出す思考力の育成や,対話的な学びを中心に位置づけた学力向上への施策が策定され(文部科学省,2021),全国の小学校現場で様々な実践が志向されている。
 なかでも, 「令和の日本型学校教育」の実現に向けた具体的な方策として注目が集まっているものに,GIGAスクール構想の実現による新たなICT環境を活用した協働学習があげられる。ICTの活用は,児童の考えの可視化と共有を瞬時に行い,それらの考えを整理し,自分の考えを再構築しやすいことが特徴的である。
 しかし,ICTを協働学習に取り入れたからといって,必ずしも学習効果が現れるとは限らず,協働学習を展開される前提として,学習者個人が取り組むべきことと,チームワークの在り方,学習集団・グループの組織として達成すべき課題があると指摘している(河村,2017)。つまり,ICTを活用した協働学習を展開するためには,教師が相互作用の質を高める方略を学級集団の状態に合わせて適切に介入することが求められている。

 以前,担当した初任者のクラスでは,日直になった児童が一日,黒板の前に机を置いて,みんなの方を向き,司会を務める授業形式を実践していた。「グループ学び」という小集団での話し合い活動においても,「司会」「タイムキーパー」「書記」「発表」という役割を一人ひとりが担い,司会者を中心に交流を進める授業展開であった。そして,ホワイトボードを活用しながら,グループの意見を可視化させ,友だちの意見に疑問を投げかけ,意見を付け加え,児童自身が自分たちの考えを整理する姿があった。当時の初任者のクラスを振り返ってみると,学級集団の発達過程に沿って,児童の相互作用の質の向上を段階的に計画的に進めてきた。たとえば,4・5月は,児童が「グループ学び」でどのように振る舞えばよいか戸惑っている児童の実態から,意見の仕方・質問の仕方・話し合いの進め方など教師から児童に対して能動的に示していた。6月になると,いろいろなメンバーで話し合い活動を計画的に取り組ませていた。その際,話し合い活動の基本的な話し方,許容的態度,グループ活動のマナーを守ることなどの話し合い活動の参加の仕方のスキルを練習させながら交流させていた。また,モデルとなるグループの話し合いをビデオで撮り,全体で共有することを繰り返し行い,相互に承認し合えるように展開していった。さらに,メンバーを替えて,話し合い活動の役割,かかわり方が身につくように国語科だけでなく,他教科においても取り組みを続けていた。2学期になると,ルールを構築していく上でも,教師のルールを一方的に押し付けるのではなく,子どもたちの意見も聞きながら,合意形成する時間を大切にしていた。初任者は日々,授業中の子どもの言動から学級の状態を捉え,何度も授業計画を練り直していた。

 今後,これまでの実践と ICT とを最適に組み合わせることで,学級の実態に合わせたマイベストの学級集団づくりが重要となる。

[参考引用文献]
文部科学省(2020).「令和の日本型学校教育」の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現〜(答申)
河村茂雄 (2017). アクティブラーニングを成功させる学級集団づくり 誠信書房
(湖南市立三雲東)