成  長
弓 削 裕 之

 毎年三学期の始め、子どもたちは「ふじのこ作文」を書く。一年間を振り返って自分が成長したと感じることを綴り、全校児童の作文が載った「ふじのこ文集」として製本される。表紙には木のイラストが描かれており、毎年少しずつ葉の数が増えている。六十年の歴史がある取り組みだ。
 例年、五年生の作文は臨海学校の話題が多い。海での水泳学習や、友だちと協力して過ごす三日間は子どもたちにとって大きな経験であり、「成長」をテーマとした作文の題材として選ばれるのは納得できる。
 しかし今年度は、感染拡大防止のため臨海学校が中止となった。臨海学校だけでなく、運動会や音読集会など、たくさんの行事や学習が実施できなかった。子どもたちの中には、「何を書いたらいいんだろう」「成長したことなんてなかった」などのつぶやきがあった。「何気ない日常の中の成長に目を向けましょう」と声をかけた。
 Aさんの作文は、次のように始まっていた。
 ある日、大分前のことだが、弟と一緒に鉄棒へ遊びに行った日のことを思い出した。鉄棒で弟は、逆上がりの練習をし始めた。私は、何回も鉄棒から落ちる弟を見て、逆上がりもできないのかと思った。その日は、私にとっては何の変哲もない日だった。
 最後の一文がとても効果的で、「何の変哲もない日」が「特別な日」に変わるのだろうと予想できた。この後、五年生の鉄棒の課題であるひざかけ回りができなかったこと、きっと周りから笑われているだろうと恥ずかしくなったこと、そんな自分に友だちがアドバイスしてくれたことが綴られていた。
 あまり話したことのない男子がひざかけ回りのことについてアドバイスをしてくれた。実際にやってみると、かなり大変だったけど、何回もやっているうちにできるようになった。私はその時、あの日のことを思い出した。あの時、なぜ弟に教えてあげなかったんだろうと。ふとそんなことを思い、心が少し変わったような気がした。
 「心が少し変わったような」という表現で、Aさんは自分の成長を言葉にしている。大きな行事に目を向けていたら、気づくことのできなかった変化かもしれない。
 家に帰り、弟にあやまり、逆上がりを教えることにした。私は、弟にアドバイスし、実際にやってみたらいいんだよと言った。(中略)練習を続けて数日後に、弟も鉄棒を一周できるようになり、笑顔で鉄棒へ遊びに行く日が増えた。
 この作文の題名は、「増やせた笑顔」。自分の行動で弟が笑顔になってくれたことを喜ぶ気持ちが伝わってくる。成長の喜びは木の葉となり、これからも受け継がれていく。
(京都女子大学附属小)