自力で書く力をつけるために
谷 口 映 介

 現在、私が「書くこと」の学習において、課題としていることが大きく二つある。一つは、学習者に「自力で」書く力を育てることである。書く過程は、「題材の設定→情報の収集→内容の検討→構成の検討→考えの形成→記述→推敲」である。無論,これらは一方通行の過程ではない。途中の段階であっても前の段階に戻り、文章を再構成することも含まれている。しかし、一方向に通過するだけの過程と捉え、一つずつを指導することで子どもに力が付くと捉えていなかったか。確かに、教師が各段階を丁寧に指導し、添削をしていくと文章としては形になるだろう。だが、過程をなぞるだけでは自力で文章を書けるようにはならず、膨大な時間を添削に費やすことになりやすい。なぜなら、学習者自身の「こう書きたい」という思いが希薄になりがちであり、自分の文章を常に見直したり、書き直したりする意識へと繋がりにくいからである。

 もう一つは、相手意識の持たせ方である。書く行為は、自分がどの様な考えを持っているのかを自覚することから始まる。その上で、書く目的を意識し、読み手を納得させるためにどう書けばより分かりやすいかを吟味する力が必要になる。しかし、今まで、「誰に向けて」「何のために」書くのかを十分に意識させてこなかった結果、「次は、どう書いたらいいですか。」と問う学習者を生み出し、次の学習や他教科へと生かされにくい学びになっていたのではないかと思うのである。これらの課題を解決するため、本単元では、以下の改善の視点を設定した。

 視点@ 相手や目的を意識させる。(「書きたい!」「読み手を説得する書き方を見つけたい!」を引き出す)
 視点A 子どもに情報を公開し、各過程で交流活動を仕組む。(自由な考えと場の共有)
 視点B 子ども自らが文章を推敲するための視点を見出し、自力で・友達と文章を推敲できるようにする。(自力推敲→相互推敲)

【単元名】「私は敏腕ジャーナリスト!図表やグラフを用いて説得力のある文章を書こう」
(「固有種が教えてくれること」「統計資料の読み方」「グラフや表を用いて書こう」光村図書5年)
視点@ 教科書では、「資料を用いた文章の効果を考え、それをいかして書こう」となっている。身に付けたい力としてはその通りなのだが、相手意識はやや持ちにくい。そこで、「敏腕ジャーナリスト」になるとすることで意欲喚起を図り、そのために教材文に施された読み手を納得させる工夫を見つけながら読むことで、相手意識が明確になった。子ども達は、「最初と最後に考えを書くサンドイッチ型(双括型のことを子ども達はこう呼んでいる)だ。」「図やグラフと説明がつながっているので分かりやすい。」「注目する言葉や数字がはっきりと書かれているから納得できる。」など、多くの工夫を見つけ出していた。

視点A 「情報」とは、単元計画は教科書の手引きをもとに一緒に立てていく。これにより、「今日の国語は何をするのですか。」という質問は無くなり、代わりに「今日は、友達と下書きを交流して、説得する工夫ができているかを確かめよう。」といった個々のめあてが明確に設定されることになる。さらに、全員のテーマを一覧にして公開することで、同じテーマの学習者と書く過程のどの段階でも自由に交流できるようにしている。

視点B 教科書にはモデル文が掲載されている。文章のどこが分かりやすいのかを、「自分に取り入れる」つもりで詳細に検討する時間を設定した。子ども達が見出したものは「なるほどポイント」として一覧にし、自己推敲・相互推敲の観点として活用した。子ども達は、相互にチェックし合いながら今自分が書き進める上で悩んでいることを出し合い、改善点や自分の文章の良さを見つけ出す姿が見られた。以下は、目的を明確にした交流後の感想である。

「交流して、文章が長すぎたり、むだな単語がまざっていたりしたので、そこを直しました。しっかり納得させられているかなどを知ることができたので良かったです。(その後)自分で書きながら習っている漢字に直しました。段落構成などにも気を付けて書きました。何度も読んだりして伝わりやすいかをさらに確認しました。」

 学習を通して、学びを他教科にも生かしたいとする振り返りも多く見られた。今後も書くことの意味や楽しさをより感じることができる学習を開発していきたい。
(滋賀大学教育学部附属小)