心に届く先生のひと言「かっこいい」 授業の名言から考える5
森  邦 博

 9月11日の放課後1年2組の教室でIさんは3年生のお姉さんを待っていた。一緒に帰るからだと言う。話していると机の中から小さな手帳を取り出した。学校手作りのその手帳には、善行をするとシールを貼ることができ、「よいこと」をする度にシールが増えていく。そういう手帳だよと私に教えてくれた。見ると、すでに何枚かのシールが並んでいる。
「みんなも貼ってもらっているよ」と説明している途中で、ふと思いついたのか、机と椅子の整頓作業 を始めた。机の脚を床の線に合わせ、椅子を整えていく。手伝っていると、こう教えてくれた。「こうやって机を並べてから、後ろからずうっと見たらかっこいいやろ」と。
 「かっこいい」という言葉は担任の先生の話の中で何度も聞いていての受け売りに違いない。Iさんは、こんな時にぴったりの言葉だと思い出して使ってみたくなったのだろうか。ちょっと大人びた声と調子だ。「学ぶはまねぶ」とも言われるが、先生の使う言葉を子どもは黙って心に蓄えていくものだ。いつか使ってみたい言葉として…。
 びっくりして目を丸くしていると、今度は、掃除用具入れから箒とちり取りを取り出し机の周りの紙片やごみを集め始める。「箒も使えるのすごいね」と言う私に、「いつも先生と掃除の時間にやっているから」と、涼しい顔で答えが返ってくる。
 コロナ感染の中の1年生生活だが、いつの間にか頼もしい姿になってくれている。子どもの学びとる意欲にまた驚く。
 早速担任の先生に机の上に放課後のこの一部始終を書いて置いたのだった。

 この出来事には後日談がある。翌々週の金曜日の放課後の教室に、今度は2人の男の子とインターンの学生さん3人姿があった。箒で教室の床を掃いている。
「こんなに紙を落としたらあかん。ごみが増えるから」と言ってるのは、自分の机の周りもお世辞にも きれいとは言えないWさん。もう1人はIさん。こちらは手慣れた様子で黙って手を動かしていた。慣れたものだ。WさんはIさんの真似をしたのだろう。今日までよく続けているんだなあと、また感心・感動してしまった。
 先生の発信した「かっこいい」という素敵な言葉が1人の子どもの心に届き、そしてそれが友達の心にまで伝わっている。「かっこいいねえ、かっこいいねえ」と2人に言葉を投げかける私がいたのだった。

 そして今日、10月2日金曜日の放課後も、教室にはやっぱりIさんの箒とチリトリを持って掃除している姿が。4週目。
「まったくかっこいい」
(京都女子大学・同附属小講師)