賢治が「やまなし」で伝えたかったこととは
箕 浦 健 司

 作者の人物像と作品を重ねて読むという学習活動は、子どもたちにとって初めての体験である。単元の目標は、「賢治が『やまなし』で伝えたかったことを考えよう」。

 まず、「やまなし」を読み、表現を味わった後、資料「イーハトーヴの夢」を読んで、賢治の人生や 考え方、大切にしていたものなどを年表にまとめ、全体で確認した。そして再び「やまなし」へ戻った。
 二枚の幻灯それぞれに、「上から落ちてきたもの」がある。カワセミとやまなし。まず、これらが何を表しているのかについて、考えを出し合った。まずは、「カワセミ」について。 「カワセミは、地震や洪水などの自然災害を表していると思いました。賢治の人生の中でも、多くの災害が起こっていたからです。」
「私は、『死』ではないかと思います。妹トシの死があったからです。魚は、いきなりカワセミに連れて行かれました。」
「病気ではないかと思います。賢治も病気だったからです。」
 続いて、「やまなし」。
「食べ物が実ること。賢治は農業にすべてを捧げたからです。」
「喜びや幸せを表していると思います。苦しい農作業の中に喜びを見つけるのが賢治の考えだから。」
「賢治の優しい心が現れているように思います。」
「努力が報われることを表しているのではないかと思います。賢治はたくさんの努力をしてきたから。」
「『苦しい農作業の中に、楽しさを見つける』『未来に希望を持つ』の楽しさ、希望が、やまなしでは ないかと思います。」
 「やまなし」を読み進めていたときには出てこなかった考えが、「イーハトーヴの夢」を読み、「やまなし」と重ねることで出てきた。「作者の人物像と作品を重ねて読む」とはどういうことか、子ども たちは学びをもとに実感することができた。

 最後に、「賢治が『やまなし』で伝えたかったこと」について考え、共有した。
「『五月』はこわさ、『十二月』は優しさを伝えたかったのだと思います。自然災害と同じように、カ ワセミもいつ来るか分からないから。十二月は、死ぬ間際まで来客に肥料のことを教えるような賢治の優しい心が、『やまなし』に現れていると思いました。」
「現実と理想の違いといった社会の厳しさや、いつ起こるか分からない災害のこわさなどがあるが、地道にたゆまぬ努力を続けていれば、いつかは報われるということを伝えたかったのではないかと思います。」
「賢治さんがどんなにつらいことがあってもそれを乗り越えようと努力していたように、私たちにも『その壁を乗り越えなさい』と伝えているように、読んでいて思いました。」

 本単元は、指導事項「読み取ったことをもとに自分の考えを形成すること」、「意見や考えを共有し 自分の考えを広げること」について、「子どもたちが学びを実感できること」を強く念頭に置いて計画・実施した。賢治の他の作品を読むことで、子どもたちの学びをより深めたり、広げたりしていきたい。
(長浜市立南郷里小)