巻頭言
「陰徳を積む」ということ
栗 田 稔 生

 朝、校門のところに立っていると「おはようございます」と元気な声で挨拶をしてくれる子どもがいます。とっても気持ちがよくなります。さっそく、朝の全校朝会の時に、その話をします。 「校長先生が、今朝、校門のところに立っていると、2年生の人がとっても気持ちの良い挨拶をしてくれました。きっと、挨拶をされた校長先生だけではなく、挨拶をしっかりした2年生の○○さんも気持ちがよかったのではないでしょうか。実は、この『気持ちいいなあ』と思うことはとっても大事なことなのです。」

 よく、「陰徳(いんとく)を積む」といいます。意味は「誰も見ていなくても、良い行いをする 」ということです。「良い行い」とは、例えば「あいさつをする」とか「落ちているごみをひらう」といったほんのちょっとしたことです。誰かにほめてもらうためだったり、見返りを求めて行ったりすることは「陰徳」ではありません。

 しかし、結果として「陰徳を積む」とそれを行う自分にもよいことが起きます。それを「陰徳あれば陽報あり」といいます。意味は「人知れず徳を積み重ねる者には、必ず目に見えて良いことが返ってくる」ということです。

 なぜ、そのようになるのかというと、人知れず密かに行う行為であっても自分自身はそれを知っています。そのことによって自己肯定感が増し、自分で自分自身のことを認めることができ、自信がついてきます。そうすれば、自分の周りで起こる出来事も肯定的にとらえることができるようになります。友だちに対しても、決して、否定的な見方をしなくなり、大きな視野で接することができるようになります。そのような経験を積み重ねていくことで、自分でこうなりたいなあと思ったこと(自分が幸せになること)も現実になってくるわけです。

 次の週の全校朝会では、トイレのスリッパを揃えていた1年生の話をします。
「校長先生が、休み時間に1階のトイレの前を通ると、1年生の○○さんが、トイレのスリッパを黙って揃えていました。誰も見ていないのに、○○さんは自分の使ったスリッパだけではなく、そのほかのスリッパも丁寧にそろえてくれました。思わず、『○○さんえらいねえ。ありがとう。』と声をかけました。その後、とっても気持ちのよさそうな顔で教室に戻っていきました。きっと、○○さんは、誰かに褒めてもらいたいから、トイレのスリッパをそろえたのではなく、自分が気持ちいいからそうしたのだと思います。」

 このような話を続けていきながら、子どもたちに、わかりやすくわかりやすく話をしていきます。
(大阪市立みどり小学校長)