巻頭言
心 の 花
織 田 智 永

 花が好きで、よく家に生けるようにしている。好きな花は色々あるが、芍薬を見かけるとつい手が伸びてしまう。芍薬は初夏の季節の我が家の玄関の定番だ。花開いた姿ももちろん好きであるが、特に好きなのは、蕾である。真ん丸で、大きな大きな蕾。何か希望がいっぱい詰まっているように感じさせる。どんな花を咲かせるのかこちらの胸にも期待を膨らませる。芍薬の蕾は、子どもに似ているのではないか。

 以前六年生を担任した子どもに、卒業した後しばらくして、会うことがあった。その子は中学校に入っても自主勉強をずっと続けていた。「偉いね。」と声をかけた所、「継続は力なり。」と書いているページを見せ、「先生からもらった言葉です。」と教えてくれた。私は、自分がその子にそんな言葉をかけたことをすっかり忘れてしまっていて、自分が少し恥ずかしく感じたが、言葉の力に驚いた。何気なくかけた言葉がその子の行動に影響したのだと。

 すぐには花は開かないが、蕾のような子ども達は、その心に沢山たくさん言葉をもらい、膨らませている。そしていつしか自分で花を咲かせる時が来る。私達の仕事は、たくさんの言葉を子ども達に与えることができる。花には、水をあげ光をあげるように、子どもには、たくさんの励ましの言葉を、温かい言葉を与えられるようになりたいと思っている。

 子ども達に、たくさんの言葉を与えられるようになるためには、自分の心のアンテナを張り続けていたいとも思っている。最近出会った言葉を紹介したい。写真家、星野道夫さんが遺された言葉だ。光村図書の六年生の教材に「森へ」という教材があるが、その筆者が星野道夫さんだ。アラスカに拠点を置き、アラスカの自然のすばらしい写真を撮り続けた星野さんは、取材中にクマに襲われ、一九九六年、四十四歳の若さで他界された。数年前、没後二十周年の展覧会が各地で開かれていたようで、たまたまその展覧会に行った私の妹が感動して、写真集を購入していた。その写真集に載せられていた直筆の言葉だ。

「短い一生の間に 心魅かれることに出合うことはそんなにおおくない 見つけた時は 大切に大切に…」

 星野さんの生き方に重なって、心に染みた言葉だ。今年度は六年生の担任なので、この私の心に響いた言葉を子ども達と共有できた。

 子どもは蕾に似ていると前述したが、大人の心にも、希望に似た大きな蕾はあるのではないかと考える。

 この仕事ができる残された時間で、子どもの心にも、自分の心にも大きな蕾を膨らませ、きれいな花を咲かせられるような毎日を積み重ねていきたい。
(大阪府守口市立八雲東小学校)